■お客様の印象に残らない(物足りない)スタッフの接客とは?
ここ数年多く聞く店長の悩みは「お客様と今後の関係を構築するために、お客様に興味をもってパーソナル情報を引き出したり、商品以外の話を弾ませてほしいが、それができないスタッフがかなりいる。そもそもお客様に興味をもっていないのではないか?」という内容です。
確かにそう言われるスタッフの接客を見ていると、礼儀正しく感じもよいものの、通り一遍のアプローチ、基本ニーズの聞き出し、商品説明、クロージングというそつのない接客で、お客様から見れば「求めるものは買えたが、特にスタッフの印象は残らない。」という心理になりがち。そうなると再来店や人対人の絆で顧客化することも難しくなります。
では当の本人は「お客様に興味がないのか?」というとそうでもないようです。
販売スタッフである以上、販売はしたい。だから「どんなお客様か?」ということは常にアンテナを立てて掴もうとしています。では、店長の想いと本人の認識の何が違うのでしょうか?
私見ですが、ギャップの要因として、
●スタッフ自身は「売りたい⇒どんなお客様か」ということへの関心・注意は向けている。
しかしそれは仕事柄、「何を探しているんだろう」「何をお勧めできるかな」「買ってもらえそうかな」という売り手側から見た関心・注意で止まっている。
●一方、店長が求めているのは、「様々な感覚やライフスタイル、こだわりを持ったお客様がわざわざお店まで来てくださる。そういう方々と少しでもパーソナルな会話をすることで新しい発見があったり、教えていただくことも多い。また、そこから一緒に求めていらっしゃるものを探し、提案する楽しさもある。そういうプロセスを楽しむためにも、“今度はどんな背景を持ったお客様がご来店かな?”という好奇心をもって「知りたい・教えてほしい」という気持ちで接していっていほしいという想い。
その違いがわからないと「もっとお客様に興味をもって!」といってもスタッフはピンとこない可能性が高いと考えます。
■なぜお客様に興味が持てないのか?を探っていくと・・・
では、その違いはなぜ生まれてくるのでしょうか?
多くのスタッフと一緒に話をしたり、接客を見ている中で気づくのは以下の点です。
①次々接客・業務をしなければならない中で、そこまで求められてこなかった。要するに「販売できれば良い」という前提がこれまで強かった。また、「そこまでしなくても売れる」という状況の中で、自分のパターンが出来上がった。
②かかわっていこうとしてお客様から拒絶された体験など、失敗体験が複数回あり、自己防衛のための無難な接客パターンを選択している。
すなわち、最初から興味がないわけではなく、環境的に必要なかったから、やろうとしてうまくいかなかったからというのが大半です。
しかし今は、お客様の流動化がさらに進み、商品だけの差別化が難しくなった中で、新たな接客の在り方を模索せざるをえない状況です。改めてゼロスタートで接客も見つめなおす必要がある。そういう意味で過渡期でもあります。
ただし、「お客様に興味をもって接客を!」ということを浸透させる際、目的が「顧客を作るため」「セット販売をするため」だけに閉じてしまってはもったいないと思います。なぜなら本来の興味とは、「面白味」を感じることにあるのですから。
お客様があなたのお店や商品に「興味」を持ってくださるのは、そこに何か「面白味」を感じるからです。
お互いにその「面白味」を最大化する中で、共感性も高まり、オープンな気持ちでコミュニケーションも取れます。
それによって、お互い知らなかった同士が知り合いになり、かつ心が通じ合う部分があるという関係にまで至る可能性があります。
そんな出会いが日々起こっているのが店舗というステージです。
そのステージを最大限に楽しむためにも、「興味をもって接客をする」ことは自分たち自身のためにもなることをスタッフに理解してもらうための工夫が必要となります。
■深堀り質問の威力と “お客様ご自身のパーソナルストーリー”の重要性
人間は子供を見てもわかるように本来は好奇心の塊です。自分の想定や知識を超えることを知った際の「へえ~」「そうなんだ」という新たな発見は心を浮き立たせます。
インスタやTiktokに詰まっている口コミ情報は、その好奇心を満足させてくれるからこそ人気でもあります。
しかし、知らず知らず私たちは日々の生活・経験の中で「これはこういうもの」という思考枠ができます。その中でやっていると安定感・安心感が持てますが、それはマンネリや無関心にもつながります。
接客でも同じような質問しかしていないと同じような回答しか返ってこない。
「何かお探しですか?」「ちょっと見ているだけです」「ごゆっくりどうぞ・・」
「お仕事用のバッグでしたら肩掛けがよろしいですか?」「そうですね・・」
「こちらの商品は素材が~ですから、軽いですし耐久性もありますからお勧めです」「よさそうですね・・。検討してみます」「是非」
このようなやりとりの中に「へえ~」「なるほど」はあまり生まれません。
もう一歩掘り下げてこそ、初めて「へえ~」のチャンスが生まれてきます。
「お仕事用のバッグですか。今お持ちのものはどういうものですか?」「そちらどのくらいお使いなのですか?」「まあ!大切に長く使われていたのでしたらさぞ使いやすいものなんでしょうね」「どういう点が使いやすいですか?」「へえ~、そういうお荷物をもって外出する機会が多いお仕事でしたら活躍しますね」「デザインも気に入ってらっしゃる?」「なかなかないバッグですから貴重ですね」(共感)「今回バッグを新しく探しておられるのは何かきっかけがあってですか?」
「実はね・・・・」
そこで初めてお客様の心の内を知ることができます。
それを知ることで、たとえば「第一印象と違った感覚をお持ちの方だな」「こだわりがそういう点にあるお客様なんだな」など“見ただけではわからない”ことが見えてきてさらに興味を惹かれる、という流れになるのです。
販売スタッフの話を聞くと、バッグひとつでもそのお客様にとっては単なるバッグではなく、様々な意味を持つことがわかります。
「20歳の記念におばあちゃんが買ってくれた大切なもの」「このバッグを持つと商談がうまくいく」「娘の形見です」「デザインがすごく好きで気分が上がる」「がんばって買った自分へのごほうび」「洋服は買えないからバッグでブランドを味わってる」「ブランドを持つと姿勢が伸びる」「かわいくて見てるだけで幸せ」「実用的で助かっている」。。。
同じバッグを買っていく人たちでも意味付けはそれぞれです。それを知ってこそ、仕事の面白みがさらに増えるだけでなく、自分の視野も広まり、創意工夫も生まれます。
「誰のために」興味を持つのか?それは決してお客様のためだけでなく、自分自身が仕事を楽しむため、ということを繰り返し浸透させることが顧客の満足を高める店舗づくりの基盤になります。
昨今、お客様の「へえ~」を引き出し興味を高めるために“ブランドストーリー”を徹底して伝えようという取り組みが盛んで、それ自体は素晴らしいことですが本当にお客様が欲しているのはそのブランドと関わる自分自身のストーリー、すなわち唯一無二の“パーソナルストーリー”であることも決して忘れてはいけないのです。
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