■そのつもりはなかったのに・・・”思わず買いたくなった体験”から見えてきたものとは?
先日あるこじんまりしたブランドショップの前を通り過ぎた際、ガラス越しに見えた中のディスプレイがとても美しく、ちょっと覗いてみようかな、という気になりました。初めてのお店なので少し緊張しながら入りましたが、10分後には「買わずにはいられない」という気持ちにさせられてしまいました!買う気など全くなかったのに‥なぜそういう気持ちになったのか?を自分なりに分析をしてみました。すると、以下の些細なことの積み上げであるということが見えてきました。正直入店する前は
*常連さんと思われるお客様が接客を受けている最中だったため「買う気もないのに入ったらちょっと迷惑かな?」
*ブランドのことも商品のこともほとんど知らないため「スタッフと話がかみ合うかな?」
*本音では買う気はないため「冷たくあしらわれないかな?」
という引け目がありました。しかし「せっかくの機会だから!」と意を決して、お店に近づきました。
心理ステップ1【第一印象で不安が期待へ!】
入ろうとしたその時、スタッフの一人が偶然外に出てきました。そして通りすがりにこちらに笑顔で「こんにちは」と、あたかも知り合いに声をかけるように優しく声をかけてくれました。その笑顔と、温かいトーンの一声で、上記の私の不安は半分以上吹っ飛んでしまいました。
なぜなら、「こんな優しそうな、入店もしていない人に対してまで、笑顔であいさつできるスタッフがいるということは、日頃からそういう温かな雰囲気で運営されているお店かな。ということは他のスタッフも優しいかもしれない」という気持ちにガラリと変わったからです。
そこで、勇気を出して自分でドアを開けて入ってみました。
心理ステップ2【質問されなくても、自然とこちらから話し始める!】
私が並べてある商品を見ていると、別のスタッフが近づいてきました。”売り込まれるかな?”と少し緊張しましたが、先ほどのスタッフ同様優しく「せっかくですから~しましょうか?」と商品を見やすいように並べ替えてくれました。また、程よい距離感で「初めてということでしたら、こちらも試されますか?」と提案してくれました。その際、スタッフの顔を見ると、本当に目をキラキラさせて優しく話してくれているのが伝わってきて「無駄に緊張する必要はなさそう」とリラックスできました。同時に「せっかく言ってくれているのだから、特に断る理由もない」という気にさせられました。
あれこれニーズを詮索するような質問をされることがなかったのも心地よさの理由でした。何気ない会話のキャッチボールをしつつ、勧められたものに対したとえば「この色合いが素敵。好みです!」と素直にリアクションしていました。スタッフも「はい!私もこちら好きなんです。~ですよね」とお互いに共感し合っているうちに、逆に聞かれてもいないのについついこちらから「実はね‥」と話し始めていました。それは「質問されたから答えなきゃ」という気持ちではなく、「この人とはもっと会話を続けたい。心地よいし、なぜ自分がここに来たかを分かってもらいたい」という気持ちにさせられていたからです。
心理ステップ3【商品説明より協働体験】
商品をいくつか試しながら、率直に感想を伝えると、共感しつつも「でしたらこちらの方がイメージに近いかも・・」と他のものを提案してくれました。こちらのリアクションを踏まえて、”一緒に最適なものを選んでいる”という感覚が徐々に生まれ、会話のキャッチボール自体が楽しくなってきました。気がつくと最初の緊張感は消え、自分が主役になって、数ある商品の中からベストなものを選ぶのを楽しんでいるという感覚になっていました。結果、「これはいい!」というものが見つかった嬉しさで、思わず心が弾み、笑顔になりました。
心理ステップ4【自分で選んだという感覚が、買おうという気持ちを強める】
スタッフは多くを語ることはなく、むしろこちらが質問したことに対しちょっとしたエピソードを交えて興味を高めつつ、「いい選択だと思います」と添えてくれました。自分で沢山ある中からこれに決めた、という気持ちが後押しをして「では、これにします」と伝えていました。スタッフはトーンを変えず「きっと~だと思います」と言いつつ、丁寧に包装してくれました。
この時点で、私にとってそのスタッフは売り手・買い手という関係ではなく、”いろいろ教えてくれつつ、いい選択をするようリードしてくれた人、協力してくれた人”という位置づけになっていました。また、お店全体の落ち着いた雰囲気が心地よく、ゆっくりとその時間を楽しめたという余韻も残りました。

■スタッフは売り込むためにいる人ではない!
なぜこういう接客が可能なのでしょうか?後で上司である店長に聞く機会があったので質問すると一言「きっと計算がないからだと思います」とのこと。もっと具体的に言うと、「売らなきゃ」とか「買ってもらわないと」というプレッシャーを感じていない(感じさせていない)、とのこと。
「それでどうやってビジネスが成り立つのか?店長の立場としてはやはり数字で評価されますから、そんなぬるま湯的にやっていると、数字的に行き詰って理想論で終わってしまうのでは?」と心の中で生まれた疑問をぶつけてみました。すると店長から返ってきたのは以下の回答でした。
私たちの仕事は、結果的に商品をお客様にお使いいただく架け橋になることです。もちろん、お客様がどの商品が良いか決めかねて「どうしたらいい?」と相談されてきた場合には、これまでの経験を踏まえて「お客様でしたら、○○だから、こちらがこういう点でお薦めです」と言います。が、そうでない場合は、私たちは、お客様にたくさんある商品の中からベストの選択をしていただくための”サポーター”です。サポーターはこちらから売りたいものを一方的に売り込むのではなく
*お客様が何にどう使いたいのか?
*ベストなものに近づくには、どういう判断基準が必要か?
*絞り込んだ後、最終的に決めるにあたって何が引っかかっているのか?
*それはどうすれば取り除けるのか?
をお一人お一人に寄り添って一緒に考えることです。
そのプロセスこそが、私たちの存在意義です。
やりとりの中で、お客様がご自身で考えておられることを自然と共有してくださり、商品を一緒に見ながらそれがどういう場面でどう使われるかというイメージを共有し、その中で何がどうベストかを一緒に考えるために私たちはいます。
時にはどうしても取り除けないネックもありますし、該当する商品と出会えなかったということもあり得ます。それはそれで仕方のないことですから、無理に売ろうとはしませんし、深追いもしません。
でも、そういう姿勢こそが、お客様が「家へ帰ってよくよく考えたんだけど‥」とまた来てくださり、私たちの商品から選ぼうとしてくださることにもつながっています。その結果として、おかげさまで数字もついて来ています。
スタッフには「1つ1つ大切な商品だから、売って終わりではなく、購入後こそ愛着を持って使っていただけるよう、お客様お一人お一人にきちんと向き合うように」と毎朝伝えています。なので、あまり大きな声では言えませんが、インバウンドの方で一度に大量の商品を「これください」で購入いただけるケースに出会うと、スタッフは喜ぶどころかちょっと悲しい気持ちになるといいます。なぜなら本当に大切に使っていただけるのかが見えないから、とのこと。私はスタッフのそういう純粋な気持ちが、長くビジネスをしていくうえでむしろ大切だと思っています。とのことでした。

■お客様はシビアにスタッフの”スタンス”を見抜く力を持っている!
買っていただくために努力をする、それはビジネスパーソンとしては当然です。それでこそ、成長するということも真実です。しかし、売上数字という結果の前の【プロセス】こそが、本当の意味で財産になる、ということをスタッフと深く共有していないと、「数字第一」という焦りが逆にプロセスに悪影響を及ぼすケースがしばしばみられます。焦りによって売り上げにつながらないだけでなく”将来の再来店の可能性も閉ざす”、すなわち将来の財産もつぶしてしまうことになりかねません。
では、「この人から是非購入したい」という気持ちはどこから生まれるのでしょうか?スタッフの接客技術は当然大きく影響します。が、本当の意味でお客様の心に刻まれるのは、スタッフが自分に接している時の”スタンス”です。スタンスとは「物事への向き合い方」を指します。スタッフが接客のプロの観点でお客様を観るように、お客様は買う側のプロ、つまり、お金、特に高額を払うということに対し真剣にならざるを得ず、だからこそブランドブティックで接するスタッフがどういう意識で自分と向き合っているかを普段よりも鋭い嗅覚で感じ取ります。
「口先ばかりの人」「本音は別のところにある」ということをちょっとした動作や言葉から感じ取る。それがお客様の買い手側としてのスキルです。特に買い物に慣れた富裕層やシニアほど、それを鋭く見抜く傾向が強いと言えます。だからこそ、お客様に対してどういうスタンスが必要かを店長は日頃からスタッフに刷り込んでおくことが大切です。
個人的体験ですが、私が新人の頃上司が教えてくれたキーワードの1つが「先義後利(せんぎこうり)」。耳にしたことがなく、意味を聞くと「まず義(相手・社会にとって正しいこと)を優先し、その結果として利益がついてくる、ということ」。言い換えると、短期利益に走らない誠実なビジネス姿勢を、という教えでした。当時私は自分の評価のために成果を焦って、「どうすればお客様からのアンケートの結果が良くなるか」で頭がいっぱいで、小手先のテクニックに走りがちでした。しかし、そうすればするほど、アンケートの結果が低迷し、上司から注意される始末。「こんなに頑張っているのに‥」という矛盾感でいっぱいでした。その時改めて教えられたのが、この言葉でした。短期の成果ばかり焦っても、結局は見抜かれてしまう。ごまかしは通用しない。それよりも、等身大の自分をしっかり成長させる。お客様も成長し続けている以上、私たちはそれ以上に着実且つ高みを目指して成長することが大切、と言われました。ある意味、見抜かれてしまうということに怖さを感じましたが、上司は「その恐れる気持ちこそが大切」と言ってくれました。

■出会いが余韻として残るスタッフの共通点
私が「感動」を覚えるスタッフは共通して、商品に対しても、接客という仕事に対しても、お客様と向き合うことに関しても「愛」が感じられる人です。愛とは「その価値を認め、大事に思う心」。「愛」があるからこそ、言葉に深みが出るし、最適と思えるものを一緒に選びたい、という気持ちが伝わってきます。結果、商品1つ1つもさらに素敵に感じられ、商品と一緒にこのスタッフとの出会いも大切に思える。気がついたら「これが欲しい!」という気持ちになっている。そういう心の動きが自分でも不思議だけれど、新しい可能性を感じさせてもらえたという余韻が残ります。おそらく、お客様側だけでなく、スタッフ自身にとっても売れた喜び以上に、価値をお客様と共有できた喜びの方が彼ら、彼女らの輝きの原動力になっているのだと感じます。
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