■実は高度なスキルが求められる”チーム接客”
欧米人が初めて見て驚くものの一つが、日本の伝統的な”餅つき”。今ではほとんど見る機会もなくなりましたが、杵を振り下ろす人(つき手)と合いの手である餅をこねる人の絶妙なかけあいがうまく調和して、あのリズミカルな餅つきになります。しかし当然リスクも伴います。杵を持つ人がよろけてタイミングがずれると、杵がこねる人の手に当たってけがをすることもあります。気持ちよく呼吸を合わせておいしいお餅をつくるには、実は事前の準備や手順の打ち合わせ、そして相互信頼が非常に重要です。
これを店舗の”チーム接客”にあてはめて考えてみましょう。
顧客づくりのためにも「チーム接客=積極的に他のスタッフの接客フォローに入る」ことが奨励されます。複数での接客の方がお客様は”もてなされている”という印象をお持ちになる上、こちらもお客様情報を同時にシェアできます。次にどちらかのスタッフがお休みでも、もう一人のスタッフがスムーズに対応もできます。
が、「その重要性はわかるけど・・実際にやるとなると意外に難しい」と受け止めているスタッフも現実にはかなりいます。
その理由を聞くと主に以下の事柄が挙げられます。
【フォローに入る側】
①スタッフそれぞれ、接客の癖や好みがあり、自分がフォローに入ることで、逆に接客の流れを壊して不快感を抱かせてしまうリスクがある(でしゃばりすぎず、かといって受け身すぎず、というバランスが難しい)☞メインスタッフに迷惑をかけたくないから積極的に入れない
②接客は生き物なので、ケースバイケースでどのタイミングで何をすることが適切なフォローになるのかはっきりしないため、自信がない☞「ここ、と思うところで入って!」と言われても・・・タイミングがつかめず入れない
③自分がフォローに入って売れても当たり前のような顔をされたり、逆に自分が接客しているときにはフォローに入ってくれない先輩もいる。なんだか不公平。☞接客フォローの他にもやらなければならないことがあるし・・やめておこう
【フォローに入ってもらう側】
①事前に顧客様の情報や接客の流れを共有していないと、的外れのフォローになり、ぎこちない接客になってしまう可能性もある☞自分だけで接客する方が楽
②他のスタッフもやることがあるだろうと思うと、依頼しにくい☞嫌な顔をされたくないから自分だけでやる方が気が楽
②でしゃばったり気が利かないスタッフが無理にフォローに入ると、調和が崩れるし、むしろストレスになる☞安心して自分スタイルの接客ができない
など、まさに日頃のスタッフ間のチームワークの度合いや信頼関係度合いを反映しているのが”チーム接客”といえます。上記のようなスキル及び心理的な壁があると、奨励しても実際にはなかなか浸透しません。
ではどうすれば、その葛藤を乗り越えて”チーム接客”を浸透させることができるのでしょうか?
■秘訣①事前打ち合わせと接客終了後の「フィードバック」
私が知っている信頼関係が強いチームでは、上記の葛藤を次のように乗り越えて”チーム接客”を当たり前に実践しています。お客様や百貨店からもチームとしてのおもてなしが素晴らしいとお礼やお褒めの言葉をもらうことが多い店舗です。新人でもかなりスムーズにフォローに入っていて驚くレベルです。
その店舗の店長の話を聞くと
「チーム接客は実際に難しいので、最初はフォローと言っても気が利かない、でしゃばりすぎなどちぐはぐだらけ。売れるものも売れない、ということもあります。ただ、そういう実践練習を積まないことには、本当の意味で「どのタイミングで、何をどうすることが良いフォローなのか」は掴めません。ですから、うちのお店では新人とベテラン、などのペアを組んで、相互にフォローに入ってもらいます。大切なのは、事前の打ち合わせと終わった後のフィードバック。ベテランから新人に「こういう時にこうしてもらえると助かります。なぜならば・・・」ということを伝えてもらい、実際の接客の後にどうであったかを一緒に振り返ってもらいます。逆にベテランが新人のフォローに入ったときには「どういう時にどうしてほしいですか?」を確認し、終わった後謙虚にフィードバックしあい次に生かしてもらいます。そういう打ち合わせとフィードバックを重ねるうちに、新人であっても「フォローに入ったスタッフ任せ」ではなく「フォローに入るスタッフにどう動いてもらうのがベストか」を考えて依頼をしたり、接客するようになります。それができてくると、担当のベテランスタッフ以外のスタッフにフォローに入ってもらう際にも「こういうことがあったら、こういう合図をしますからその時こうしてもらえると助かります」と事前に自分がしてほしいことを伝え、終わった後二人で振り返りができるようになります。
且つ、それを重ねるうちに、スタッフ同士「〇〇さんはこういうフォローが好み」ということを共有するため、安心してフォローに入れますし、入ってもらった方も素直に「ありがとうございます。~をしていただいたので、無事販売できました」と具体的に感謝とフィードバックができるようになり、それがチームワークの強化につながっています。」
とのこと。
お互いに遠慮があると、「本当はもっとこうしてほしいのに・・」という気持ちがあっても、波風が立つのを恐れて「どうもありがとう」ぐらいで濁してしまい、それがストレスとなって「フォローに入ってもらいたくない」という気持ちにつながってしまいます。同時に、スタッフ間のスキルアップの機会も失われます。フィードバックしあうからこそ、フィードバックする側も接客を一度振り返って「何がベストだったか」だけでなく「次、どうすべきか」を具体的に抽出します。それが大きな成長につながります。感情的ではなく、事実や根拠を明確にして伝えあう風土も醸成されます。それは接客を重ねれば重ねるほど、チームのレベルが上がっていくということを意味するのです。
■秘訣②フォロー実態の見える化
もう一つの秘訣は「見える化」です。よくあるケースが「手が空いていたらフォローに入ってください」という依頼ですが、スタッフとしてはやるべきことは複数ありますから、「今フォローに入るよりは~をした方が・・」という気持ちや「今は手が空いていても、途中でお客様が入店される可能性もあるし・・」という気持ちになると、積極的にはフォローに入れません。それを続けるうちに、どんどん億劫になってしまいます。
それを乗り越えるには「誰が、誰のフォローに入ったか」をきちんと見える化して共有することです。シールを貼る、でもいいですし、正の字を書いていく、でもOKです。売れても売れなくても、フォローに入った、という事実をきちんと”見て分かる”ようにすることで、スタッフの意識も高まります。それがあれば、店長として各スタッフと話をする際も「私なりにやっています」というあいまいな情報をもとに、ではなく
・他のスタッフと比べて少ないのは、何か阻害要因があるのか?
・入っている割に成功確率が今ひとつなのは、何がネックなのか?
・フォローに入るスタッフが偏っているのは、何が理由か?
等を掴んで、公平かつバランスよくフォローに入れる環境づくりに役立てることができます。
且つ上述の店長いわく「積極的にフォローに入って販売やお客様満足アップをサポートしたスタッフに対しては、フォローされたスタッフはもちろん、店舗全体でも賞賛や感謝の言葉をかけるようにしてます。それによって本人も誇りが持てますし、後輩がそのスタッフに具体的なやり方について質問もできますから、まさに一石二鳥です!」。
ラグジュアリーブランドに限らず、お菓子屋さん、雑貨屋さん含め私が「このお店はすごいな」と思う瞬間とは、各スタッフの対応スキルが高いというだけではなく、”居心地の良い空間づくり”という共通の目標に向けて、各自が来店されているお客様に関心を寄せて、声かけをはじめ、できることを積極的に行おうとしている姿勢が当たり前に醸し出されているのを感じるときです。あなたのお店はいかがですか?
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