※このブログについてー環境変化の中でたゆまぬブランド価値創造を実現する秘訣を発信します。
・30年以上にわたり、大手ラグジュアリーブランドの日本におけるビジネスのスタート~成長~成熟プロセスを直接見てきた筆者が、各ブランドが
*どのようにブランドイメージを形成し
*どのようにブランド体験を向上させ
*どのようにブランドの進化を具現化してきたか
を組織の中で支える人達の考え方、苦労、取り組みの観点で鋭く探ります。
「完璧が当たり前」ーお客様に鍛えられるブランドの表舞台
ラグジュアリーブランドスタッフからよく聞くのが「日本人のお客様は特に細かい」という声である。
ラグジュアリーである以上、大前提として“傷一つない”ように製品の検品はもちろん、保管・取り扱いなどルールにのっとり細心の注意を払って管理している。接客での白い手袋はある意味それを象徴している。
しかし、日本人のお客様は商品自体は気に入っていても「では、こちらでよろしいでしょうか」と確認すると、たとえば革の風合い上微細な皺や傷が入っていると「気になるから、これが入っていないモノはないの?」とおっしゃるケースも多いという。
私からすると、「それは、1点1点違うという味わいだし、新品をおろして1回使えばどちらにせよ傷はつくのに」と思うが、「とにかく完璧に!」というこだわりを持った方が多いようだ。
スタッフも「せっかくなら気持ちよくお使いいただきたい」ということで、他の在庫品と比較して納得いただけるまで丁寧に見せる。
そしてラッピングも含め完璧を期し、最高の気持ちでお持ち帰りいただけるようトレーニングを積んでいる。
ディズニーランドと同じで、「非日常のラグジュアリーな時間・空間」を楽しんでいただくための重要な演出である。
「日本のおもてなし」はしばしば賞賛の対象になるが、実は“細かいことにこだわるお客様層”が、いやがおうにもスタッフの
“些細なことに気づく力”を養うことにつながっている。
ブランドを陰でしっかり支える修理部隊
一方で、私がブランドの“底力”を見るのは、実は「傷がついた時」である。
といっても、不良品を販売した、ということではなく(ブランドの多くは、不良率は驚くほど低い)お客様が使用する中で不具合が発生した、というケースである。
お安いものではないため、壊れたものを簡単に捨てて新しいものを買うという判断の前に、「何とか元の状態に直せないか」という気持ちになるお客様が多いのは当然と言える。
しかし、売る側としては、新作も続々でていることから、正直「買い替え」の方がビジネスチャンスになる。
修理対応となると実をいうと、お客様と修理窓口との間に入ってやりとりが煩雑なケースも多く、それによって接客や業務の時間がとられる。その割には、たとえ有償修理であっても修理会社に支払う分、特に利益にはならない。むしろ一歩間違うと修理上がりの際に「イメージと違う!」とクレームに発展するリスクもある。
また一言で修理と言っても製品ラインナップも広く、症状もまちまち。つくられた時期によって素材や製造法にも個性がある。それらを踏まえて「修理体制」をつくるとなると、症状確認~見積~必要に応じて部品取り寄せ~職人の手作業~テスト・・・一連の工程はかなり時間と気を遣う。
実際に修理をしているプロセスのビデオを見ると、職人さんがお客様の預かりものである以上、本当に細かな部分まで丁寧に(それこそ傷をつけないように)分解し、磨き、ほんの数ミリの部品を交換し、再度細心の注意で組み立てる姿が映っている。何度もあらゆる角度からチェックし、新品を創るよりエネルギーがいるのでは、とすら思う。結果的に国内では任せられる会社・人数も限られてしまうという。
しかし、視点を変えると「普通はやりたくない」「簡単にはできない」という修理体制まで含めて顧客体験をデザインし、しっかり取り組んできたことが、実はブランドの信用に大きく貢献している、と言える。それも30年以上も前から、計画的に投資をして修理体制を整えたところに先見の明がある。
「売って終わり」のビジネスモデルではなく、「長く大切に使ってもらえるようにする」→「商品の真価が実感してもらえる」→「その実感をもって家族や知人に語り継がれる」→「歴史がその実力を証明する」→「時を超えて輝き続ける」というサイクルである。
決して前面には出ないものの、日々ややくたびれた製品と向き合い、再度息を吹き込み、美しくなって親元へ返す、その時のお客様の感動を想定しつつ黙々と作業に没入する。少しでも早く返せるよう、日々、より効率的に作業するには?という課題に取り組みつつ、そのスキルは伝承されている。それは陰ながらブランドを支える修理部隊のプライドであろう。
時代を超えて支持され続けることがブランドの真価、と前回のブログで書いたが、それは表舞台の話だけではなくこうした裏部隊も包括したサービスデザインがあってこそ実現できるのである。
投稿者プロフィール(袋井 泰江) サービスデザイン研究所コンサルタント。様々なラグジュアリーブランドのコンサルティング・研修を通して多くの生の声からブランドビジネスの変遷、「ブランド価値の創造」「ブランドの世界観の構築の仕方」などをつぶさに見てきた。それはこの業界に限らず、他業界にも通用するノウハウがあることから、このブログを執筆。 |
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