ラグジュアリーブランド店長ブログ

ラグジュアリーブランドの路面店が果たすべき役割とは?:ブランド店長問題解決講座(9)

■場のエネルギー、実物の迫力

買いたいものがあっても、暑さが厳しく外出がおっくう、重いものをもって帰ってくるのが嫌、探し回る時間がもったいない・・要は面倒、という悩みをいっきに解決してくれるのがオンラインショッピング。
比較もできる、解説も読める、レビューも確認できる、関連商品も簡単にみることができます。
もったいないと思っていた買い物時間も、ネットでいろいろ検索していると時間を忘れ、のめり込んでしまいます。

「それに比べると、店舗は限られた商品しか置いてない、聞かないと深く解説してもらえない、買わされるかもという心理的圧迫を感じる」と言う人も増えています。オンラインショッピングの成長はそういう顧客心理の反映でもあります。

そんな声に対し、もっともだ、と思う一方、“ラグジュアリーブランド”となると、同じようにはくくれない、とも感じます。

ある本に書いてありましたが、どんなにインターネット上にある精巧に写された名作と言われる絵画(の写真)を眺めても、やはり美術館に足を運び、実物の前に立ったときに感じる本物の迫力や周囲の空気も含め、その場で感じる興奮は体験しえない、と。

人間は目・耳・鼻・口・手などの五感を使って体感することで、脳がフルに活性化し、“ぎゅっと凝縮された濃い情報”、言葉では表せないレベルの情報を一瞬にして受信するからです。

それが一種の「体験」です。

「体験価値」とよく言われますが、ジェットコースターに乗る、釣りをする、という動作というより、その動作を通して簡単には説明できないほどの量の多面的な情報を五感と脳で感じとることにこそ意味があります。そこからスリル、ワクワク、悔しさ・・という感情が呼び起こされ、それが時に想像や期待を超えた感動につながるのです。

■ラグジュアリーブランドの路面店の役割

ラグジュアリーブランドはその感動レベルを直接的にお客様に感じていただくべく、たとえば“路面店”を出します。

路面店はブランドの「世界観」を表す、と言われますが、コンセプト作りから、実際の仕上がりまで、ブランドとして五感を通じて感じてほしいことを細部にわたりこだわって具現化します。床、天井、壁、装飾、どれ一つとっても調和を崩してはならないのです。

つまり、そこに足を一歩踏み入れただけで「場」の力が働くようにとプロの目でデザインされ、仕上げられているのです。

その重要なパーツとして商品も置いてあります。

くどくどした説明の前に、まずは目から入る情報、香り、触れた感触等から重厚感や楽しさを感覚で感じ取ってほしい、そんな思いが店舗デザインに込められています。

だからこそ、路面店はまさに宝石箱、アートと言えます。

 

ビジネス的に言えば、路面店はコストが嵩むうえ、百貨店ほどの集客も難しい、外商特典も出せない、など不利な要素もあります。しかし、ネットでもカタログでも伝えきれない凝縮した情報を伝えるには、やはり「本物を体感する場」が必要です。

そう考えると、まさに店舗はブランド側からすると非常に重要な「メディアスペース」です。

しかし、そのスペースをどれだけその目的に向けて意義あるものにできるか?はデザイナーの手を離れ、そこに属する店長・スタッフの力量となります。

その際一番の壁は、お客様の情報の受け止め方は様々であるという点です。

単に美しく整然としているだけでは、「このブランドはたかぴしゃで何となく冷たい。お客を軽く見ているのでは?」という誤解も生まれることもありえます。

伝えたいと思うことと、実際に伝わることは別物なのです。

そのギャップを埋めるにはどうしたらよいのでしょうか?

人は静止したものより動くものに目が行きやすい。つまりどれほど素晴らしいモノでも、人が動いていれば、そこに目が行きやすい。

店内で一番動くのはスタッフです。だから何よりも注目を集めてしまいます。

まさに動き、しぐさ、表情、発する言葉、すべてを通してブランドの想いを凝縮して発信するカギとなる存在といえます。

同時に「体験価値」となると、双方通行のやり取りを通じて、「心が通いあう」「つながりを感じる」と受け止めてもらうことが余韻につながり、「また体感したい」という感覚を創り出します。

そう考えるとスタッフは単に販売するためにそこにいる人、ではなく戦略的に非常に重要な位置づけとなります。

■ブランド店長の役割―意識的にワクワクを創り出す思考を!

しかし、人間は慣れの動物でもあります。どんなに素晴らしい空間に身を置いていても、スタッフからすれば毎日同じような光景を見、同じような説明をしているうちに知らず知らずすべてが当たり前になってしまう。つまり自分たち自身の感動が薄れていきがちです。

ブランド店長の役割は、まさにこの「当たり前」との闘いでもあります。

いかに与えられた貴重なメディアスペースを今日も価値あるものにできるか?いかにワクワクできるものにするのか?

お客様を飽きさせないだけでなく、スタッフを飽きさせないよう、一日一日のワクワクを創り出す仕掛け、体制づくりの工夫が必要となります。

「数字数字」だけでも人は動きません。日々の些細なことにも新たな発見や気づき、新鮮な学びを見出せるように思考のトレーニングをすることも実はブランドに対し大きな貢献になっているのです。

ある路面店店長いわく「あるお客様に”あなたたちはいいわね、毎日こんな美しいものに囲まれ、こんな素敵な空間にいられて。おのずと気持ちや感性も豊かになるわね。私もこんな空間に浸っていたい”と言われて、はっとしました。最初は私もそういう感動がありましたが、今では淡々とやるべきことをやって、と流されてしまっていて。そこから気持ちを切り替えて、毎朝スタッフに声掛けをするようになりました。”この美しい素敵な空間を死んだ空間にしてはいけません。むしろここで素敵な非日常に触れてrefreshしていただき、新鮮で前向きなエネルギーを持ち帰っていただくために、今日も何ができるかを挙げてみましょう!」

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