ラグジュアリーブランド店長ブログ

スタッフの強みを効果的に引き出すために、押さえるべき2つのポイント!:ブランド店長問題解決講座(29)

■スタッフの行動強化の魔法の一言:「ありがとう」の威力

私は、四季折々の変化を楽しむために住まいに隣接する遊歩道を散策するのを楽しみの一つとしていますが、その途中にご近所の方々とのささやかな触れ合いがあります。どちらかというと私自身は自分の世界に没入したいタイプなので、すれ違いざまに笑顔で会釈、が通常です。が、ある日ご近所にお住いの車いすの女性に「おはようございます。今日もいいお天気で良かったですね」と付け加えて通り過ぎました。ところが数メートル行った先で、その女性は車いすを止め、くるりとこちらを振り返り、おなかに力を入れて「声をかけてくれてありがとう!」と言うのがはっきり聞こえました。
たった一言ですが、私を幸せにさせてくれた一言でした。と同時に、「この人にはこれからも挨拶だけではく、何かひと言声をかけよう」と思いました。

考えてみれば、昔から「ほめてやらねば人は動かじ(ず)」という言葉もあるように、ほめられたり感謝されると、人はその行動を次から意識的にとるようになる傾向があります。いわゆる「行動強化」と呼ばれるものです。
小さな子供でも、「お手伝いしなさい!」と言われて「叱られるのが嫌で仕方なく動く」ことはあります。しかし、そういう嫌々な気持ちでやるところからは「主体性」や「積極性」はあまり期待できません。
一方で、ごほうびがもらえなくてもすすんでお手伝いをすることも多々あります。先日も幼い子が率先して他の人の靴を揃えていました。おそらく過去の体験から、「これをやれば、きっとほめてもらえる」「ありがとう、って感謝してもらえる」というワクワク感や期待感が行動を後押ししているのでしょう。

仕事に置き換えれば、責任上やらなければならない、とわかってやっている仕事以上に、主体性や積極性をスタッフに求めるのであれば、インセンティブとしてお金や役職をちらつかせるだけでなく、「喜ばれる」「感謝される」「すごいと言ってもらえる」などの欲求をきちんと満たしていくことが重要です。
その一つがこの「ありがとう」ですが、同じありがとうでも、以下の2つのポイントを入れることによって相手に与える影響力の大きさも変わってきます。

1)具体的な行動にスポットライトを当てる

予算達成など、明確に評価されることであれば、インセンティブも含めフィードバックはしやすいものです。
しかし、意外と大切なのは、ルールでは決めきれない誰がやるかはっきりしていない業務です。率先してやったところで、人事評価に反映されるかわからない、縁の下の力持ち的なサポート的な業務。
「そんな時間があるのであれば、自分の業務か、数字につながる仕事をしたい」「自分がやらなくても誰かがやってくれる」という意識が蔓延しているところでは、一体感も創りにくくなります。
もちろん、あいまいにしないのが一番ですが、とっさの時も含め、各スタッフが自分の担当外のこういう業務に積極的に手を差し伸べることができるようになってくれると、チームワークもスムーズになり、店舗としての基盤も固まります。
では、どうすればよいのでしょうか?
店長としては、スタッフ一人一人のとっさの判断や行動をまずはしっかり見て、具体的にどういうときに、どういう行動をとったことがどう素晴らしいのか?を本人が認識できるように伝えてあげることが大切です。
「さっき、○○さんが接客で手いっぱいの時に、お見せした商品をあなたがさりげなくきれいに直したり、片づけるのを見て、ありがたいな、と思いました」など。

2)具体的な行動の奥にある素晴らしい点をしっかり伝える

ただ、たいていのスタッフは「たまたま私の手が空いていたので・・。たいしたことではありません」と謙虚な気持ちで受け止めます。
それをスルーするのではなく、「手が空いていても、○○さんの接客に関心をもっていなければできないことですよね。常に自分のことだけでなく、店舗全体が気持ちの良い空間になるように気を配ってくれる点が素敵だなと思いますよ」「他のスタッフも感謝していると言ってましたよ」と、具体的な行動の奥にある日ごろの言動や努力に感心していることを気持ちを込めて伝えてみることが重要です。

それはスタッフに対し、2つの点でインパクトを生みます。
1つは、店長がそういうさりげない点も見ていてくれる、という店長に対する感謝の気持ち
もう1つは、“自分が日ごろから仕事上考えていること”は、主張するだけではなく、こういうさりげない行動の積み重ねを通して周囲に伝わる、という事実。
そこから、「こういうことをさらに大切にしていくと、いいことがある」という確信がもてるようになり、行動に弾みがつきます。
それが気づいたらその人の強みになっていくことも多々あります。

店長としてプラスの影響力を発揮していくための武器は実は手元・足元にたくさんありますが、それも使わなければ宝の持ちぐされ。逆に必要に応じて工夫しながら使えば使うほど、幸せの輪が広がっていきます。

車いすの女性は私に対してだけではなく、他のご近所さんにも会話の後必ず「声をかけてくれてありがとう」とはっきり伝えています。
だから、彼女に声をかける人は多く、あちこちで笑顔で会話している様子を見かけます。
彼女の一言は、東京というお互いに名前も知らない大都会であっても、出会いがしらに挨拶しあうのが当たり前という穏やかでいやされる空間を創り出すことにつながっていると感じるこの頃です。

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