ラグジュアリーブランド店長ブログ

逆境の時にこそ問われる店長の真価とは?:ブランド店長問題解決講座(18)

インバウンドが消えた!来店客が激減!リスクだらけの毎日!―冷静に状況を見る目を持つ重要性

12月に「武漢で正体不明のウイルスにより死亡した人がいる」「新型の致死型ウイルスか?」という小さな記事を見つけた。通常であれば「日本ではない遠くの場所で起こっていること」で済ませてしまいがちなのだが、なぜかその記事が妙に気になり、関連記事をあたってみた。どうも通常日本人は口にしない蛇か何かから感染した疑いとのこと。いつもなら「ふ~ん」で終わるところ、数日後その感染数が不気味に増えていたことで、「もしかしたら・・」という怖さを感じたことを覚えている。

それが、2か月後には世界中を巻き込み、改めて全世界及び各国ごとのリスク管理や医療体制、政治的対応力などを大きく試す状況を引き起こした。
そう、今回のコロナは「中国の都市の中のある一角」が、全世界につながっているというグローバリズムのインパクトを実感する事件でもあると同時に、従来型の人を介するビジネスのリスクを踏まえ、おそらく今後は「人を極力介さないビジネスモデル」をより本格的に模索する動きが加速するとみられている。

すなわち、店舗にいる間にも私たちは世界の動きの影響を刻々受けており、また目先だけではなく、その影響がこの先どうなるかを考えておかないと“いざ”というときどのように判断し、対応すべきか全くわからない状況に置かれてしまう。
そう考えると、店長として自ビジネスに直接・間接的にかかわる事柄に関する情報アンテナを立て、収集するとともに、自分なりに「もし~したら、こうなる可能性があるな」「もし~となったとしても、~という見方もできるな」などそこから多面的に考える習慣をつけておくことが、従来以上に非常に重要になっている。

今回の件でも、複数の店長と話をしていると日ごろの習慣の違いがこういうときにこそ大きな違いとなって出てくるということが分かる。

ある店長は「突然百貨店自体に人は来なくなり、接客回数も減って、うちだけじゃなく周りも大変と言っている。どうしようもない」と、目に見える事実をそのまま受け止めて悲観して終わっている。

しかし別の店長は「イベントも中止になり、見込んでいた数字もとれていないという事実はあります。ただ、これまでインバウンドの頼りすぎていた面もあります。こういうことはこの先も当たり前に起こりうると思うので、改めて強い店舗を創るために何が必要なのかを洗い出しています。いつかは事態が収まるので、その時に“厳しい時期にこういうことをやっておいてよかった”と思える状況を創るために、時間を有効に使います」と言っていた。
具体的に何をするか聞いてみると、昨年の結果を振り返り、自店の問題点の分析と課題からアクションプランを導き出していた。
「“結果的に目標が達成できた”、というだけではなく、“目標を達成するために何をしたか”こそが、強さを創ると思っています。
今回の状況も数か月続けば、目標達成は難しくなると想定されます。でも“だから何をやっても仕方ない”ではなく、その中でも“これをやればどこまでいけるか”がスタッフの成長にもつながります。スタッフが不安にならないためにも、その課題を一人一人にしっかりわかってもらい、取り組んでもらえるようにすることは私の責任ですから」と特に気負いもなくさらりと言われた。

リテールを取り巻く環境は常に様々な要素が絡み、永続的・固定的な安定などは存在しない。むしろ安定した状態を確保するために努力するのみである。ただ、その要素がさらに多岐にわたり複雑化する中で、これまで以上に「今何が大切か」を考えてスタッフをリードできるリーダーが必要になっている。それをいわゆる「戦略的リーダー」と呼ぶ。

どうすれば戦略的リーダーになれるのか?

戦略的であるとはどういうことか?いろいろな角度で様々な定義が存在するが、店長という立場で考えると
①常に自店の強みとチャンスを見つけようとしている
②そのためにも、競合を含む他店の情報や世の中の動き・流れに関する情報を積極的に得ようとしている
③①②から、今取り組むべき重要課題を絞り込んで、それをスタッフを巻き込んでとことんやりきろうとする
ということが必要と言える。

数字が思わしくないと私たちは自然と自店の「弱み」や「脅威」について考えたりする。「~が足りないから・・」という理由をどこかで考えてしまう。あえてそうではなく、「他店でできていなくて自店でできていること」「お客様がそれでも評価してくださっていること」「最近現れてきたポジティブな変化・動き」などを意識して見ようとしているかどうかが重要である。
そうしないと「これをやろう」と決めても「でもできないかも・・」という奥底の心理が行動にブレーキをかけてしまう。
また、どうしても数字が悪いとあせって「あれも、これも手を出す」という行動に出がちである。そこをあえて我慢して「これをやれば結果的に波及効果で~もできるようになる。だから、まずはこれにとことん取り組んで結果を出そう!」とリードするほうが、スタッフもわかりやすく、結果も出やすい。

たとえば、セット販売率を伸ばしたい、となったとき、ただ「関連商品をお勧めしましょう」「フォローしてあげましょう」「商品知識も高めましょう」「在庫も確認しておきましょう」と言われても慣れていないスタッフは「難しいなあ」と感じるだけである。

戦略的リーダーはそういうときに、
a.「うちのお店はこれまでの傾向から、リピーターの方のセットでの買い上げ率が新規の方より●%も高いです。主な理由としては1回目よりさらに深くお客様とコミュニケーションがとれ、個別のお好みを踏まえたコーディネート提案ができていることが挙げられます。これは私たちの強みです。それを伸ばしていきたいと考えています」
b.「ですからまずは既存のお客様には必ずセットでお勧めすることを徹底しましょう」
c.「そのためには、必ず担当のスタッフ+1名つく、を徹底します。なぜならお客様の傾向を見ると複数点買われている場合は担当スタッフと密に相談しながら~ができたから、というお声をいただいているからです。そのためにはフォローが必要です」
d.「そのフォローのスタッフの役割としては、2つあります。この○○と△△をフォロースタッフは徹底します」
e.「その結果をフィードバックしあい、より効果的・効率的な接客フォローの仕方をマニュアル化していきます」
f.「そのマニュアルに沿って動くことによって店舗全体のセット率を上げていきます」
g.「取り組む中でもっと良いやり方があればマニュアルは更新していきます」
h.「まずは準備期間として~をし、●月●日から●月●日までやって結果を検証しましょう!」
g.「最終的には誰もがスムーズなフォローをしあえてお客様に心地よくたくさんお買い物していただけるお店にしましょう!」
と、「それなら行けそう」というストーリーを根拠をもって示し、且つそこからスタッフ自身の行動やアイディアを加味して成功に導こうとする。

本来は「やってみないとわからない」ものではあるが、「やる価値がありそうだ」とわかればスタッフはネガティブなことを考えているよりは、結果を出したいと思っているから動き出しやすい。
逆境の時ほど、どのように行動し、スタッフのモラールを維持するかというリーダーの真価が問われる。それは万一短期的な数字につながらなかったとしても、着実にスタッフのスキルアップやチームの基盤づくり、そして何より店長自身のリーダーシップに磨きをかける重要な時間として与えられている時期と言える。
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