■「常識」を知らないスタッフがいることで生まれる店長のストレスとは?
先日、ある店長から相談を受けました。些細なことなんですが‥と前置きをした後、「常識を知らないスタッフがいて」とのことだったので、具体的に何が起こっているのかを聞いてみました。すると、数か月前に配属された新卒のスタッフに関して以下のことが挙がりました。
●出勤時間ぎりぎりにバタバタと入って来る。先輩たちはちゃんと来ているのに。そこで「もう少しゆとりを持って」ということを伝えると「就業規則には9:30となっています。9:30にはちゃんと間に合うように来ています」と言われました。確かにルール上はそうなんですけど・・
●突発的な休みの申請を当日の朝、LINEで「体調不良で休みます」と言ってくる。本人としては「ちゃんと連絡した。既読になっているから、問題はない」と思っている様子ですけど・・・
●髪型に関して、会社のガイドラインでは”目にかからないように”という指示があります。確かにそれはできているんですが、もう少し前髪をあげてピシッとまとめてくれた方がブランドイメージに合うと思うけれど・・・
●屈託がないと言えばそうなんですが、先輩に対してもフランクな言葉遣いで・・。先輩スタッフは気にしていないようだし、悪気はないと思うけど、けじめがついていない印象で・・・
などなど。こういう事象は確かに一見些細なことで、よくあることですが、問題は店長の「・・・」の中身です。口にはしませんが、私なりに推察を働かせると以下のように続くのではないかと思います。
●明記されたルールではないけれど、いわゆる常識では、ゆとりをもってくるものじゃないの?
●LINEは便利だけど、休むにしても申し訳ない等の配慮も必要。自分の立場ではなく、相手や周りの立場でもっと考えてほしいけど
●「親しき中にも礼儀あり」ということわざもあるし、先輩が注意しないからと言って、常識レベルで判断してほしい
●こまごましたことが大切だからいろいろ言いたいけど、本人は悪気があるわけじゃないし、小姑みたいに思われると嫌だし、下手にこじれてモチベーションを落とされても困るし
●ちゃんと、なぜこうでなければならないかを明確に伝えられる自信もないし・・・
その結果、店長のストレスがかさんでいく、という図式です。もしスタッフが「常識」を持っていてくれればこんなことで悩まなくてもいいのに、という思いがよぎっても当然かと思います。しかし実は店長として頼りたいこの「常識」こそが、問題をややこしくしている原因でもあるのです。
「常識」とは、ある集団・業界・文化・立場の中で、“言わなくても分かる”“当然守るべき”と共有されている判断基準や行動ルールです。しかしそこには実は「絶対的な正解」はありません。時代、立場などによって大きく変わることもあります。例えば「年功序列」が当たり前だった時代には日本の企業では「転職」はタブーでした。私も転職組ですが、仕事を辞めると伝えた際、上司から「一つの会社で長年続かないということは、これからの人生、転落しかないよ」と諭されました。その時代の常識に照らし合わせ、心配から出た言葉だと思います。しかし今や”転職エージェント”花盛りで、一つの会社に長くいると逆に驚かれる時代です。常識とはこのように流動的で、変化していくものなのです。
店長の立場で考えれば、新卒スタッフとは世代差はもちろん、学校教育含め、置かれている環境も異なります。当然刷り込まれた考え方も異なります。そういうスタッフが続々入社してくるのが世の常です。ただ、お互いに持つ「常識」が違う状態を放置しておくと、チームワークがバラバラになる恐れもあります。では、どうしたらよいのでしょうか。
■「常識だから」ではなく、常識の奥にどういうメッセージが込められているのかを掘り下げる
振り返ってみると、私自身新入社員の頃、恥ずかしながら周りから呆れられるほど「常識知らず」でした。もともと「人は人、自分は自分」と割り切り、自分が思ったことを口に出し、思った通りに行動するという我儘なパターンが身についていました。学生時代は許されたことでも、就職後に配属された部署で、毎日「その洋服はおかしいでしょ」「その態度はないでしょ」「もっとこうしなきゃダメでしょ」と何かしら注意され続けました。もし私が素直であれば、”社会人としての常識をその都度教えてくれる親切な上司・先輩”と受け止めたと思います。が、当時は「仕事には関係ないでしょ」「ルールに書いてないでしょ」「なぜそこまで無理して合わせなきゃいけないの」と心の中で反発しか生まれず、徐々に上司・先輩との関係性も悪くなっていきました。上司も手を焼いていたんだと、今になってみれば反省ばかりです。その後転職した会社でも、仕事はきちんとやるけれど、それ以外に関しては”私は私”を貫こうとしました。当然「常識知らず」のレッテルは張られました。が、今度は受ける指導に対し、私は素直に従おうという気になっていました。なぜなら、指摘されることとその理由が、至極ごもっとも、と思えたからです。
●私:会議室を使い終わってささっと片付けて出る
●先輩:チェックし、ダメ出しをする
●私:「自分なりに綺麗に片づけました」と主張
●先輩:「片づけたという基準は?」
●私:「ごみも落ちてないし、ホワイトボードも消したし‥」
●先輩:片付けるとは「次の人が入って来て、気持ちよく使えること。それは会議の生産性にも関係します。そのためには、来た時よりも美しくレベルを意識して片付けるのが基準です」
●私:え、そうなの?
●先輩:はい。それが基準です。他の先輩たちの行動もよく観察してください。皆自然な形でこまごましたところもチェックしています。それがあるからオフィス全体がいつも気持ちよく使えます。自分たちで使う場所は自分たちで綺麗にしていかないと、すぐに崩れるでしょ、ちょっとしたことで違うから。
というやりとりで、その後「来た時よりも美しく」というフレーズが私の脳に刻まれました。
他にも挨拶・返事の仕方、姿勢、名刺交換の仕方(間のとり方含む)から始まり、場面ごとで「ちょっと待った!」が出て、そこから上記のような指導が始まりました。一つ一つが目からウロコで、実際にやってみると些細なことが意外と難しいのです。ただ、ロールモデルとなる先輩たちがいて、少しでもそこに近づきたいという気持ちが育ったことが背中を押してくれました。
その時に指導してくれた先輩が、「多くの人に会う仕事だから、些細なことで失点を重ねることはもったいないでしょ。本来のことできちんと向き合えるようになるには、所作一つ一つ、行動一つ一つの意味を自分で理解してコントロールできるようになることの方がメリットがはるかに大きい」と教えてくれました。
あとになって、その「躾」=社会的に一段高いレベルの常識を刷り込まれたおかげで、立場が異なる人たちと会った際にも、臆することなく話に集中でき、非常に有難いことでした。お金では買えない財産です。
また、他の先輩は、私が「それって就労規則にも、ルールにもそうしろとは書いてないですが」と反発した際、「ルールに書いてあるからやる、書いてないからやらない、というのは、違うと思うよ。ルールに全部のことが書けるわけじゃない。だからこそ、ルールにないことほど、その人の判断力が問われる場面。その判断基準を観られてるんだよ」と返しました。
言われてみればその通りで、ミーティングが終わった後など、チェックをしてきれいに片づけていく人を見ると、”誰かが見ているから、こうしろと言われたから、ではなく、自分で考えてこうした方が良い、と判断して行動する。こういう人が仕事でも伸びるんだな”と感じます。

■ロジカル&エモーショナルな伝え方のスキルを磨こう!
スタッフの価値観が多様化する中、”暗黙の了解”は徐々に通用しなくなるどころか、誤解・曲解を招きやすくなります。これからのマネージャーは《なぜ?》を多面的に考え、納得感を高める伝え方をすることが求められます。同時に、「そうすることで相手や相手の関係者にとってどうプラスになるかイメージできるように伝える」ことが大切です。その2つがそろって「やらなければ(責任感)×やりたい(欲求)」=意欲的行動 が醸成されます。
たとえば、就業規則の時間ギリギリに来ることがないよう、配属されたタイミングで先に伝えておくという事前周知が重要です。また、個人への注意というより、お店全体が目指しているビジョンとの関連で伝えていくこともチームの一員意識を醸成することにつながります。たとえば
●うちのお店では、出勤は時間ギリギリではなく、5分程度余裕を見て到着するように皆で行動しています。
●なぜなら、私たちは百貨店の中でも”クオリティの高い接客、お客様に行き届いた接客”を提供したいとがんばっています。
●そのためには、まずは周りをしっかり見れる、その上で先手で動く、というのりしろが大切です。精神的余裕と言ってもいいかな。
●それは店頭だけではなく、裏の仕事でも同じで、自分に余裕がないと、周りの人がやっていることにも目が向かず、見落としが出やすくなります。
●だからこそ、仕事のスタート時からそういうことがないよう、ゆとりを持って出勤することを奨励しています。
●たった5分かもしれませんが、その5分が多少電車が混んでいても、安心感につながりますし、それができている自分をほめてあげることができます。
●そういう気持ちからチームワークやお客様への配慮も生まれてきて、仕事の質も上がっていきます。
●だからこそ、是非そこを汲んでもらって行動してもらえると嬉しいです。
お店のビジョンを大上段に構えて伝えても、「そうなんですね」で聞き流されることもあります。しかし、日々のちょっとした行動とリンクさせることで、逆に意味合いが浸透していきます。そして良い行動習慣は、スタッフの成長に結びつきます。だからこそ、やるべきと感じることは、店長自身が信念を持って口に出して伝えること、できていない時には「最初に伝えたと思うけど‥」とリマインドしてもらうことが重要です。
真に人が育つお店とは、日々の高い行動基準が隅々まで「当たり前・常識」として浸透しているお店なのです。
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