ラグジュアリーブランド店長ブログ

”感情的価値”でお客様の心をぎゅっと掴む5つの効果的方法とは?:ブランド店長問題解決講座(78)

■どのブランドのどの商品も素敵だからこそ迷いが深まる・・

ラグジュアリーブランドである以上、常に高い期待を受けて新製品を創り出す。そのための努力及び投資は想像を超える大変さがあります。あらゆる点において、”「さすが!」というインパクトを与えたい”、”数多くある製品群の中でもしっかり注目を集めたい”、”絶対欲しい!と思ってもらいたい”、という強いパッションが背景にあるだけに、細部までとことん検討されたうえで、満を持して発売されます。そこまでにも相当な時間をかけ、熟練者のスキルを結集させ、PR含め膨大なお金を投入してのデビューです。そういう手の込んだプロセスを経て作られ、運ばれてきた新製品たちが、こぞって各ラグジュアリーブランドの店頭で華々しくスポットライトを浴びてお客様にその美しさ、見事さをアピールしています。
しかし(超富裕層を除く)大半の日本人のお客様は、その美の競演を楽しみつつも、お財布との相談で、どうしても買える数は限られており、「どれも素敵なだけに、どれにすれば後悔がないか」と迷ってしまうのが実情です。

例えば時計。今やラグジュアリーブランドのどの時計を見ても、「動くアート」あるいは「動くジュエリー」。思わず見とれてしまうほど、細部にわたって高度な技術を駆使するだけでなく、想像を超える美しさで惹きつけます。さらに魅力的な歴史やエピソードが語りつくせないほどたくさんあり、心をとらえて離さない、というレベルです。時計コレクターでなくても、そのイメージはしばらく余韻として残り、それを目にするだけでも心が豊かになります。
しかし、あるブランドでそれを体験した後、隣のブランドに行くと、また同じぐらい素敵な商品、素敵なエピソードがあり、結局「どれも素敵で‥」となってしまいます。双方で「限定●本しか製造されておらず、貴重なお品です」「まさにお客様の記念のお品にピッタリ」と心動かされるトークも、お隣のブランドで聞くことになります。セールススタッフが熱心に自社製品に自信をもって勧めてくれているのは分かっている、どちらも誠実、どちらも捨てがたい・・・今やそのような中で選んでいただけるかどうかのせめぎあいが店頭で日々行われている、というのが実態です。

■決定打になるのは”感情的価値”

では、どうすればそのぎりぎりのところでお客様に「こちらにします」と決定いただけるか?もちろんお値段等もありますが、長く持つものだけに「妥協して後悔したくない」という気持ちはあります。また、セールススタッフも支払方法含め、ある程度のトークは用意しています。ですから、本当に魅力を感じれば、じっくり検討してきただけに買っていただける確率はあります。後は、どう背中を押して差し上げられるか、その切り札が「感情的価値」です。

そもそも原点に戻って考えると、なぜラグジュアリーブランドの時計が必要なのか?機能性といっても日常生活で研ぎ澄まされた非常に高度な機能を必要とする場面は実は少ないものです。たとえば、「水深●メートルまで耐えられます」と言われても、その技術のすごさにそこまで興味のないお客様にとっては「そんな必要ないし‥」と思うのが関の山です。もちろん「機能性」はベースにありますが、さらに「デザイン性」「革新性」「創造性」など機能性にプラスして心を魅了する部分のウエイトがかなり大きくなっています。しかし、そこも競合ブランドとほぼ横並びになってくると、選ばれるためにさらに必要な要素とは?を追求しなければなりません。実はそれが、「感情的価値」といわれるものです。
しかし感情的価値は機能性やデザイン性と違って、そもそもその製品に備わっているものやエピソードだけでなく、お客様と共に紡ぎ出す独自の、言い換えると非常にパーソナルな、そのお客様だからこそ、というかなり限定的な価値、とも言えます。そのレベルにたどり着いて初めて「いろいろ迷ったけれど、これにします」と言っていただける、というのが現状ではないかと考えます。

■”感情的価値”をパーソナルに生み出せてこそ、プロフェッショナル!その5つのコツとは?

感情的価値、あるいは情緒的価値、が意外と難しいのは、その答えは「お客様の中にしかない」からです。且つお客様ご自身も本当の意味では明確にわかっていらっしゃらない、ということも良くあります。たとえば、記念に、という方に、商品の説明をいろいろして「悪くはない」となった際、さりげなく「イニシャルを刻んでいただくサービスもございます。たとえば、先ほどから伺っていた~をこちらに刻んでいただくことで、特別なものになります」と伝えた瞬間、お客様の中で、その商品がまさに自分にピッタリ!唯一無二のモノに映り、欲しくなる、ということがあります。しかし、他のお客様にそれがすべて通用するかというと、「それをやると資産価値が落ちちゃうよね」と言われることもあります。となると、いろいろなトークを用意しておく、だけでは”感情的価値”につなげられる確率はさほど高まりません。

そこで、”感情的価値”を生み出せているプロフェッショナルにそのコツを聞くと以下のような答えが返ってきました。

①接客の最初の出会いから、”このお客様は、ラグジュアリーの時計に何を求めていらっしゃるか?”を前提にお話を伺う。そうすると、アイスブレイクを含めた会話の中で何気なく繰り返されるフレーズがつかめ、そこに多くのヒントが隠されている(上質なもの、愛着が持てるもの、恥ずかしくないもの、など)

”なぜ、このタイミングで時計をお探しか?”に興味を持ってお聞きする新商品は繰り返し発売されるが、その都度購入されているわけではない。なぜ今のタイミングでわざわざご検討されているのかをお聞きすることで、そこに込められている想いが垣間見れる。

ご試着時に何をイメージされているかを洞察するその製品をつけて、どこにどなたとどういらっしゃるイメージをもって鏡を見ておられるかを考える。そのためにも、ご使用場面についての情報を積極的にお聞きしておく。

④新しいものを持つことで、何か変化を起こしたい、というお気持ちもあるかと思うので、従来と比べ、さらにどうなりたいと思っていらっしゃるかを軸にお話を伺う。

説明をしつつ、どういうキーワードや箇所でお客様の表情がパッと明るくなったり、少し前のめりになったり、目の輝きが増したかなどを見逃さない。「これを聞きたかった!」という個所では、無意識のうちにそういうシグナルが出るので。

接客を横で聞いていると、特別な白の文字盤を見せながらカップルに「先ほどご結婚式が12月とお聞きしまして、ちょうど雪が降り始めるシーズンですよね。
真っ白に目の前に広がった雪の上にお二人で助け合って一歩ずつ足跡を刻んでいく新たなスタートかと思い、こちらの商品をお勧めいたします。先ほどご説明した性能、技術はもちろんですが、白は純粋、清楚という意味合いもあります。いつまでも最初の出会いやときめきを大切にしつつ時を刻むという点でも、また、お二人ともお仕事でお忙しい日々の中でも自然の癒しを感じていただけるこちらの「特別な白の文字盤」の時計をご記念にいかがでしょうか?」とにこやかに説明していました。

いかがでしょうか?同じお客様のお話を伺うのでも、「どれが欲しいですか?」「何がいいですか?」ではなく、最初から”より深くお客様を知らずして共感を呼べるご提案はできない”、だからこそ、”しっかり何を知りたいかという軸”をもって観察、洞察、質問をしながら会話を弾ませ、提案していく。傍から見れば特殊な接客をしているようには見えなくても、プロフェッショナルな販売スタッフは、同じ時間、より密度の濃い会話でお客様の欲しておられる夢、憧れ、なりたい姿、感動を丁寧に引き寄せているのだと教えられます。

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