■衝撃だった”見えないコミュニケーションギャップ”
先日いわゆるZ世代と言われる20代のスタッフと「どうすれば自分を指名してくださる顧客を創れるか」について意見交換をしていた際、私自身大いに反省させられたことがありました。顧客づくりの必要性については事前に多面的に確認をしました(あるいは、したつもりでした)。その際、特に異論は出なかったため、「理解・納得してもらえた」と思い込み、実践論に入りました。その中で、イベント集客のためにもいかにお客様と継続的にコンタクトをとればよいか、という内容で実技も入れたセッションの終盤にさしかかったところで、一人のスタッフが以下のような素直な気持ちを発信してくれました。
「確かに顧客様を創ることは私たちのミッションだと思います。だから、ポテンシャルがある、つまり高額品を複数買えるお金持ちこそが私たちが最も大切にしないといけないお客様で、そういう方はラグジュアリーなサービスにも慣れていらっしゃるので対応も丁寧にしないといけないということは分かっています。が、私個人としては、”なかなか買えないけれど、ブランドが好きだから頑張ってお金をためて買いに来ました!”というお客様を大切にしたいと思うし、そういうお客様に寄り添った接客をしたいと思ってます。ただ、そういう方をイベントにはお呼びできないし、売り上げにも貢献できない・・ジレンマです」とのこと。その発言には、頑張って買いに来てくださるお客様に対するスタッフ自身の等身大の共感と、ホスピタリティあふれる気持ちが込められていました。その言葉を聞いた瞬間、正直、こちらが伝えたかったことが誤って伝わっていたことを気づかされ、私自身、大きな衝撃を受けました。
私としては「ポテンシャルのある方だけを重視して売り上げに貢献しましょう」と伝えたつもりはありませんでした。が、若いスタッフからすると「顧客様=お金持ち(外商付きのお客様など)」に限定され、そういう方を優先して特別力を入れて接客をするよう会社から要求されているように受け止めてしまい、顧客づくりと言われれば言われるほど、自分の心情と乖離したことをさせられる、という葛藤を持ちつつセッションを受けていたのです。
その誤解を放置してしまうことで、よく言われる「買うか買わないかを先に判断し、買わない(買えなさそうな)お客様は適当にあしらう」「買う(買えそう)な人が来ると急に態度が豹変する」「買えそうなお客様のとりあいが始まる」「どうせ買えないでしょう、とスタッフが上から目線で接客するので、敷居が高くて入りづらいお店」などの悪評につながってしまいます。
それだけではなく、そういうスタッフの態度に対する嫌悪感が他のスタッフ間で漂ってしまい、チームワークも崩れると言う悪い状況が生まれてしまいます。
私の場合、スタッフが正直に発信してくれたことで、その後「顧客づくりとはお客様との信頼関係づくりであり、お客様を育てるためにも、丁寧に種をまく。それはどなたに対しても誠実に接する結果として生まれてくるものであり、最初からこちらがえり好みしていることで逆に先細りになる」と伝え、何とか誤解をただすことができました。
が、もし店舗で「言える化」ができていないと、店長がスタッフに良かれと思って熱心に「顧客づくり」に向けてはっぱをかければかけるほど、スタッフの内側にフラストレーションがたまっていく、それが会社への不信感につながっていくと言うことが起こりえます。こうした”見えないコミュニケーションギャップ”は本当に恐ろしいと感じます。
■できる店長が実践しているスタッフに”正しく”伝える3つのポイント
スタッフの納得感を丁寧に醸成し、店舗を成功に導いてるある店長にその話をすると、「私も以前、良かれと思って発信していたことが実はスタッフには真逆に受け止められていた、と言う手痛い経験があります」といくつかの失敗談を共有いただきました。その経験が今につながっているとのこと。店長いわく「せっかくの痛みを勉強代だと思って、それからはスタッフに発信する場面では、常に3つのポイントを頭に置いています」と秘訣を教えてくれました。
人間同士のコミュニケーションで「誤解・曲解」は当たり前。それを防ぐためにも「伝えたつもり」「分かってくれているはず」という思い込みは捨て、
1)意義を理解してもらうためにも、言葉の選び方・選んだ言葉の定義づけをきちんと行う
2)具体例をいくつか用意しておき、イメージしやすいようにする
3)どのように理解したか、何ができそうか、あるいは、納得できたか、できなければ何が、なぜ?を歓迎の姿勢で丁寧に聞き、認識違いがあればそこで正す
また、毎回振り返りをして、もっと他に伝えようはなかったかを考える、とのこと。
誰でも実践できそうなことですが、実は意外に手間がかかったり、難しかったりします。
店長の重要な責任の一つとして、店長会で共有されたことを正しくスタッフに伝える役割があります。その際、上記の3つを踏まえてやろうとすると、以下のことを事前に店長自身準備しておく必要があります。
たとえば、「会社としてCRMに力を入れていくので、皆さんもCRMを推進してください」と言われたら・・
*会社が発信している言葉の意味は?うちの店舗に置き換えるとどういうこと?スタッフが理解できる言葉に置き換えると?
*具体的に誰がいつまでに何をどうする必要がある?例えばこういう取り組みもあり?それともNG?
*スタッフからこういう質問を受けたらこう返そうと思うが、納得してもらうには材料は十分?
そう、まずは情報をインプットする段階で一歩先のことを考え、且つ、その場でできるだけ発信するに十分な材料を集めるべく、店長自身が質問をして咀嚼しておく必要があるのです。メモを取ったから大丈夫、会社の言うことだから基本的に反論は出ない、前回と内容はそう変わっていないからもう伝わっているはず、など忙しい店長の立場では、ついそういう落とし穴に入ってしまうことは往々にしてあります。
ただ、実はオフィスと店舗、店長とスタッフ間のコミュニケーションの連携の良しあしによって、会社の経営効率は大きく差が開いてしまうのです。
■人は情報で動く!店長会で受け止めたメッセージが店長の言葉を通してスタッフに正しく伝わることで、経営効率が格段に良くなる!
実際、オフィス側の担当者からしばしば「せっかく店長会で重要なことを伝えても、なかなかその真意がスタッフにまで伝わっていない。時には愕然とすることがある」と言う悩みを聴いたりします。誰も悪気はないはずなのに、その小さなフラストレーションがやがて「言っても無駄ではないか」「どうせ伝わらない」となり、最終的には不信感という大きな溝を生んでしまうこともあります。
私が実際に見聞きした中でも、店長の多くが「伝わるための留意点」を意識し、実践している会社のオフィススタッフからは「CEOやオフィス担当者がダイレクトに文書やビデオでスタッフに直接発信することも非常に大切ですが、どうしても全体論や抽象論で終わってしまう可能性があります。そこで、それぞれの店長の言葉を通して伝えてもらうことで、むしろ会社の真意やそれに対する店長自身の考え、そして自店で具体的に何をすべきかがスタッフに正しく伝わって、スタッフのモラールアップやアクションにも直結するので非常に助ります」という声が聞かれます。
あなたの会社やあなた自身はいかがでしょうか?
人は情報で動きます。”一応聞いたことは通達した”で終わることなく、効果的な伝え方を工夫することは、チームとしての店舗の成功と強く結びつく、すなわちチームワーク強化に大きく貢献するということを一度立ち止まって考えてみる機会になればと思います。
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