■ストーリーが持つ威力とは?
”ブランドストーリー”を語る重要性はすでにどのブランドにも浸透しており、公式オンラインはもとより、あちらこちらで素敵なエピソードを耳にする機会が非常に多くなっています。
では、単にブランドの歴史や製作プロセスを事実のまま詳細に説明するのと、ストーリー、すなわち「物語」として伝えるのとでは一体何が違うのでしょうか?
一つは物語には、聞き手にとって「イメージが生き生きと描ける」ことで「気持ちが動く」というパワーが備わっています。物語の展開に沿って「それでどうなったの?」という興味が沸いてきて、話に引き込まれていく、という要素もあります。
特に世界的に有名なラグジュアリーブランドとなれば、そのブランドが生まれた当時の時代及び社会の背景がストーリーを通して映像的によみがえるとともに、そのエッセンスが数十年の時を超えて今、目の前に置かれているプロダクトに凝縮されている、というつながりが見え、より一層その商品が価値あるものに感じられる作用があります。
単に「こちらは今シーズンの新作です」と紹介されるのと、「見えにくいこの箇所にもこういう工夫が施されていて、随所にブランドの~という真髄が織り込まれている貴重な作品です」と見せてもらうのでは価値は違って伝わります。
さらには、なぜブランドがスタート時からそういうこだわりを追求しているのか、という一歩掘り下げたところに「人間らしさ」が感じられたりします。たとえば「女性の解放」「革新的な素材活用」「前例のないデザインの創造」など、何かしら現状に飽き足らずに何かを変えたい、というデザイナーや職人のパッションが原動力になっていることが前提であることが多く、チャレンジする生き方そのものがストーリーを通して伝わってきます。それを聞いたり、作品を見る中で憧れのブランドのコンセプトに共感したり、自分事につながったとき、「この出会いには縁がある!」「まさに私向け!」という気持ちが強まり、そのブランドの商品を購入する意思決定の重要な要素になったりします。当然流行やトレンド、素材や価格などの比較等も検討要素ではありますが、”感情”という側面も購買心理上非常に重要なウエイトを占めます。そこに訴えかける武器となるのがブランドストーリーなのです。
■お客様ストーリーに目を向けていますか?
翻って、高額なブランド品を買いに来られるお客様にも、それぞれそこに至るストーリーがあります。なぜなら、ブランド品とは生活必需品とは異なります。「手に入れないと明日死ぬ」という次元のものではありません。にもかかわらず、今日もわざわざお店に足を運んでくださるお客様の背景にはどんなストーリーがあるのでしょうか?そこにアンテナを立てているスタッフこそが、実は顧客をたくさん持っているスタッフといえます。なぜなら、顧客をたくさん持っているスタッフの話を聞いていると、本当に個々の顧客様の価値観、考え方、スタイル、こだわり、だけでなく、なぜその方がそういうこだわりをお持ちなのかというお客様ストーリーを本当に良く把握・理解、そして時には深く共感しており、だからこそお客様から「多くを語らなくても、分かってくれ、必要な価値あるものを提案してくれるスタッフ」として絶大なる信頼を得ているからです。
たとえばあるスタッフ曰く「〇〇様はファッション関係のお仕事をされていて、とにかく最新情報やトレンドチェックを欠かさない。且つそれを踏まえて、”全部買うってわけにいかないから、この秋冬、私にとってのとっておきのこれ!っていうアイテムは何だと思う?”とプロとしての意見を求めてこられます。だから、私も常にファッションの勉強を怠らず、〇〇様のこれまでお持ちのモノだけでなく、〇〇様がお仕事関係者にも”イケてる”と常に思ってもらえるスタイルとは?そのために必要なモノとは?について考えてます。そのうえで二人でそれぞれの商品が誕生した背景、こだわり、メッセージを共有しつつ、これ、というものを選ぶ、そのプロセスが非常に意味があるんです」「おそらくその顧客様はファッション仲間から『素敵なアイテムね。そのコーディネートどうやって考えたの?』等と聞かれる可能性があります。その時、この秋冬の”決めファッション”に至ったプロセスをプロフェッショナルに生き生きとお話されるでしょう。その場面をイメージすることで、私自身がワクワクするんです!」とのこと。
あるいはジュエリーを扱っている別のスタッフは「『仕事に頑張った自分へのご褒美』を探しておられるお客様さまだったので、『お差支えなければ・・』とお仕事の種類や、どのように頑張られたのかをお聞きしていったところ、本当にガッツのある方だと分かりました。且つ、その話を聞きながら私自身もパワーを頂けたので、素直に”なぜそこまで頑張れるんですか?”と尋ねると『男性が多い職場だけれど、女性だからって軽く見られたくない』という気持ちがおありとのこと。こういう方が未来を切り拓いていかれるんだろうという期待も込めて、ご参考までに”私どもで『サクセス』というコンセプトのジュエリーがあるのをご存じですか?とお聞きしてみました。全くご存じなくふらりと入店されたとのことでしたが、そこから話が弾み、最終的にはかなり奮発して高額な商品を購入いただきました。『予算オーバー』と笑いつつ、『これも自分への投資。これからはこのジュエリーが守り神になってくれるから、もっと仕事を頑張れそう』とおっしゃってくださったのが印象的でした。そのジュエリーが肌身離さず大切に扱ってもらえるお客様にお嫁入りできたことも嬉しいです。こちらが強引に商品アピールをしなくても、お客様のストーリーに私どものブランドが織り交ぜられてさらに素敵なストーリーをこれから共に創っていかれること自体が嬉しいです」と話してくれました。
■ブランドストーリーはお客様起点でこそパワーを発揮する!
公式オンラインではブランドストーリーを映画並みの美しい動画や写真で魅せることができる分、あるいは見たい人、聞きたい人が閲覧する分、十分効果を発揮します。
しかし、ブランドストーリーがあふれる時代になったからこそ、逆に徐々にその効果も色あせてくる恐れがあります。特に店頭においてはスタッフの伝え方一つで効果性は大きく変わってきます。スタッフが滔々と語っている割にお客様は「その話、別の店でも聞いた」「オンラインで読んだ」という反応や退屈そうな表情を浮かべている光景も目にすることがあります。
これではせっかくのストーリー、特にそこに登場する人物達にとっても失望以外のなにものでもありません。
では本当にブランドストーリーが効果を発揮するには何が必要なのでしょうか?
そう、”お客様起点のストーリー”との接点や融合する点があってこそ、ブランドストーリーはその何倍も効果を発揮します。
そのためにも、スタッフに求められるのはお客様が心を開いてご自身のストーリーを語ってくださる関係性づくりや耳を傾ける姿勢、そしてそれを踏まえて重要なエッセンスをブランドストーリーとしてわかりやすく端的に、且つ生き生きと伝わるように発信するスキルといえます。
それがブランドアンバサダーの”架け橋”としての重要なミッションと言えるのではないでしょうか。そういう角度で店長として改めてスタッフのストーリーテリングに耳を傾けてみてはいかがでしょうか?
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