※このブログについてー環境変化の中でたゆまぬブランド価値創造を実現する秘訣を発信します。
・30年以上にわたり、大手ラグジュアリーブランドの日本におけるビジネスのスタート~成長~成熟プロセスを直接見てきた筆者が、各ブランドが
*どのようにブランドイメージを形成し
*どのようにブランド体験を向上させ
*どのようにブランドの進化を具現化してきたか
を組織の中で支える人達の考え方、苦労、取り組みの観点で鋭く探ります。
■ラグジュアリーブランドの重要ミッションは「継続」
海外のブランド品は男女問わずいつの時代も憧れの的です。もちろん、クラフツマンシップ・ヨーロッパの歴史・文化を反映しているという事実もありますが、どちらかというと実用面より、それを所有する精神的な満足に直結する面が大きいといえます。
最近はメルカリで先に中古品がどのくらいで売れるかを調べ、値崩れしないものを選ぶ若者も増えているようですが、ちょっと背伸びをしてでも持ちたい、という欲求の表れともいえます。
DCブランド全盛期で、新作が出るたび店舗の周りを幾重にも囲んだ行列ができていた時、「こんなお馬鹿な風潮はそうは続かない。企業の寿命は30年と言われるが、浅はかなブームはもっと早く去ってしまう」とまことしやかに言われました。
私もブランドへの熱狂ぶりをまじかに見て、その危機感を強く感じた一人です。
そこで、ラグジュアリーブランドの店長やスタッフとの研修ではしつこいぐらい「これをブームで終わらせないことこそが私たちのミッション。なぜなら、ブランドの真価は継続、すなわち、時代を超えて受け継がれていくことにこそある。ということは、世代を超えて常に憧れであり続けるための壮大な挑戦であるから」、ということを確認しあいました。
似たようなバッグ、似たような財布・時計があったとしても、ブランドがブランドたりうる、そして誰も絶対にまねできないのが、数十年、あるいは100年以上にわたって時代を超えて支持され続けてきたという事実であり、それを可能たらしめたのが伝承されるスキル・哲学・愛着です。
すなわち、そのブランドに携わり、それぞれの立場でブランドの継続をミッションとする人間の力です。
戦略を打ち出すトップのすごさももちろんあります。今では世界中からエリートを結集させ、常に最先端で市場をリードしようとしているそのすさまじさは、「継続」の難しさと、だからこそそれができた時のかけがえのない価値がわかっているからこそできることなのでしょう。
■販売スタッフは川下?
マーケティングや商品開発において頭脳部門が次々新戦略を打ち出す中で、日本の古い体質でありがちなのは「店舗は川下。上から言われたことを忠実にやりきるのが仕事」という考え方です。おそらく当初ラグジュアリーブランドの中にもそういう考え方が強かったように思います。
しかし、その考え方を覆す言葉をあるラグジュアリートップの方が販売スタッフに対しておっしゃったのは私にとっても非常に新鮮でした。その方曰く
●私たちのブランドが本当にお客様に夢や憧れを提供し続けるには、皆さんの真摯な努力なくしては絶対にできません。
●名だたるデザイナーが商品を企画し、プロフェッショナルな職人が丹精込めてそれを創って、大切に店舗に運ばれてくる。そしてお客様にお渡しする。しかし、販売するだけなら商品力が優れているので、そう努力しなくても売れていきます。では、何のために皆さんに投資をして自己研鑽してもらうようにしているのか?(沈黙)
●それは、それだけではブランドの世界は完成しないからです
●作っている、渡しているのが”モノ”だけなら、すぐに飽きられてしまいます。商品は直接語らないものの、一つのモノができあがるまでに、どれだけの試行錯誤があり、どれだけ考えぬかれたネーミングがなされているか、ある意味これはアート作品です。アート作品はもちろん鑑賞して素敵、ということはありますが、その背景にあるストーリーがわかればわかるほど、深く興味が出てきて、また大切にしようという気持ちになります。私たちのブランドは売って終わり、ではなく、大切に使い続けていただくまでを目指しています。それでこそ時代や世代を超えて私たちの価値が伝わるのです。
●となると、スタッフの伝え方一つで価値はマイナスにもなれば200%にもなります。且つそれは一方的に好きな話を押し付ける、では意味がありません。それぞれのお客様が「思った以上に素晴らしい」と実感頂けるようにツボを押さえて伝えるスキルが必要にもなります。そのためにはまずはスタッフ自身がブランドについて深い造詣がなければなりません。
「川下」「言われたことをやっていれば」「売る努力が要らない仕事」という世間一般の考え方と裏腹に、数十年も前から着々と次世代への架け橋となるようスタッフにも多大なる投資をしてブランドの世界観を完成させようと一瞬たりとも手を抜かない姿勢。それこそが「サービスデザイン」の考え方であり、且つすべての人が関わって初めて完成する、という私にとっては重要な教訓になっています。
投稿者プロフィール(袋井 泰江)
サービスデザイン研究所コンサルタント。様々なラグジュアリーブランドのコンサルティング・研修を通して多くの生の声からブランドビジネスの変遷、「ブランド価値の創造」「ブランドの世界観の構築の仕方」などをつぶさに見てきた。それはこの業界に限らず、他業界にも通用するノウハウがあることから、このブログを執筆。
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