ラグジュアリーブランド店長ブログ

アシスタントストアマネージャ―(No.2)を戦力化する3つのツボとは?:ブランド店長問題解決講座(69)

■できるアシスタントストアマネージャ―(ASM)は何が違う?

アシスタントストアマネージャ―に期待される主な役割は、店長不在時に店長に替わってお店を運営することと、日頃から店舗が目的達成に向けてより効果的・効率的に回るよう、店長が行っているマネジメント業務の一部を担うことで店長やスタッフをサポートすることです。ASMから店長に昇格したばかりの人の話を聞くと「実際に店長職になってみて、こんなにやることがあるんだ!と改めてびっくりしました。恥ずかしながら、自分なりにASMとして貢献しているつもりでしたが、店長がされていたことは10本の指では追い付かず、20本ぐらいの指が必要なレベルでした。そのうち自分が手伝えていたのはたった数本にすぎない、と分かって、申し訳ない気持ちです」とのこと。店長はスタッフやASMにも見えないところで、お客様はもとより、会社の上層部・他部署・他店・取引先とのやりとりや折衝、先々の計画策定、進捗報告、問題解決から、足元のスタッフの勤怠管理、役割分担や指導、フィードバック、そして日常の売り上げ管理、ルーティンまで、確かに何本も同時にアンテナを立てながらこなしていかなければなりません。そんな状況で店長に「完璧なリーダー像」を求めるとしたら、まさにスーパーマンやスーパーウーマンでないと店長は務まらない、ということになってしまいます。かといって、「できないものは仕方ない」だと、お客さまや市場から取り残されてしまいます。そこで非常に重要な役割を担うのが、アシスタントストアマネージャ―なのです。

たとえば、店舗運営管理の基本である、Plan(計画)-Do(実行)-Check(確認)-Action(軌道修正・改善)=PDCAサイクルを回すにしても、どれも完ぺきにできる店長はいません。店長自身が自分一人で業務を行うならPDCAは回せるでしょうが、習熟度・価値観が異なる複数のスタッフに動いてもらいながら、どの業務もきちんと計画通り行うとなると、まさに至難の業です。状況変化はもとより、忙しさや得意・不得意などの要素が絡んで、計画通り進まない、ということはよくあることです。

その際、たとえば店長やスタッフの動きや得意・不得意、状況の変化ををよく観察して店長の手が行き届かないところ、苦手なところを押さえてASMが「ここは私が引き受けます」と率先して取り組んでくれると、店長にとってもスタッフにとってもメリットが生まれます。実際にそれができているお店は売上もスタッフ育成やチームワークも非常にうまくいっています。店長にとっては本当にありがたい右腕であり、ブレーンであり、相談できるパートナーであり、存在価値は非常に大きい状況です。それをうまく行えているASMに「どうすればそういう理想のペアになれるのか?」と尋ねたところ、以下のような答えが返ってきました。

・私は別役職者になりたい、と思っていたわけではありません。どちらかというといちスタッフでやっていきたい、なぜなら役職がつくと責任が重くて・・というタイプでした。しかしある日店長から「ASMとして力を貸してほしい」と打診をされたことで、私でお役に立てるのであれば、という気持ちで引き受けました。しかし実際なってみると、ASMとして具体的に何をどこまでやればよいか、と明確に線引きされているわけではありません。そこで店長に聞いたところ、「スタッフの声を吸い上げてほしい」「上下のパイプ役として機能してほしい」など、抽象的なオーダーでした。他店のASMにも聞いてみましたが、店舗状況や店長の考え方、方針も違うので、なかなかその通りというわけにはいきません。結局自分で考えて動くしかない、と思いました。そこで、私なりに行なったことは以下の3つの洗い出しです。

①店舗を客観視した時、自分の目から見て、今の店舗の課題は何かを洗い出す。そのためにも店長と話をし、同時に、スタッフとも話をし、何が困っているか、もっとどうしたいと思っているかを聞き出す。

②その中でも特に重要と思うものに焦点を当て、その解決のために、自分ができることは何かを洗い出す。同様に、店長とスタッフとそれぞれから「私に期待していることは?」を聞き出す。

③そのうえで、自分がやるべきと思ったこと、やりたいと思ったことを洗い出して整理し、その計画について店長と話をし、店長の意見をもらう。それを参考にやるべきことを明確にして、店長の合意をもらう。

そのASMは「自分がNo.2になったことで、より店長もお店もスムーズに動くようになった」という状態を創るために、自分でどういう動きをすればよいかを考えて導き出す、ということからスタートしたのです。

具体的に行ったことを聞くと、ちょうどその時「新作バッグを6か月間でどこのお店よりも売ろう!」と店舗として目標を掲げ、各スタッフが日々何点売ったかを表にして見える化し、ライバル視している店舗の売上結果と毎日比較しながら、「さらにどうすれば販売数が伸びるか」の情報を共有する、というやり方で全員で取り組みを始めました。最初の1か月はみんな結構頑張っていましたが、日々他にやることもあり、また、ライバル店舗に負ける日が続き、その差も徐々に開いてきました。最初の勢いはどこへやら、徐々に成功期待感が薄れてきて「別にそのバッグを売らなくても、店舗予算は行きそうだし・・」という雰囲気になっていました。振り返ると、過去にも多くの取り組みにおいて”最初は頑張るものの、時間と共に尻すぼみになっていく”パターンを繰り返してきました。中には最初から冷めているスタッフもいて、「どうせ長続きしないから、最初だけ合わせておこう」という姿勢もちらほら見られます。店長も気づいてはいると思いますが、徹底できない自分のせいでもある、という反省から、強くは言えません。それを見ながら、「ここは私の出番」だと考えました。そこで、店長にこの取り組みのPlan-Doまでは店長にしていただいたので、Check-Actionは私に任せてください、と申し出て、どうすれば皆が新作バッグへのパッションを失わないかを考えました。

実際に行なったこととしては、

・なぜ1位の店が売れているのか?の詳しい情報収集と自店でやっていないことを照らし合わせ、新しいやり方があれば即導入する。
・最終的に決定にならなくても、新作を紹介した、持って行った、というスタッフの行動を意識的に賞賛し続けた。また、成功した紹介フレーズを書き出し、見える化した。
・遅れたスタートを切っていた人が売れた時は、少し大げさぐらいに喜び合う。また差が少しでも縮まったら、まるで自店が大きく成功したかのように喜ぶ。
・もちろん自分でも率先して販売することで、「私は諦めていない」という姿勢を見せる。また売れた理由を自分から発信し、「ここにチャンスがある!」と信じてもらうようにした。
・そうするうちに徐々に差がまた縮まってきたことで、「いけるかも」という可能性が見えてきた。成功期待感が高まってくると、皆の熱も再燃し、今日も積極的にアピールしましょう!という盛り上がりになった。
結果としては、惜しくも2位で終わってしまいましたが、お店に「今までとは違う」という空気が感じられ、「どうせやるなら中途半端ではなく、とことんやることで、もっと達成できることがあるのではないか」という気持ちが芽生えました。

そうする中、店長もGOALをしっかり見据えて計画を練りこむようになり、ASMがそれを監督・サポートする、という連携プレーが成り立つようになりました。大きく見れば、お店のPDCA(マネジメント)のサイクルがきちんと回るような体制ができてきたのです。

■店長としてASMを戦力化するためにやるべき3つのこと

一方の店長に話を聞くと、「良くできたASMで私が助けられてます」と感謝することしきりで、まさに理想のペアとして機能している状態です。ただ、これは自然発生的に待っていればできる、という関係性ではありません。中には以下のようにASMの考え方や行動が問題を生み出してしまっているケースもあります。

ASM自身
・店長の指示待ちで、店長が指示したことしかやろうとしない
・スタッフが店長の方針についてASMに疑問をぶつけても「私もわからない」「店長に直接聞いて」「やるしかないのだからやってください」という態度
・スタッフと一緒になって店長のできていないところを批判して終わる
・注意すべきスタッフがいても、責任を回避して指摘しない。なんでも「それは店長の仕事。私がでしゃばる場面ではない」が口癖

結果的にASMへの信頼が薄れる⇒それをきちんと指導していない、改善していない店長への信頼が薄れる⇒店長としてASMがいることでむしろ負荷が増えるという悪循環に陥る。
実際そのぐらい、ASM自身の考え方、行動の仕方によって店舗運営や店長の負荷は大きく違ってくるのです。
では、どうすればASMと理想のペアになれるのか?答えは店長とASMの間で認識のすり合わせを最初にどこまで丁寧に行うかです。そこを「わかってくれているはず」「その都度言えばいい」「わからなければ聞いてくるはず」「いちいち面倒」などとないがしろにしてしまうことで生産性は著しく落ちてしまいます。

特に、”できる店長”は最初に以下のASMと3つのことをすり合わせます。
①店長として、いつまでにどんな店舗にしたいと考えているか。またなぜそうしたいのか?について丁寧に伝え、ASM自身がそれに対しどう考えているかを聞く。もし目指すものに食い違いがあれば、しっかり耳を傾け、二人で再度どのような店づくりをしていくかを話し合い、合意する。

②その店舗ビジョン実現のために、特に重要と考える取り組み課題(重点課題)を挙げ、達成に向けて二人でどのように役割分担をするかを明確にする。その際、それぞれの得意なこと、苦手なこと、手が回らないリスクなどを洗い出し、強みを活かし弱みを補完する形でできることを整理する。ASMが引き受ける役割については、ASM自身に実行計画を立ててもらい、必要なアドバイスをする。(ASMの育成につながる)

③お互いに忙しい、あるいはシフトが合わないことも想定して、必要な報告をどういうタイミングで、どのような形で行うのがベストか考えて、決定する。またやりながら不具合が出てきた際、問題点をすぐに挙げてもらうよう念を押し、二人三脚体制を創る。

お互い完璧でないがゆえに、それを埋めてくれるのが「以心伝心」ではなく、目的的なコミュニケーションです。自分が不在の時も、同じ方向を目指す人が指揮を執ってくれるほど安心感につながるありがたいことはありません。
いかがでしょう?あなたの店舗では、ASMを良きパートナーとして戦力化できていますか?

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