■入社後の半年を振り返って最もモチベーションが下がったのはどんな時?
4月、憧れのブランドに入社でき、セールススタッフとして店舗デビューを果たした新入社員も、あっという間に6か月が経ち、随分と大人になった印象を受けるのは私だけではないと思います。伸び伸びと自由にしていた学生時代から一転、時間管理・人間関係・業務への責任・・すべてが新しいことだらけ。期待に胸膨らませて配属先に行き、先輩から日々多くのことを教わりながら、徐々に新たな世界に溶け込み始めたころです。そういう彼ら、彼女らに”怒涛の半年”を振り返ってもらうと、以下のコメントが出てきました。
●モチベーションが特に上がった要因
- お客様に喜んでいただける接客ができた時、お客様がわざわざ自分宛てに戻ってきてくださった時、売り上げにつながってチームに貢献できた時
- 上司・先輩から仕事を任せてもらえて「信頼されている」と感じられた時、ほめられた時
- 新しいことを学べる時 など
●モチベーションが特に下がった要因
- 単純なミスを繰り返してお客様、チームに迷惑をかけてしまった時(自己嫌悪)
- できると思うことができず、空回りしたり焦ったりして、良い結果につながらず、落ち込むループに入る
意欲を持って仕事に向き合おうとする大半の新入社員が、”やればできる!”という手ごたえをしっかり感じる一方で陥るこの”落ち込むループ”こそが、別名「ミス・スパイラル」と呼ばれる状況です。
■ミス・スパイラルとは?
ミス・スパイラルとは、一つのミスをきっかけに、不安や焦りからさらにミスを重ねてしまう悪循環のこと。
私も含め皆さんも経験があるかと思います。慣れない業務をする場合、誰も失敗したくはないのですが、どうしてもミスをしてしまうことはあります。ただ、その1つのミスがきっかけとなって以下のようにずるずると大きな影響を及ぼすことを指します。
【具体的なスパイラルの流れ】
最初のミス: 小さなミスをしてしまう。
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精神的な動揺: ミスを恐れたり、動揺したりすることで、冷静な判断力が鈍る。
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自信の低下: 「自分はミスをする人間だ」と思い込み、自己肯定感が低下。
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さらなるミス: 自信のなさや焦りから、集中力が続かなくなったり、「ダメな自分と思われたくない」と、周囲に協力を求められなくなったりして、さらにミスを重ねてしまう。
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悪循環の固定化
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この悪循環が繰り返されると、「自分は失敗する」「ミスはすべて自分のせいだ」という考えに陥りやすくなり、スパイラルから抜け出しにくくなる。(深みにはまるとメンタルの症状につながる恐れもあり)
「新人はミスをするのが当たり前」と研修では学んだものの、たとえば以下の環境だと素直にそうは思えず、自分に過度にプレッシャーをかけて落ち込んでしまうことは十分に起こり得ます。
- 入店数が少なく、スタッフも少ない中、「接客についた自分が売らなければ今日の売上予算が達成できない」という焦りがある状況。
- 同期がしっかり仕事ができ、先輩からほめられている。ここで自分がミスをすると比較されてしまうというプレッシャーがある状況。
- 店頭人数が少なく、業務に時間をさほどかけられないが、正確にやらないといけないというプレッシャーがある状況。
- ただでさえ忙しい中先輩が時間を割いて教えてくれているのに、自分がミスをしてしまうと、お客様にもチームにも多大な迷惑をかけてしまうという責任感が強い状態。
などなど。
ある新入社員は、ミスによって皆に迷惑をかけてしまって、挽回しようと焦ってまたミスをして迷惑をかけて・・本当に自分が嫌になってしまいました、と打ち明けてくれました。そうするとどこかで冷静さを失い、しなくてよいミスまで誘発してしまうことがあります。特に過去ミスによって迷惑をかけてしまった事実があると、余計に「またやってしまった」と落ち込みも大きくなります。”自分はもっとできる人間だと思っていたが、そうでもない”という厳しい現実に直面する瞬間なのです。
では、その「壁」をどのように本当の意味で成長のばねにできるのでしょうか?その場合、本人の資質も関係しますが、一方でメンター及び店長の働きかけで大きな違いが生まれてきます。

■メンター・店長として、スタッフがミス・スパイラルから抜け出るのを助ける3つのポイント
新人を指導している先輩スタッフ(メンター)に聞くと、以下の3つの分岐点で、先輩、上司が正しい方向にリードすることこそが、「ミスを勉強代」として次に生かせる経験になるといいます。
分岐点1. 精神的な動揺の後、”冷静に事実を振り返る余裕”をつくれるか?
人間は感情の動物です(感情7割!)。感情が高ぶっている時にはなかなか冷静な判断や思考は働きません。ですから、本人が動揺している時に厳しく叱ったり、「なぜこういうことになったの?!」と詰問しても、しどろもどろの答えしか返ってきませんし、本当の振り返りにはならないケースが多々見られます。それよりも、まずは冷静になってもらうこと。
そこで、先輩、上司としては、まずは事実情報を集め、確認します。もちろん迅速な対応を求められている場合は、先輩がフォローし、まずは解決を図ります。そのうえで、本人が少し冷静になったところで、事実情報をもとに1つ1つのステップを確認し、ミスの原因を掴みます。
その際、「誰が悪いのか」「なぜ~をしなかったのか?」と責めるのではなく、「何がそうさせたか?」という客観的な視点で要因を整理していくと、効果的です。なぜなら、ともすると自己防衛(言い訳)に向けてしまうエネルギーをきちんと問題分析に向けることができるからです。真の要因が見えてくれば、今回のケースから分かったことを再発防止に向けてチームのノウハウや財産にして行けます。
例:金銭授受の間違い➾何がそうさせたか?➾「お急ぎの状態で焦り」「慣れない手続き」「近くに聞ける人がいなかった」「売る覚えの知識」➾見切り発車での誤った判断➾同じような状況に陥った際、今後どうすべきか?整えられる環境支援、教育支援は?を考えていける
分岐点2.”過去にも皆同じような経験をして、今がある”ということを受け止めてもらえるか?
冷静に一緒に分析をしたことで、ミスの発生原因は見えたものの、新人自身は「皆に迷惑をかけてしまった」「期待に沿えなかった」「貴重な時間を奪ってしまった」「またミスをしたらどうしよう」という心配が消えたわけではありません。むしろ、その不安が次のミスにつながるリスクがあります。
そこで、感情面に対する働きかけもしっかり行っておくことが大切です。先輩スタッフ曰く、「分かっているつもりでも、人間はちょっとしたことでミスをしてしまう。だからこそ、いろいろそれを防ぐためのルールや工夫が生まれ、オペレーションができている。これは皆先輩たちの痛いミスから生まれた創意工夫の賜物。自分で体験したからこそ、その重要性が分かってもらえたと思う。実際私も‥」という話をしていくと、それまで「先輩たちは迅速に正確にすいすいできるのに、自分は…」と無意識にも比べてしまって落ち込んでいた新人も、「そうだったんですか」と少し安心してもらえることがよくあります、とのこと。話をした後には表情も明るくなり、心理的なリセット効果につながるとのことです。
分岐点3.再発を防ぐための作戦を、一方的ではなく一緒に導き出せるか?
ただし、一番の薬は「ミスから学んで、同じミスをしなくなった」という状態を創ることです。それが本人の自信になりますし、他のスタッフからの見方も良くなり、安心感を与えるからです。ミスの原因が分かれば上司・先輩の経験をもってすれば、大半の場合、すぐに対処策を打ち出せます。が、あえて一方的に「じゃあ、こうしましょう」と結論を伝えるのではなく、「今後どうすれば防げるかな?」と考えてもらうようにすることが大切です。なぜなら、起こったミスも「全くやり方が分からなかったから」ではなく、「分かっていたのに抜け落ちた」ことが原因であることが多いからです。ということは、解決策も「こうすればいいんだよ」と言われて、分かったつもりになるだけでは再発の恐れがあります。
”二度とこういうことは起こしたくない”と思っているタイミングが一番重要で、どうすればよいかを自分で考えてもらうことで、より記憶に鮮明に刻むことができますし、注意深くもなります。答えが出ない場合には、ヒントを示唆したり、教えることも必要ですが、本人が出した答えに対し、認めたうえで+アルファを付け足すぐらいがちょうどよいでしょう。
以前、店長達に「仕事をしていて一番印象に残っているフィードバックは?」と聞く機会がありましたが、「まだ仕事に慣れず、ミスをして落ち込んでいた時、物事がうまく行かない時に、当時の上司や先輩から”課題を整理してみようか””あなたならできる”と、端的にアドバイスされたことが自信を取り戻すきっかけになりました」という声が複数挙がりました。落ち込んでも変えられない「過去」に向かいがちなエネルギーを、「未来」に向かって考えることに集中させる効果があるのが、こういう時の先輩、上司の問いかけです。
■心理的インパクトを伴う体験こそが、最大の教育チャンス!
いずれにせよ、新人に対し教えることは山ほどありますが、人間はAIとは違い、記憶のキャパシティにも限界があります。教えても抜けていくことも多々あります。しかし、感情と結びついたことは、強く記憶に刻まれる確率が高いと言えます。「ミスをしてしまってどうしよう」とハラハラしているとき、「皆に迷惑をかけて苦しい」という想いをしている時こそ、今後の記憶を刻む良いチャンスです。もちろん、逆も真なりです。お客様に喜んでいただけて新人も嬉しい!というタイミングで「あなたの日頃の~という努力が実ったから」とフィードバックすることで、その行動がさらに強化される効果は非常に高いと言えます。
研修以上に現場での指導が効果があるのも、実体験が伴うとともに感情のパワーを活用できるからこそです。是非スタッフのモチベーションの動きを観察し、大きく動いた時を最大の教育のチャンスにしていきましょう!

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