■研修で学んだことを実践しない理由とは?
多くの店長から「少しでも新鮮な刺激を受けて自分の接客を見つめなおし、さらにワンランクアップしてほしいという気持ちから、タイトな人員体制にもかかわらず貴重な時間を使って研修を受けてもらったのに、帰ってきた後数日たってみると元の通りの接客をしていて、これでは何のために研修を受けてもらったのかわからない」という声をお聞きすることがあります。私自身、研修を担当させていただく機会も多いことから、どうすれば本当の意味で研修の効果性を高めることができるかという点では共通の悩みであり、チャレンジ課題です。
そこで、そもそもなぜ研修で学んだことを現場で「行動」として反映できないのか、という点について整理してみると以下のような理由が考えられます。
①研修で学んだ内容が自分にとって役に立つと思えない。たとえ有用だと思っても、”今のやり方を変えるほど”重要であると考えていない
②重要だと思っても、それを絶対にやらなければならない、という環境にない
③やろうとトライはするが、スキルが定着するにはある程度時間を要する。つい目先のことに追われて辛抱ができず、従来のやりやすい方向に流されてしまう
要は、本当の意味で追いつめられないと人間なかなか従来の習慣は変えられない、という面があります。
私自身も海外旅行の前後は英会話ができると便利で安心、話せるようになりたいという意欲からオンライン英会話にトライしてみるものの、日常的に練習し続けるのは思ったより難しいと感じます。毎回先生から「Let’s practice English!」と叱咤激励されるものの、ついつい
*日常的に英語で会話をする場面はほぼ皆無ーやらなくてもそこまで困らない
*地道に努力しても本当に上達している実感が得にくく、他のやるべき目先のことに走ってしまい「時間がない」など言い訳ばかり考えてしまう
*あげくの果てには「近い将来AIがスムーズに翻訳してくれるようになるし・・」とやらなくていい理由まで考え付いてしまい練習をやめてしまう
というパターンの繰り返しです。それらの壁を越えてしっかり英会話をマスターしている人を見ると、そこまでの陰の努力に対し心から尊敬の念を抱きます。
裏を返せば、せっかく研修という形で時間とお金を投資したのであれば、研修後に「それをやらなければならない」という環境づくりが最も効果的で、最初はスタッフ自身抵抗感があっても、結果的にスキルをマスターできれば、誰にとってもハッピーな状況を作れるのではないのでしょうか。実際、私の知人で英会話をマスターしている人は共通して、”自分で英語を使わなければならない状況”に身を置いています。苦労も多いものの、結果的には問題なくコミュニケーションがとれるようになり、キャリアアップのうえでも大きな財産となっています。そういう人を見るにつけ、本当に大切なのは、やらなければならない状況に置かれること、そしてその状況下でも”逃げない姿勢”を持ち続けられるかどうかだと感じます。
■研修効果を高めるために店長ができる3つのサポート
では、研修を受けて帰ってきたスタッフに行動変化を促し、新たなスキルを定着してもらうには店長として何ができるのでしょうか?これまでたくさんの事例を見てきて、私自身が感じる3つのポイントを挙げてみます。
1)研修に行く前に「何を特に学びたいか、それはなぜか」を考えてもらい、共有する。店長からも学んでほしい点を理由をつけて伝える
何事も”段取り8分”と言われるように、まずは事前の準備が効果を大きく左右します。スタッフ自身が今どういう問題意識を持っているのかを確認するとともに、スタッフの成長課題を踏まえて、さらにワンランクアップを狙ってもらうには、何を掴んでほしいのかを伝えておくと、スタッフも期待に応えるために学習に力が入ります。せっかくの投資に対し、最大限のリターンを得るというのが店舗経営者としての重要なミッションです。そのためにも、事前の確認に時間や手間をかけることは店長として必要なことです。店長自身が研修内容を知らない、ということもありますが、その場合は「帰ってきたら内容を整理して私にしっかり教えてください」と伝えておくとよいでしょう。このように目的意識をもって参加するスタッフは、同じ研修を受けても吸収するものが何倍も違うというのが私の実感です。
2)研修後、内容を再度確認しあい、GOAL(目的・目標)とアクションプランを共有するー難易度を考慮する/約束を取り付ける/可視化し毎朝確認する
単に「研修お疲れ様、どうだった?」「それを活かして頑張ってね」という声掛けではなく、事前の目的に対して何を学んだのかを聞くことで、スタッフの理解度や意識面・行動面への影響度が把握できます。理解が不足している点に関しては、「この点はどうでしたか?もっと具体的に言うと・・?」と確認することで、再度気づきを促すことができます。
また、分かったことができるとは限りませんので、「いかに行動変化につなげるか」という観点でまずは第一弾のアクションプラン(難易度はさほど高くないレベル)を設定し、約束を取り付けることで習慣化の第一歩を踏み出させることが大切です。(可視化し、毎朝確認)
たとえば、決定率アップや顧客化につなげるためには接客において「もっとお客様からパーソナルな情報をたくさんいただかなければならない」ということに気付いたとします。そのために「数多く質問する」と行動目標を掲げても、慣れていないと質問がちぐはぐでお客様を不快にさせ、それがトラウマになって質問恐怖症になる、というパターンをしばしば見かけます。この場合、もっと具体的に掘り下げて行動目標設定するとよいでしょう。
例として、店長は以下のような質問でスタッフに考えてもらうことができます。
●お客様から情報をたくさんいただく必要がある
→ 特にどういう情報が必要?それはなぜ?
→ その情報をいただくには、何をすることが必要?ー質問以外にもできることは?質問するのであれば、どういう質問が効果的?
→ 質問にはタイミングが重要ーどういう流れで、あるいはどういうタイミングでどんな質問すると「話しても良い」という気持ちになる?
→ せっかくいただいた情報はどう生かせばいい?
→ では、まずは「〇〇という情報をいただくことを目的に、アプローチから~という一連の行動が当たり前にできるようトライしましょう」「まずは一週間やってみて、〇✖をつけてみましょうか」「〇が当たり前につくようになったら次のステップへ行きましょう」「必要なら事前にロールプレイングで練習をしましょう」
→ それをやる上で、何か不安な点は?
そういう掘り下げ確認があるからこそ、多少のことではくじけなくなります。
3)挫折しそうな際に、サポートする
取り組みがうまくいくとスタッフは自信がつき、その後は自分で「もっとやりたい」という気持ちになります。成長の喜びを実感でき、まさに自主的にレベルアップに向けて離陸できます。こうなったら大成功です。
しかし一方「やってみたけどうまくいかない」ということもままあります。それを放置すると意欲減退だけでなく、そもそも研修内容に対しても店長のアドバイスに対しても懐疑的になり、元のやり方にさらに固執してしまうというネガティブな結果を誘発します。そこで、そういう時こそ店長の出番です。
「なぜ決めたことをやらないの!」と一方的にハッパをかけるだけでは「わかってもらえない」という気持ちにさせてしまうリスクがあります。そこで必要なのは、できている側からすればいとも簡単なことでも、新たにトライしている側にとっては非常に困難を伴う日々である、ということを理解したうえで接することです。
たとえば
「習慣を変えるのは本当に大変なことだけれど、それに果敢にチャレンジして着実に以前に比べ〇〇はできるようになってきましたね。昨日も見ていたら自然と〇〇ができるようになっていて、努力した分確実に身になっていると実感しました。行きつ戻りつは誰にでもあることですが、あと一歩、もう一息を大切にやり続ければ、この延長線上でもっとスムーズにできるようになります。焦らず、着実にできることを増やしていきましょう!」(そう、これはオンライン英会話レッスンのTeacher(20歳のフィリピン人学生)が私によく投げかけてくれる言葉です。)
今日、一つの新たな行動でも、やるかやらないかで確実に小さくても違いが生まれます。その小さな違いを日々継続することで、筋肉と同じように徐々にスキルとして身になっていくのです。まずは欲張りすぎず「やらないよりはやった方がいい」という気持ちでOKです。スキルアップには太さより長さが意味を持ちます。
以上、この3つのことを押さえるだけでも研修への投資効果は大きな違いを生みます。
研修というのは「それを受ければ何とかなる」というものではなく、成長プロセスにおける一つの刺激であり、きっかけにすぎません。まずはスタッフが本来持つ力を引き出すための各スタッフの成長シナリオを描き、それを促進するために「研修をいかにうまく使うか」が問われているのではないでしょうか。そのためにも、与えられた研修を真面目にこなす、という発想から「こういう研修はできないのか?」というオフィスへの発信も店長としては重要な仕事であるといえます。
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