■チームは一日にしてならず
野球に日頃関心がない人にとっても、先日のワールドベースボールクラシックでの侍JAPANの優勝はある種の感動をもたらしたのではないでしょうか。かくいう私も、出場選手だけでなく、ベンチで待機する選手も含め全員の一挙手一投足から”自分が目立ちたい””自分が前面に出たい”という気持ちよりも、「何としてもチームの勝利に貢献したい」「せっかくの機会をファンや仲間にとって最高のものにしたい」という想いが画面を通じてひしひし伝わってきて、そのひたむきさに素直に感動しました。同時に、”言葉を超えて選手同士の心の絆が相当強いんだな”という気持ちにさせられました。「これがあるから野球はやめられない」と試合後に複数の選手が語っていましたが、本当に感動できるというのはやはり、自分の成績が上がった、自分が評価されたというだけでなく、チームとして共通の目標を達成するために葛藤したり、もがき苦しんだり、助け合ったりした後で、見事クリアできた時であり、その瞬間、それまでの苦労もすべて素晴らしい且つかけがえのない経験として深く心に刻み込まれるのだと思います。そこにむしろ山あり谷ありのドラマがあるからこそ、クライマックスで日常では味わえない深い感動を味わえるのではないでしょうか。
ローマは一日にしてならずということわざがあるように、素晴らしいチームも一朝一夕にできるものではありません。特に価値観の多様化が進む昨今では、さらにそれが難しくなってきています。だからと言って「時間さえかければよいか?」というとそうもいきません。店長としては、一日でも早く強いチームに育ってほしい、という焦りも生まれます。
では、どうすれば、より効果的かつ効率的に相乗効果が出せるチームを作れるのでしょうか?そこには私たちが通るべき4つのステップがあることを知っておくことで、遠回りしなくて済むようになります。
■チームの成長4段階:自店舗は今どのステージ?
チームもある種生き物のように変化してきます。タックマンの法則では、それをわかりやすく「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」の4つに分類しています。自店舗に当てはめてみるとよくわかるように、確かに多かれ少なかれ、この4つの段階を経て結束は強まっていくといえます。
●形成期
新店舗オープンでお互いにあまり知らない同士が集まった。あるいは、複数のメンバーが入れ替わり、また新たにチームワークを作り上げなければならない状況に置かれた時のチームの状況をイメージしてみましょう。往々にして期待もある反面「どうふるまえばいいのかな」という不安もあります。ゆえに、様子を見ようと日頃の積極性もなりをひそめ、緊張感やぎこちなさも若干漂います。しかし、そういう不安定な状態にずっといたくない、という心理が働きますし、店長としては極力みんながスムーズにコミュニケーションをとれるよう肩の力を抜いてほしいと思うでしょう。ゆえに、店長として「お互いを知る」「お互いに安心感を持たせる」というきっかけ作りは重要です。その際、淡々とメンバー紹介するというより、一工夫入れて(〇〇さんの特技は?〇〇さんは~という経験をお持ちですなど)紹介する、ということも重要です。また、チームとして「これだけは守ってほしい」というルールや規範を明示することで、その範囲内なら自由にできるという安心感も生まれます。
●混乱期
一緒にいる時間が長くなることで(必要に迫られることも含め)、コミュニケーションはスムーズになってきます。ベースに安心感が生まれるのは非常に良いことですが、一方で仕事の成果を求められるだけに、各自「こうした方がもっとうまくいくからこうすべき」など、”我”が出てくるものです。しかし、年代、性別、これまでの経験、こだわり、目指すものが違っていればいるほど、お互いに価値観のぶつかり合いが生まれます。これはある意味、避けられないことであり、むしろ、次のステップへ行くためには必要なことといえます。なぜなら、お互いに表面だけ合わせて心の中では「もっとこうすればいいのに・・・でも何かいうと波風が立つから言いにくいな」と思って自分の中に閉じ込めてしまうと、その欲求不満はどうしても陰での他者批判、あきらめや無気力に向かい、当たり障りのない距離感で終わってしまうからです。逆にこの段階で考え方のぶつかり合いがあるからこそ、「本当に私たちは何を目指すべきか」を皆が真剣に考え、最終的に共通目標化できるのです。
実際私も過去を振り返ると、チームマネージャーをしていた時、各自が「うちのチームはこうあるべき」と主張し、それがお互いに相容れずチーム内で険悪なムードになったことがありました。しかし話しをよく聴くと各自の経験則から導き出した主張には、それぞれに良さもあれば、偏りもあります。どれが一番!と決められないということがわかります。そこで、せっかく良くしたいという想いから言ってくれているのであれば、「なぜそう思うのか」について、チームメンバー全員で一度しっかり話し合った方が良い、と考え、ミーティングを持つことにしました。やる以上はバトル覚悟でとことん話し合い、最終的には「チームの共通目標を明確に絞る」という目的を掲げてスタートしました。途中感情論に走る場面もありましたが、リフレッシュタイムを入れつつ進める中で、徐々に真剣な議論を楽しむ雰囲気が生まれてきました。最終的にはお互いの主張の背景を良く理解しあったうえで、メリット・デメリットを整理し、過去は過去として、今後このチームとしてどうありたいか、ということを洗い出しました。絵の得意なメンバーがイラスト化しながら進めてくれたことで、途中から「どうせなら未来はこうしたいよね」という方向にベクトルが合い始めました。そこからはリーダーはいてもいなくても良いぐらいの勢いでメンバーが自主的にビジョン固めをしていき、「これでいきましょう!いいですね」と私に念を押してきました。始まる前は、どうなることかと不安もありましたが、そのステップがあったおかげで、その後も「これは違うな」と思ったときは率直に言い合える関係が築けました。これはストレスをためない、という点でも本当にありがたいことでした。
●統一期
では、混乱期を経てなんでもスムーズになるかといえば、大筋合意でも細かな点でやはり意見の食い違いはでてきます。ただ最終的には「チームの目標達成のためには何が必要か」が判断基準をなるため、話し合いをして納得をすれば協力的に動くようになります。どちらの意見が上とか下ではなく、それぞれが良かれと思って自分の意見を出し合うことでより当事者意識が生まれます。また、For The Teamで判断し、行動している状態を素直にたたえあう雰囲気も生まれてきます。あるスタッフは「店長は上の方で、私は下っ端なのに、忙しい時店長がすすんでごみを集めて捨てに行ってくれて。本来は新人の私の仕事なのにすみません、と言ったら、”その時できる人がやれば、お客様にもっといいサービスができるでしょ”と笑顔で言われて、ああ、うちのお店はお客様大切というのを言葉だけでなく、みんなが当たり前に実践しようとしているんだと教えられました」と言います。そう、言葉だけでなく率先垂範して見せる、またそういうメンバーの言動を尊重することで、よりチーム内の信頼は高まります。
●機能期
この段階になると、メンバーはチーム目標のために何をすべきかを自分で考えて行動し、必要に応じて修正するようになります。最も顕著なのは
*自分が属するチームを誇りに思う
*チームが評価されたり、チームメンバーが称賛されたりすると自分のことのように嬉しいと感じる
*チームがいい状態でいられるよう、何ができるかを当たり前に考えて行動する
*もっと貢献できる自分になりたい、という想いでスキルアップに努める
などの状態になることです。
私もこういう状態のチームに属していたことがありますが、長期休暇の際など、早く会社に戻って皆と一緒に頑張りたい、その方が刺激が大きいし、得られる達成感も大きいと素直に思ったのを覚えています。確かにその時はスキルも伸びましたし、会社に対する信頼感も高く、貢献度も必然的に高まったと記憶しています。
チーム作りは一朝一夕にはいかないものの、こういう成長プロセスをたどるものだ、と少し距離を置いて自チームを眺めることで、今の立ち位置や今後どこに向かうべきかが見えやすくなります。
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