ラグジュアリーブランド店長ブログ

将来のクレームを生まないための3つの種まきとは?:ブランド店長問題解決講座(58)

■こんなに高いものなのに、どうして壊れるの!ーラグジュアリーブランドへの高すぎる期待

バッグ、時計、靴、アクセサリー・・世の中には様々な商品があふれていて、絞り込むのが大変なぐらいです。価格を見ても幅が相当に広く、機能はさほど変わらないのになぜこれだけの差が開くのか、と考えると、原材料費や製造工程のこだわり等によるコストの違いだけでなく、”価値”の差額が大きく反映されています。特にラグジュアリーブランドとなると、「憧れ」「夢」も一緒に提供するために、相当な努力が求められます。広告、店舗のつくり、保管、保証などなどに加え、スタッフによる行き届いたサービスを実現するための投資など、挙げればきりがありません。それが功を奏して「さすが、ブランドは違う」という絶対的な安心・信頼を築いてきた歴史があります。

しかし一方、お客様の中には期待が高まりすぎて、「高いものなのに、ブランドものなのに、どうして壊れるの!」という気持ちになられる方もいらっしゃいます。私たちはその高い期待に応えるべくさらなる努力が求められる立場ではありますが、いかんせん製品は使えば消耗します。また、経年劣化も避けられません。私たちにとっては当たり前のことですが、お客様の中には「ラグジュアリーブランド=長期にわたって品質が変わらないもの」という信頼、あるいは信仰に近いお気持ちで買われる方もいらっしゃいます。結果、経年劣化であってもクレームにつながり、ご理解・ご納得いただくためにお客様だけでなく、スタッフ側も心身ともに負荷がかかる、ということがあります。では、そのギャップをより効果的に埋めるには何が必要なのでしょうか?そこには3つのポイントがあります。

■種まき1:製品をお渡しする際に細心の注意を払う

まずは、商品をお渡しする際にクレームを未然に防ぐ対応が求められます。具体的には
・商品の魅力、メリットとともに、素材や作りの特性から、使用する中で起こりうる事象を伝え、それを防ぐためのちょっとしたお手入れ法、工夫を一緒に伝える
・お客様にじかに見てご確認いただいたうえで、ご納得の上商品をお渡しする
・返品、返金ルールについてきちんと伝える
・修理体制について伝える
・メンテナンスカードに記載されている項目の中でも重要項目については、一緒に見ていただき、ご確認いただく
・相談窓口について伝えておく(店舗、カスタマーセンター連絡先)
などです。そのためにも、商品やその素材の特性について、日頃からより専門的な知識をインプットしておくことはプロとして非常に重要です。

■種まき2:伝え方を研究する

上記のことをマニュアル通り丁寧にやろうとすると、「そんなに手入れが大変なら面倒くさくて使えない」とお客様の購買意欲を減退させてしまうリスクもあります。わくわくして使うイメージが、逆に製品に細心の注意を払うとなると、主人公が自分ではなく、製品になってしまうからです。誰しもできるだけそういう負荷を減らしたい、という欲求はあります。そのジレンマをどう乗り越えるかが、スタッフの腕です。

そこで、伝え方が非常に重要になります。

たとえば「この素材は水に弱いので、雨にあたってしまうとしみになってしまう可能性があります。もし濡れてしまったらすぐに拭いて、乾燥させてください。できれば雨の日にはお持ちにならないようされた方が良いと思います。また、~ですから、。。。しない方がよろしいです。・・・」と続けられると、お客様心理としては「要は使いたいときに自由に使えないし、使った後の手入れがそんなに大変なのか」ということしか印象に残らなくなります。

そうではなく、「こちらの商品は本当にお客様にお似合いで、是非楽しんでお使いいただきたいですし、長くご愛用いただくために、3点だけお気を付けいただくと綺麗な状態で快適にお使いいただけます」など、①商品自体の魅力②長く良い状態で使っていただくためにという目的の明確化③お手入れポイントを限定(これだけやればOK)という点を明快に伝えることです。また、④実際に使ってみた感想(私も実際に使ってみましたが/ご利用されているお客様のお話では)という実例を盛り込むとさらに説得力が増します。

■種まき3:”ご愛用傷”を味わいにする

さらにお手入れをしていても日常的に使用すれば、細かな傷がどうしてもついてきます。それを「劣化」と見るか「風合い」と見るかは価値観の違いです。大切にしながらも時間を一緒に刻むことで生まれてきた傷をあるスタッフは「ご愛用傷」といいます。修理担当のスタッフと話していると、「もう買い換えてもいいのではないか」と思うぐらい使い込まれた商品が修理に出されてきて、「部材の用意ができない」というケースもしばしばとか。お客様にとっては、いくらでも買い換えられる余裕はあっても、歴史を一緒に刻んできたという愛着は新品とは変えられない重さがあるのです。「長くお使いいただける」ということを謳っているブランドは、その気持ちを汲んで対応する責任があります。交換部材が用意できず修理を断らざるを得ない場合でも、ただ「できません」ではなく、お客様の気持ちに寄り添って一緒に残念がる気持ちを表すことは非常に重要です。そこまで気持ちを入れて使い込んでくださるコアなお客様に支えられてブランドは成り立っているのです。

「たかがバッグ、されどバッグ」。ある店長が言っていた言葉です。日常的に接客を通して商品を渡すことに慣れすぎてしまうと、「〇〇が売れた」という感覚で終わってしまう怖さがあります。しかし、お客様からすれば、何万とある中から絞り込み、中には数日考え抜いて買うと決断し手に入れる、というプロセスと覚悟がいるのが高価なブランド商品です。だからこそ、「失敗したくない」という想いも強くなり、期待も大きくなります。その気持ちにこたえ、「この商品を購入することは良い選択だった」と実感していただくまでが私たちの責任です。だからこそ、「売る」ことだけでなく「どうすれば最高の状態でお使いいただけるか」を一歩踏み込んで考え、ご提案してく力がスタッフには求められるのです。

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