■店舗ビジョンを描けと言われても、目の前のことに追われてしまって・・・店長失格ですか?
いつのころからか、店長たるもの店舗をいつ頃までにどんな状態にしたいのか?というビジョンを描き、そこを目指してスタッフをリードしていく必要がある、と言われ始め、店長会などでもそれをしっかり発信しなければならない、という機会も増えました。本来ビジョンとは、「どうしてもこうしたい!」という”内側から湧き出すパッション”が伴ってこそ、関係者を含めた環境を動かすパワーにもなり得ます。
しかし一方で「とりあえず、何かしら店舗ビジョンらしきものを発表しないといけないから、恥ずかしくない程度に作文しないと・・」と焦っている店長の声も聞くことがあります。いわゆる【発表用ビジョン】です。ですから、発表が終わると、店長自身が発信したビジョンを覚えていないということもしばしば起こり得ます。それを繰り返すうち、「所詮、店舗ビジョンなんて…」という空気が店舗あるいは会社全体に蔓延してしまう、ということにもつながってしまいます。
ある店長が「店舗ビジョンと言われるたびに”こうなったらいいな”と思う理想は書きだしますが、何がなんでも本気で絶対にやるぞ、というところまで気持ちはついていっていません。本来、本気になれば、”そのためには、まず何が必要で‥”などの戦略も伴うでしょうし、”もっとこれもやらなきゃ”と自分自身にはっぱをかけるようになると思うのですが、現実には目の前のことを日々問題なくこなすことだけでも大変なのに、それ以上と言われても‥という葛藤も感じています。自分のこんな気持ちはスタッフには言えませんが、そこまで強く自分を追い込めない私は店長失格でしょうか?」と正直に心の内を共有してくれました。自分に正直だからこそ、ここまで悩むのだと思います。ただ、店長を苦しめるために店舗ビジョンが求められるわけではありません。むしろ店長のパワーを解放するために店舗ビジョンは存在するのです。では、本来自分の中にあるパッションを自分でどう引き出してビジョン化すればよいのでしょうか?
■特にリテールは未来が不透明、不安定!安定させるためにも方向性を示す必要
店舗は日々お客様に来店いただき、購入いただいて初めて売り上げが立ちます。しかし今日来店されたお客様が毎日規則正しく来てくださる、ということはほぼ期待できません。入れ替わり、立替わり様々なお客様が様々な目的で来店されたりされなかったり、きわめて不安定です。もちろん天気もダイレクトに影響します。今週末のご来店と売り上げを予測していても、悪天候で計画が狂うことはしばしば。時にはイベントを仕掛けたにもかかわらず悪天候だと経費をかけた割にキャンセル続出、ということもあり得ます。しかし、継続的な関係構築を考えるとホテルや結婚式場のようにキャンセル料をいただくことはなかなか難しい。月予算、週間予算、日割りの数字をにらみながら、お客様が入店されないことには何も始まらない。もしこの後夕方まで入店がなかったら…など、一寸先も不安だらけです。「うちはたいてい夕方から混むから大丈夫」「インバウンドが来ているから大丈夫」と一見安定しているように見える店舗ですら「なぜか今日はどなたもいらっしゃらなかった」「インバウンドが急に減ってしまって」ということは日常茶飯です。そう考えてみると、本当に1日1日が勝負です。上記の店長が言うように「目の前のことを日々問題なくこなす」ということなくして、月間の数字の積み上げは期待できません。
では、そういう中で店長として本当に実現したいと思える店舗ビジョンを描くポイントを挙げてみましょう
1)不安感を活用する
「先月は良かったけど、今月は大丈夫かな・・」という不安感の奥にあるのは「こうありたいけど・・」という自分なりの期待水準です。もし、「こうありたいけど」という想いがなければ、日々こんなもの、と割り切り、不安もさほど生まれません。つまり、不安感が強い店長ほど、むしろ「何とか安定させたい」という強いパッションがあるということです。不安は敵ではなく、むしろ私たちを成長に導く重要な資源なのです。
2)不安定を安定化するために必要なことを洗い出す
次に不安にさいなまれないで済む状況を創るには?という切実な自分自身のニーズを直視しましょう。一見、何の不安もなく店舗運営をしているように見える他の店長でも、心の中を覗けば不安の種ばかりです。しかし、不安をそのまま露呈して、周りまで不安に陥れるのではなく、「やるべきことをやりきる」ことで、自分の中の不安を安心に転換しているケースは多々あります。
たとえば、目先の数字を追い求めて押し売りに走るのではなく、しっかりとお客様の信頼を得る接客スキルを身につける。また接客に専念できる環境を創るために、クリンリネス、待機、バックオフィス業務の効率化など見えないところも手を抜かず計画的に徹底する。ここまで徹底すればかなりの確率で入店された方に良い体験だったと思っていただける、というレベルを目指す。スタッフが入れ替わっても、それが安定的にできる状態を確立する、そう考えていくと自ずと「お客様に常に最高の接客体験を提供できるお店にする」というビジョンが見えてきます。
3)それによって誰がどうハッピーになるかを明確に描く
自分の不安感を安心感に変えたい、ということを出発点に考えて「こうなったら自分自身がまずは幸せだ」と思えるかどうかは重要です。なぜなら、それを主体となって進める中核が自分だからです。ただし、自分の幸せばかりを追求しようとすると、知らず知らずベクトルが偏ってしまい、関係者を巻き込みにくくなります。そこで、自分がハッピーになることで、関係者もどうハッピーになれるか?について多面的に考えてみることが大切です。例えば、高い接客スキルを要求するとなると、スタッフの中には「そんなレベルまで追求するのは大変」と思う人も出てくる可能性はあります。ただ、スタッフの視点で長い目で見て諦めてよいのか?というと、十分なスキルを持たないということは、スタッフ自身常に「来月の個人予算いくかな?」「顧客を創らないといけないけど、無理そうだな」と仕事を通して安心感や自信を醸成するチャンスを奪うことになりかねません。多少抵抗はあっても、誰もが不安定な中で、少しでも安定感、安心感を持って仕事を楽しむ余裕を生むためにも、必要なことに関しては譲らない姿勢は必要です。
■未来は見通すものではなく、創るもの!
未来が100%見えていたら、もっと楽に先を見通して計画を立て、粛々とそれを実行していくことで成り立ちます。しかし、益々混とんとする市場環境の中では、未来はこうなるのではないかという仮説は重要ですが、そこから「だからどうする」と決意して行動することはさらに重要です。店舗を任されている店長として、未来を切り拓いてほしい、という期待があります。足元を固めつつ、不安になった時こそ、私はどうなりたいと思っているのか?と自問自答してみることもビジョンのアイディアにつながります。是非トライしてみてください!
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