■スタッフに「あなたのお店のチームワークは良好ですか?」と聞いてみたら・・
お店のチームワークの良し悪しは、店舗の業績や定着率にも直結するため、会社・店長にとって重要なテーマですが、そこで働くスタッフ一人一人にとっても非常に重要なテーマです。良い環境、特に職場で上司・同僚と良好な人間関係を保ちながら仕事ができたらいいな、というのは誰しもが強く思うことですが、店舗という限られた空間内で長時間一緒に仕事をする場合、そのウエイトはさらに大きくなります。
そこで、ラグジュアリーブランドブティックで働くスタッフ(年齢、キャリア、性別など様々)に、「あなたの店舗のチームワーク状態はどうですか?」「良好だとしたらなぜ?」「悪いとしたらなぜ?」「どうすればさらに良くなると思う?」という質問を投げかけ続けてみたところ、その回答からおぼろげながら見えてきたことがあります。主観も入って恐縮ですが、今回、それを共有したいと思います。
◎「チームワークが良好」と回答したスタッフにその理由を聞くと・・
(以下は、回答の一部をランダムに並べたものです)
①みんなで月予算を達成しよう!決定率を上げよう!等の明確な目標に対し、ベクトルが合っている。なぜそれが大切か?をみんなが正しく理解し、且つその達成に向けたコミュニケーションが積極的にとれている
②日々の予算と、やるべきこと、および誰がそれをやるかまで明確に落とし込み、店舗業務全体がスムーズに回る体制になっている。ゆえに、突発事項があっても対応できるゆとりもある
③人数が少ない分、チーム接客やお互いに助け合おうとする行動がとれている
④「もっとこうしたらどうか?」などの意見が出しやすく、決まったことに対しては協力的に取り組む。またお互いに助言しあうこともできており、独りよがりにならない状態である
⑤お互いにしてもらったことに対する感謝や、売り上げが上がったときなどほめ合うことができている
⑥店長が日ごろからチームのモチベーションが上がるような声かけをしてくれている
⑦店長が自店の取り組み課題を提示し全力でサポートしてくれるし、個々スタッフに対し的確な指導をしてくれる
➾こういう環境だからこそ、エネルギーが前に出て、それがまたお互いに良い影響となり、チームワークが保たれる、という好循環になっている様子
▲「うちの店舗のチームワークは今一つ」と回答したスタッフにその理由を聞くと・・
①スタッフ間でのコミュニケーションが円滑ではなく、定着しない要因にもなっている。
②メンバー間の関係性の調整が難しい
③スタッフ間で意見の食い違いがあり、間に入って戸惑うことが多い。あちらを立てればこちらが立たずの状態・・
④和を乱す人がいて空気にも影響し、ストレスになる
⑤ベテラン同志はすでに分かっていることを前提に行動しているが、後輩への落とし込みができておらず、ぎくしゃくする
⑥意見を率直に言い合うことが難しい、遠慮せざるを得ない状態
⑦個人売り上げを意識しすぎて視野が狭くなったりフォローする余裕がなかったりする
⑧店長不在時にフォローする人がいないため、指導が手薄になる。自発的にその役割を担う人も出てこない
⑨スタッフによってプライオリティや役割の捉え方が違うため、物事がスムーズにいかない
⑩店長が実際に忙しく、情報や考え方を共有できていないため、風通しが良いとは言えない
➾お客様に気を遣う以上に、同僚に気を遣わなければならない状態で、発散もできずストレスが蓄積する。それがネガティブな影響を与えあうことにもつながってしまっている様子
いかがでしょうか?あくまでランダムにピックアップした一部の声ですが、チームワークを良くするヒントがいくつか見えてくるのではないでしょうか。
■店舗のチームワークをよくするために”店長として今日からスタートできる3つのポイント”
1)チームワークを良好にするにはチームメンバーの中の「当たり前の基準」をどのレベルにするかを明確にし、定着を図る
上記の例でも分かる通り、チームワークが良好であると考えているスタッフが所属する店舗では、組織として本来やるべきこと(共通目標の明確化、浸透、目標達成のための役割分担及び責任の明確化、ホウレンソウの徹底、個々へのサポート、連携など)が、メンバーにとって自然な形で「やって当たり前」と受け止められ、行動化されています。裏を返せば、それらをやっていないと「~ができていない」と気づくことができ、元の状態に戻そうという行動が生まれるということです。それはチームとして最大の強みになります。
実際に、そういう店舗で働くスタッフの声を聴くと、「うちの店舗は、以前は何か問題があると犯人探しになり、それが嫌であまり口を出さない、黙々と仕事をして終わり、という雰囲気で、結果的に定着率も悪い、という状態が当たり前でした。でも、今の店長に替わった時、店長から言われたことが変わるきっかけでした」とのこと。
具体的に店長が発信したのは、”このお店はお客様にあまり認知されていないため、入店数も少なく、予算達成も厳しい状況です。でも、だからこそ、入店いただいたお客様にはよそ以上の親切・丁寧な接客で、”入ってよかった”を刻むことがまずは必要です。でもそれは一人ではできません。全員の協力あってこそです。それはただ他の人の接客のフォローをするというだけではありません。限られた人員で、店頭に常にサービスを提供できる人がいる状態を創るためには、バックヤードの業務のスケジュール化と一人一人が責任をもって自分の役割をやりきること、それも必要なフォローがあれば助け合う、という連携ができて初めて成り立ちます。私はそれができると思っているし、その実現サポートのために私がいますから、遠慮せず思ったこと、困ったこと、すぐに相談してください。私も気づいたことは言わせていただきますが、それはすべて『皆でお客様に愛されるお店を創るため』という前提です。皆さんも「どうしたら今以上にお客様に愛されるお店になるか」をベースに、意見があればどんどん出してください。”という内容でした。
スタッフ曰く、当初は「本当かな?」という気持ちもありましたが、実際に出したアイディアに対してきちんとお礼を言ってくれたり、採用可否の理由を教えてもらえるし、お互いにフォローしあうようになると、断然以前より仕事がスムーズになり、楽しくなる。もちろん、問題も発生しますが、店長が真摯に向き合ってくれるので、遠慮なく相談できるようになって今の状態がある、とのこと。
且つ、「今ではそれがあまりに”当たり前”なので、新しいスタッフが入ってきても、その当たり前が崩れることはなく、むしろ吸収して高い基準で行動するため、教育の手間も省ける」というメリットもあります。すなわち、一度きちんと高い当たり前の基準を定着させることで、良い状態はケアさえすれば継続可能なのです。
2)店長のプライオリティを、スタッフが本来業務に前向きに専念できる環境づくりに置く
一方で、チームワークがうまく行っていない店舗では、特にスタッフ間の考え方、優先順位、感情等の違いによって日々発生するちょっとした行き違い・トラブルがストレスとなって蓄積していることが伺えます。それを解決しようスタッフ同士でコミュニケーションをとろうとしても、なかなか思った方向に進まない、それがまたストレスになる、という悪循環に陥ることも多々あります。そういう時に頼みになるのは店長の存在です。人間関係が絡むので、100%即解決とはいかないまでも、「店長はこの状況をわかってくれている」と思うだけでも、心理的負担は軽減されますし、「その解決に向けて一緒に努力しようとしてくれている」と思えれば、「自分もできることはやろう」という気持ちも生まれやすくなります。そういう点で、店長が各スタッフの見える部分だけではなく、見えない部分、すなわち仕事上で抱えている葛藤やストレスを理解しようとする姿勢を見せることはチームワーク強化の基盤になります。逆に、スタッフの声を聴く、悩みを理解する、ということなしに、「皆で協力していいお店にしましょう!」と声高に叫んだところで、「もっと先にやることがあるでしょ」という反発心を生むことにもつながりかねません。店長の最重要責任は、店舗の予算達成ではありますが、それは結果であって、そのためには、一人一人のスタッフがその目標に向けてエネルギーを前向きに発揮できる環境づくりに腐心することが先決です。
3)日頃どういう発信をしあうかにアンテナを立てる
チームワークはある日突然できるものではなく、日々の言動の積み上げです。お互い何気なく発信する言葉や行動の中にポジティブな要素がエッセンスとして入っているかどうもスタッフの心理に影響を与えます。例えば、一生懸命接客をしているのに成果につながらない状態が続いた際、あなたのお店ではどういう空気や言動が見られますか?私が以前所属していたチームでは、非常にポジティブなメンバーが一人いて、落ち込んでいる当事者に対しあえて「良かったじゃない。売れて売れてとにかくさばくしかない、という状態に比べて、今の状態の方が真剣にどうすればいいのか?を多面的に考える機会が与えられてるんだし、それを活用しない手はないよね」と自然な雰囲気でさらりと言って励ます、ということが良くありました。それを聞いている他のメンバーも「言われてみれば・・」と異なる角度で物事を見る癖付けができるようになっていきました。私自身も今でも「○○さんなら、こういう状況の時、どう言うかな?」とふと考えたりします。そのぐらい一人一人の言動は実はチームの仲間の考え方及びチームの空気に影響を与えます。
良いチームを創ろうと焦っていきなり全体を変えようとするとどうしても様々なひずみが生まれます。戦略的な店長は、行き当たりばったりではなく「メンバー間で影響力の強いのは誰か?」「自分の考えに共鳴してくれたり、自分の意見をもってそれを発信できるのは誰か?」「目標達成に対し意欲が高く行動力のあるのは誰か?」など、個々の特性を考慮しつつ、必要な役割を誰に振るとどういう効果が生まれるか?を考え、自分なりのシナリオを描いて取り組みます。結果的に、一人一人がチームに影響を与えている重要な存在であることを認識してもらい、そのうえで、どういう影響力を発揮してもらうことが、お互いにとってメリットがあるかについて、各人と向き合って考えていくプロセスがあるからこそ、店長の考え方も浸透していくのです。”千里の道も一歩から”。今年1年のスタートに当たり、年末にはこういう状態でチームで予算達成を喜び合おう、という生き生きしたイメージを描いてみませんか?
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