ラグジュアリーブランド店長ブログ

戻ってきたインバウンド~多様化するニーズを上手にキャッチするポイントとは?:ブランド店長問題解決講座(15)

■ありきたりの対応・受け身的接客の限界

コロナ規制も解除され、インバウンドの波が確実に戻ってきました。銀座も表参道もショッピングを楽しむ外国人客で活気づいています。円安効果やコロナ後のリバウンド消費で、店舗はてんてこ舞いという状態に突入しつつあります。
以前はインバウンドの方々の満の一位は「施設や店舗スタッフとコミュニケーションがとれないこと」でした。

これは言葉の壁が大きいのですが、来日している旅行者は決して「流ちょうな自国語で話をして楽しませてほしい」という高い期待を持っているわけではありません。苦手意識をもって敬遠するのではなく、「最低限笑顔で身振り手振りを交えながらでいいので、ニーズを確認し、それにマッチした提案をしてもらえれば・・」という期待に対してすらなかなか思うように対応してもらえない、という不満でした。
一方の接客する側のスタッフ曰く、「困っているのであれば何とかしてあげたい」と心の中では叫んでいるものの、相手のことをおもんばかりすぎて、何が一番ベストかを考えているうちに、タイミングを逃してしまうということもあったようです。

しかし、インバウンドというチャンスを最大化するために、アジア系スタッフを増やしたり外国語接客のスキルを強化したことで、そういう問題も解消に向かいつつあります。実際に「人対人」として、“意思疎通”を図るやり方はいろいろあり、ジェスチャーや、行動してみせる、紙に書く、スマホを活用する、などなど様々に工夫している光景を見かけます。
ところが、時代は止まってはいません。インバウンドの方々のニーズも驚くほどの速さで刻々変化し続けています。

たとえば、富裕層だけでなく中流層も増えている。団体旅行ではなく、個人旅行が中心になってきている。
来られる国も広がっている。ということは宗教や文化・慣習など背景も広がっている。
来日の目的や楽しみ方も多様化している。日本は初めて、というお客様だけでなく、ヘビーなリピーターも着実に増えており、買い物慣れしている。

このような変化の行き着く先として、日本人のお客様に対してと同様、”パターン化したありきたりのサービス”だけでは刺激や面白みに欠け、「もういい」となってしまい、足が遠のくという状態が想定されます。

事実、中国・韓国・台湾・香港などのお客様は、最初は「有名百貨店やモールでショッピング」を目当てに押し寄せましたが、着実にその興味は低下しています。理由として、「どこへ行っても同じようなつくり、同じような商品が陳列してあるだけで、どこにいるかもわからなくなり、面白みに欠ける」とのこと。
モノ不足(欠乏欲求が強い)の段階では「こんなに綺麗に素敵な商品がたくさん並んでいる!」というワクワクが重要でしたが、あっという間に富裕層を中心に「成熟化」の段階に突入した今、画一的な整理された商品だけでは、もはやワクワクは創りにくくなっています。
となると、私たちも次のステップをにらんで「では、何で引き寄せるか?」をインバウンドに対しても真剣に考えることが重要です。

一般の飲食店や個店と違って、ラグジュアリーブランドはPRの仕方や商品自体を個別化することはできません。
となると、やはり「人対人」のサービスにおいてさらに「ワクワク」を創り出していくことが求められます。
しかし何にワクワクされるは、日本人同様、旅行者ごとで異なります。
だからこそ、「どちらからいらっしゃいました?」を皮切りに興味をもって相手を積極的に知り、サービスニーズを踏まえて対応するという力が求められます。そのちょっとした働きかけでも、パーソナルであると感じていただけるのです。
(もちろん、それは何でも相手の言いなりになることではありません。あくまでできること、できないことを明確にしたうえで、何をすべきかを考えることが前提です。)

■ある空港の免税店スタッフの言葉

国際空港のラグジュアリーブランドの免税店と言えばかつては「買いそびれたモノやお土産を安く買う場所」という認識をもった人が大半でした。
しかし今やその役割は「その国の玄関口という位置づけであり、国及びブランドの代表として海外からのお客様を歓迎し、気持ちよく送り出す場所」「最後に素敵な思い出をつくっていっていただく場所」「安心して買い物できる場所」という前提で接客をする空間になりつつあります。

あるスタッフに聞くと
「しょっちゅう国内外を行き来されるお客様は実際にかなりいらっしゃいます。その方々は、当店だけでなく世界の空港の免税店でも買い物をされます。だから私たちのブランドにとって国を超えて重要な顧客様である可能性も十分あります。だからこそ、ぞんざいな対応ではなく、その方の旅にまつわるお話や時間の過ごし方、背景などを雑談的にでもお話しすることでリラックスしていただいたり、“またこの店に寄りたい”と思っていただけるようにおもてなしすることは私たちのミッションです。」
とのこと。実際に「おかえりなさいませ」や「いってらっしゃいませ」というパーソナルな声掛けをしている接客も随所に見られます。
「やはり一人でも多くの方に“日本はいいね”と思っていただきたい。そのために自分ができることがあるのであれば、できる限りのことはしたい」と笑顔で答えるスタッフに頼もしさを感じました。

旅行において財布のひもが緩くなることはあるにせよ、受け身な対応だけでは限界があります。
店頭には今日もインバウンドのお客様がわざわざ来てくださいます。
それは、身振り手振り、スマホアプリ、笑顔など駆使できるものは駆使し、お客様に「日本での接客は親身だった」という思い出作りに貢献できる貴重な接点であると同時に未来の自分たちに返ってくる種まきでもあるのです。

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