■プロ店長のスタッフ育成法とは?
弊社がある武蔵野という地域は東京でありながら緑が豊かで、四季折々様々な花や木々が心を癒やしてくれます。
必然的にこのエリアでは「庭師」と呼ばれる人が活躍しているのをよく目にします。
が、実はこの「庭師の腕」は、格差が大きいと言われます。
たとえば、「剪定(枝を切る)」は、「伸びてきて邪魔だからここを短く切る」というだけなら、誰でもできます。しかしプロの「庭師」は剪定の奥深さをきちんと知って対処するため、最終的に、その木々が美しく長く生きられるように、という先々のことも考えて対応している、とのことです。
実際に辞書で「剪定」を調べると以下のような説明があって、店長がスタッフを育成する際の留意点とだぶってしまいました。
【剪定】植物,おもに樹木を望ましい形にするために枝などを切ることをいう。以下の区別がある。
①整枝(トレーニング):開花,結実を調節し,収量を上げるために,枝を主体に形を整える剪定
②整姿(トリミング) :観賞価値を高めるように樹姿を整える剪定
【剪定の目的】
(1)形を美しく整然と,またはある特定の形につくる(→スタッフが期待に添った行動がとれるようにする)
(2)生育を調節し,開花,結実を良好な状態にする(→本人の成長を踏まえて良好な成果が出せるように支援する)
(3)古い枝を除くことにより新しい枝を発生させて若返らせる(→古いやり方から新しいやり方への転換を促す)
(4)密生した枝,枯枝,病枝など生育の障害になる部分を除いて健全な状態にする(→悪い癖は直させる)
(5)風害,寒害,病害などに対する抵抗力を強化する(→問題に自力で対処できるようにする)
(6)移植に際して枝葉を切除することにより蒸散など水分消費を少なくして,活着をよくする(→環境変化にスムーズに適応できるように育成する)
などが考えられる。(-【剪定】【剪定の目的】 出典 株式会社平凡社世界大百科事典)
異なる種類はもちろん、同じ種類の木であっても、樹齢、枝振り、栄養の吸収の仕方、求められること、それぞれ異なります。プロはマニュアルだけでなく、その木を観てどのように手を入れたらその木の強みや特性を活かしつつ、顧客のニーズに応えられるかを掴んで対処するスキルを持っています。プロとアマの違いは剪定が終わった瞬間の見た目だけではなく、数年間継続的に木の成長ぶりを観た後によりはっきりと表れるということです。
スタッフの育成においても今同じことが言えるのではないでしょうか。すなわち同じ制服を着て、同じように業務を行っていますが、その内面はまさに多様化が進んでいます。だからこそ、しっかり個々の相手と向き合って「どのように関わっていくのがそのスタッフの強みを活かし、且つ将来的にも伸びるのか?」という育成方針をしっかり持って対応することがプロの店長として求められている、ということです。
剪定の仕方を間違えてしまうことで、大切な木が枯れてしまうように、店長の対応によって以下のようなケースが発生しているのも事実です。
■スタッフの成長にブレーキをかけてしまう3つの事例
1.外国人スタッフは使いにくい?
ある店長は、外国人スタッフに対し「日本ではこのやり方でないとクレームになります」という前提で、「所作から日本語の敬語までことこまかに教えてあげることが責任であり、親切である」という思い込みで対応していました。熱心さは良いのですが、結局教えても日本人スタッフと全く同じレベルでできない=「外国人スタッフは困り者だ」と感じているようでした。その空気がスタッフにも伝わり、チームワークがうまくいかず悩んでいました。そもそも何が問題でしょうか?
この場合、まずは「自店に来られるお客様が本当の意味で外国人スタッフに求めている事前期待レベルはどのあたりなのか」を明確にすることが大切です。もちろん理想は日本人にも外国人にもニーズに合わせて対応できることです。が、では私たち自身、外国人のお客様が本当に望む接客が完璧にできているのでしょうか?相手はスムーズな母国語で相手の文化も理解して対応してほしい、と思っているかもしれませんが「でも、ここは日本」と割り切っているケースが多いと考えます。お互いに割り切りの中でできることを精いっぱいやろうとしているのです。それを外国人スタッフにだけ「日本人のお客様にそそうがないよう、日本人がよしとする接客マナーを守れ」というのはどうなのでしょう?
また、外国人スタッフも「語学レベル」「育った環境」「接客に対する考え方」「求めていること」等、その差は日本人以上です。当然それによって当面の期待値、教える事柄の優先順位や、ステップアップ段階も異なります。自分がもし他国へ行って「日本人スタッフ」として「日本人のお客様を中心に接客をして」という環境で働くと考えてみましょう。「(日本人顧客以外の)この国のお客様はこのレベルまで求めてくるからあなたも他のスタッフと全く同じレベルでやり方を習得して」といきなり言われたらおそらく困ってしまうのではないでしょうか。
むしろ外国人スタッフがいてくれることで、「その国の風習・常識・接客のあり方」を知るチャンスが生まれます。さらにその国に関する本を読んだり、ネットで調べていくとへえ~と思うことがいろいろ分かってきて、むしろそのスタッフに対する興味もぐんと高まります。すると、より謙虚な気持ちで「もっといろいろ教えて欲しい」という気持ちが生まれます。そこでより深く話を聞いていくと見えなかったことがクリアになってきます。
そうやって何事も前向きなチャンスととらえ、知識・ノウハウを広げることができる店長こそが、今後さらにダイバシティが進む中で存在価値を発揮できるのです。
2.できていないところを直せばいい?それが指導?
ある程度大人数を抱える店舗では、「個別対応」と言われても忙しさもあって目が行き届きにくくなることはよくあります。起こった問題に対処することに追われてしまう状況もあります。
何とかこの状況を改善しようと、たとえばチェックシートを元にチェックをし、「できていないところをできるようにする」ことにばかり目が行っていると本当の意味で強いチームを創ることはできません。
できていない点をできるようにするだけでなく、「できている点」の中でもさらに伸ばすとより効果につながるポイントを見つけ、そこに注力させることで、まだ眠っている力を引き出していく。それが育成といえます。
ただ、その強みが人によって違う、伸ばし方も人によって違う、且つその違いが大きくなっているのが今の時代。
だからこそ、店長は個という点だけを見るのではなく、店舗全体で強みを発揮するには、誰のどういう強みをどう活かしたら良いかを考えてデザインすることも重要な仕事です。
一人で完璧にすべてをこなせれば言うことはありませんが、現実にはカバーし合う、補完し合うのがチームの強みです。店長自身も完璧ではない。だから役割を任せる際に、「このスタッフにはこの役割を振る」だけではなく、それをサポートするために、他のメンバーの役割はどうあるべきなのかも考えさせ、皆でフォローし合える環境を創り上げることが大切です。
たとえば「Aさんはレザーグッズが得意なので、レザーグッズのカテゴリーリーダーとして売り上げの管理、販促策、皆さんへのフォローをお願いします」だけでなく、「Aさんがより良く役割を遂行できるよう、Bさんは得意な洋服販売時にレザーグッズの紹介を積極的に行うのが役割」「Cさんは分析が得意なので、Aさんが出した数字に対して、なぜその結果かを考えてAさんにアドバイスするのが役割」・・・というイメージです。それぞれが自分の役割だけに固執するのではなく、できることがあれば助け合って共通の目的を達成する、という大目標を共有しておくことが大前提です。
一本の枝だけが立派でも、それだけでは木は美しく見えません。その他の枝や葉があるからこそ、その枝も引き立つだけでなく養分を吸収でき、且つ木全体のバランスも良く、安定もします。プロの剪定はそういう全体視点を欠かしません。店長も同じです。
3.風通しが良く、居心地がよい環境であればスタッフは辞めない??
最近はパワハラ等のリスクもあって、スタッフに強く言って離職されたり、モチベーションが下がっては意味がない、とばかりに「はっきり指摘しない、できない」というケースも多くなっています。「スタッフの話を傾聴し気づかせてあげる」というコーチングの名の下に、店長が言いたいことをひたすら我慢してスタッフの言い分につきあってしまっているケースもあります。
「そうすることでリスク回避もできるし、やる気になってくれるのでは・・・」という期待や幻想を抱き、問題を先送りしてしまうのです。
しかしスタッフが辞めていく、あるいは意欲をなくしてしまうケースの要因の一つは「抵抗力がつくようにスタッフを育成できていない」ことにもあると言えます。
誤解があってはいけないのですが、「優しいことがいけない」と言っているわけではありません。
ただ、最初からただひたすら優しく、傷つかないように、とだけ考えてスタッフにとっての居心地の良さにこだわりすぎると、逆にスタッフ自身が本来持つ「問題への対応力」や「自ら壁を乗り越えようとチャレンジする」「失敗から学ぶ」などの強さを奪うことにもなりかねない、ということです。
やるべきは、スタッフが本来持つ力をビジネスというプロの厳しさも求められる世界でどう開花させるかです。
スタッフからそういう力を奪わないように、失敗したらきちんと要因を掘りさげて対応策を考える力をつけさせる指導、ルール違反等に対しては、及ぼす影響や本人の信用に関わる点などをしっかり自覚させる、言い方は優しくても、厳しい姿勢で接する指導が非常に重要になっています。
その研究をしないで、「ちょっと厳しく言ったら泣かれてしまったたから強く言えない」「辞められたら困るから言えない」では、本末転倒と言えます。
コーチングの最大の狙いは「自ら問題解決ができるようにする&行動変容」です。しっかり行動が変わることを見届けられるまでは最低6回はやり方を変えて言う、という安易に問題から逃げさせない指導です。
そうすることで、最終的にスタッフもセルフコントロールができるようになります。
ただその気づきのレベルやタイミングが以前に比べスタッフ個々で多様化しているので戸惑うこともあります。が、いろいろなケースがあるからこそ店長の指導の引き出しを広げる教材となりうるのです。
以上、スタッフの価値観も多様化していく時代に本当の意味で「プロフェッショナル店長」になるためには、部下育成の本質をより深く理解し、自己の指導効果を楽しみに日々研究あるのみですね!
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