■有償修理を「ただでやって!」と言われました。断るとお怒りが大きくなるリスクが・・どうすればいいですか?
こういうケースは多かれ少なかれ、ほぼすべての店長が経験されていることではないでしょうか。「会社のルールで出来かねます」の一言で済むのであれば、誰も悩みません。且つ、店長が出ていく必要性もないでしょう。しかし現実には、ルールは存在しているものの、”状況に応じた判断”を下さなければならない場面が多々あります。そこが難しいところ。”断るとお客様のお怒りが大きくなるかも。そうなると・・”というリスク回避のためだけにルールを曲げて無償で受けてしまうと、以下の影響が及びます。
①それを見ているスタッフも「店長もすぐに妥協するのだから、自分たちも無理して”できません”と粘らなくても良いんだ」と受け止めてしまう
②お客様も「ちょっと強く言えば、あっさりルールを変えてもらえる」という認識になる。次もまた…となる
③お客様がそれをSNSなどに載せると「あのブランド(お店)なら、自分も無償で対応してもらえる」という認識(口コミ)が広がる
④百貨店など取引先からも「他のお客様から、あの人はやってもらえた、というクレームが出るから公平に」と言われてしまい、本来有償のものを無償の修理で対応せざるを得ない可能性が生まれる
等、ルールが形骸化するという先々のリスクを自ら生み出してしまいます。実際に、安易に無償対応してしまったがために、非常に困った状況に追い込まれたケースもあります。
ゆえに店長として、”本来有償修理のところを無償で受ける、受けないの判断を下す”際は、まずは必要な情報を丁寧に収集したうえで、いくつかの「判断基準」に基づき判断を下し、その結論に対し、お客様にもスタッフにも納得してもらえる説明ができるようにしておくことが求められます。
そこで、100%とは言いませんが、収集した情報に基づき、ある程度一貫性のある判断が下せるよう、判断基準とすべき4つのポイントを挙げてみましょう。
判断基準①”有償”(コスト)の正当性理解
多くの会社は、購入後一定期間は申し出があれば無償で修理を承ります。これは、万一の初期不良やお客様が取り扱いに慣れていないことも考慮しての一種のサービスです。ところが、それによって「最初はただでやってくれたのだから、今度もただでやってくれて何の問題ないはず。それなのに有償なんて・・・」という誤解を生んでしまうことがあります。そこで店長は、ブランドの代表として修理コストについて正しい知識を持ち、お客様に一部ご負担を依頼する正当性を理解しておく必要があります。
あるブランドの店長がスタッフに説明していた例を挙げると・・
「”修理”とひと言で言っても、できるだけ元の状態に近い形に戻すには、使用されている素材の準備(必要に応じて取り寄せ)と専門の技術を持つ職人による手作業が入りますから、現実に時間・手間だけでなく、コストも発生します。
また、品質への期待値が高い分、修理のプロセスも表から見て”それなりに直っている”レベルでなく、”見えない部分まで”抜本的に念入りなチェックが入ります。例えばうちのこのバッグのハンドルのぐらつきや金具に何かしら不具合があったとします。その場合、その箇所だけではなく、バッグそのものを丁寧に解体します。そのうえで必要なパーツを交換したり、金具の再メッキを行ったりしたうえで、再接着や再縫製を行って再度組み立てます(ビデオを見せつつ)。思っている以上に手間暇がかかっていますよね。且つ商品全体をきれいに磨き、念入りに耐久性のテストなどのプロセスが入ります。これは、修理にそれだけの手間をかける分、長く、美しい状態でご使用いただけるようにするというブランドとしてのサービスです。ですから、お客様にもその価値をご理解いただき、”一部”ご負担いただくことで、真に愛着を持って長くお使いいただけるんです。」
一部、というのは、有償であっても、修理そのもので利益を生み出すわけではないからです。
「使い捨て」ではなく、修理可能な体制をとっていること自体が、お客様との信頼関係構築への投資であり、ブランドの責任・誇りでもあります。店長はブランドの品質を維持するためにも、有償ルールの意味をスタッフと共有しておくことが必要です。

判断基準②販売時の取り扱い注意点やルールの案内の徹底度
修理に持ってこられた際、無償・有償で揉める確率が比較的高い、ということが分かっていれば、事前対策が必要です。
お客様によっては、ブランド品=すぐに壊れる安物ではない、という期待があり、それが「多少のことでは壊れない」という認識にすり替わり、不具合が出た際、「ブランドとしてあり得ない!」というショックやお怒りにつながることがあります。
しかし現実には、モノである以上、時間経過とともに見えない部分でも消耗は起こります。また手が込んでいるということは、繊細でもあるということです。だからこそ「取り扱い説明書」「保証書」などが必要になるのです。
そこで、それらのツールを活用して、「お使いの際にこういう点はお気をつけ下さい」「もしこういうことがあれば、すぐに~してください」など、ご購入時に取り扱い上の留意点を説明書を見せながらしっかり伝え、了承を得たうえで販売するのが店頭スタッフの責任です。
その際、無償・有償の条件を明確に伝えておくことがリスク回避につながります。
店長として、日頃からスタッフに目先の売上だけでなく、先々のことまで考えて注意を払うよう徹底している、という自負があれば、お客様の「無償にして!」というお申し出に対しても精神的にゆとりを持って判断ができます。
判断基準③現物・お客様のご使用状況
判断が難しい理由の1つが、お客様の言い分がどこまで本当で、どこまでがそうでないのかがはっきりしないことです。特に感情的になっておられると、お客様も思い込みでおっしゃることが多々あります。そこで大切なことは以下の2つです。
①お客様と一緒に現物を確認する
②「お聞きしてもよろしいですか?」とクッションを置きつつ、いつ、どこで、誰・何が、何を、どのように、どうしたという時系列で事実情報を聞き出す質問を行う
あくまで”教えていただいてもよろしいでしょうか”というスタンスで、丁寧に情報収集することで、徐々にお客様の頭の中も整理され、今の状態に至るプロセスが共有できてきます。
お客様が感情的であっても、落ち着いて必要な情報を順序だてて収集できるように準備しておくことは重要です。
判断基準④お客様のご使用シーン、心理的影響
ブランド品は、生活必需品というより、付加価値を生み出す目的で使用されることが圧倒的に多い商品です。ですから、それが壊れたからと言って今日から生活ができないというものではありません。ただ、お客様によっては、非常に大切な場面でその品物を使用しようとしていた、あるいは、使用していた場合、心理的なダメージは私たちの想定以上に大きいこともしばしばあります。その心のダメージを修復することも私たちの仕事の一環です。且つ、そこが今後も顧客としてご愛用頂けるかどうかの分かれ目にもなる重要なポイントです。
そこで、「現物や事実情報の収集を行って終わり」ではなく、以下の対応をしつつ、故障などのトラブルが発生したことによるお客様にとっての心理的な影響を共有することが非常に重要です。
①心からのお詫び
②共感性のある相槌:~ということで、それはさぞ~だったと思います。お聞きしていて私も胸が痛みます。お気持ちお察しいたします
③さらに掘り下げた質問:~ということは、お嬢様にはお怪我はなかったですか?他にご心配な点はございませんか?
など、積極的に関心を寄せていることをご理解いただきつつ、想いを述べていただくことが、重要な判断材料につながります。
■判断の仕方と伝え方
ここまでで収集した情報をもとに、店長としてルール通りに有償対応をお願いするか、イレギュラー事項として無償対応とするか、あるいは、「いったん確認をします」と時間を置くかの判断が求められます。
①ルール通り有償対応:謝罪とともに、「そうさせていただきたいのはやまやまですが、皆様にこのようにお願い致しており・・・」と店長の一存でルールを変えることはできないことをご理解いただく。
ただ、「私もそうさせていただきたい気持ちはあります」と寄り添う姿勢で対応することで、お客様にとって”あなたが悪いわけじゃない”と思っていただければ、今後の関係につながる可能性はあります。もちろんそれでご納得いただけない場合は、「いったん確認してみます」と時間を置き、その後「誰が対応しても同じ」ということを伝える、ということも必要です。
②イレギュラーで無償対応:「本来は有償なのですが」と基本ルールを強調したうえで、”条件”を明確に伝えて、「今回特別に無償にて対応させていただきます」と伝える。条件としては、
*ここまでに収集した情報で、有償の分以上の多大なご迷惑、ご負担をおかけしていることが判明している
*現物に問題がある疑いがある
*期間がギリギリなど、店長裁量として融通を利かせられる範囲である
*これまでの関係性(ご購入歴など)とこれからの関係性を考慮して(点だけでなく、線の関係で)
が挙げられます。
併せて、修理上がりのお品をお渡しする際に、念のための再発防止策をしっかり共有するとともに、”修理してでも使いたい”とおっしゃっていただけたことへの感謝を伝えることで、関係をより深めることにつなげられれば、コスト分を上回る価値を生み出せます。
お客様のお申し出は、「わがまま」と捉えればそのフィルターでしかお客様を観ることができません。
が、「ブランドとの接点を保ってくださっている。今後の改善材料を提供して下さっている。こちらの対応力を磨かせてもらっている。ダメージを与えてしまったけれど、再度チャンスをくださっている」という視点で見ると、いろいろな学びの機会にもなります。
お客様とのトラブルは”できれば避けたい”という気持ちは当然ですが、その一方で、同じ事実と向き合うのであれば、貪欲に成長機会にしていく店長やスタッフが伸びていくのも事実です。

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