■百貨店外商員は富裕層顧客開拓の強力な味方!ーでも関係構築は難易度が高い?!
あるラグジュアリーブランドの路面店(旗艦店)で4年間勤務したスタッフが、百貨店内のブティックに異動しました。初めての異動ではあったものの、「これまで身につけてきたブランド知識、接客や業務のスキルを駆使すれば、何とかなるだろう」という気持ちで新しいお店に出勤しました。当初は百貨店ルールなど慣れないこともあり「思ったよりも色々覚えることがあるんだな」と感じましたが、時間の経過とともに自然と溶け込んでいきました。
ただ、1つだけ大きな壁が横たわっていました。それは富裕層の顧客開拓です。
旗艦店では、ブランドの世界観を体現する独創的でゆったりした高級感あふれる空間と、特別感を醸し出すVIPルームも備えており、且つ品揃えも他店にはないものも置いてあり、奥行きがありました。ドアマンがいて「高価そうでちょっと入りにくいかも」と思わせる店構えの分、いわゆる富裕層や超富裕層と言われる方々のご来店及びお買い上げ割合が高い状態でした。会社としてもそこを狙っていて、限定のブティックイベントから、パーソナルなおもてなしまで、ご期待に添えられるよう様々に工夫を凝らすことで、お店に定着していただくこともできていました。もちろん一人の力ではできないため、チームとしてお互いにフォローし合ってお店のお客様として落ち度のないようきめ細やかな対応を心がけていました。
百貨店に異動してからも、「富裕層顧客の取り込み」は会社方針として一貫して求められます。ただ、旗艦店と比べるとスペースも品揃えも奥行きもなく、店頭で接客しているだけではなかなか富裕層獲得にはつながりません。異動して2か月ほどたったところで店長から「次の大きなイベントには顧客様(ご購入いただけそうな方)を2名は呼んでほしいから、そのためには外商部屋に言って顔を売ってこないとね」と言われました。今までそういう経験もないうえ、店長は忙しそうで中堅の自分が一から何でも教わるのも心苦しく、慌ただしく過ごしているうちにイベントがやってきました。
結果的にお呼びできたお買い上げ見込みのある顧客はゼロ。店長からは「次こそは頑張って!」と言われ、「このままではまずい、外商との関係構築に本気で取り組まないと先はない」と思ったとのこと。そこから、そのスタッフの本気のチャレンジが始まりました。

■ゼロからのスタート。外商員との関係構築の8つのステップとは?
①外商から自ブランドをピックアップしてもらうには、まずはブランドの認知をしてもらうことが大前提。うちのブランドはそう大きくはないため、多くのブランドがひしめく中で、外商員に目を止めてもらうには、いきなり売り込みはできません。とにかく外商部屋に日参して、元気よくアイコンタクトをとって挨拶をするところから認知してもらわないと次に進めません。私は少しでも記憶に残してもらうために、アイコンタクトをとったり、外商員の名前が分かればあえて名前で呼ぶようにしていました。また、自分の名前を憶えてもらえるよう、「○○と覚えてください」と繰り返し言って回りました。
②ただ、ブランドがひしめく中、それだけでは認知も選択もしてもらえなため、店頭で購入されたお客様が外商員がついている顧客と分かれば、あとで外商員に連絡をして、「○○様がお見えで、○○を購入されました」などお客様情報をつぶさに報告をする。感謝の気持ちも伝える。また、外商員がお客様と一緒にふらりと店頭に来た際も、笑顔でいい接客を心がけ、好印象を残す。外商員が通路を歩いているのを見つけた際には、積極的に近づいて声をかける、などとにかく百貨店内でまずは自分を売り込みました。心理的な距離を着実に縮めていくためです。
③そんな地道な努力を重ねた上で、機会を見て自ブランドの何がウリか、特にどういうお客様に何をどう訴求できるか、実際の売れ行きはどうかなどを分かってもらう機会を作り、資料や現物をもとに短い時間でインパクトのあるプレゼンをしました。資料はチームでアイディアを出し合いながら作成しました。リハーサルもして、ダメ出しももらいながらでしたが、おかげで度胸もつきました。
④その積み上げで、外販に同行する機会がやっとやってきました。ただ、事前に先輩からアドバイスがありました。外商員にとっては担当顧客様は絶対的存在(=神様)が刷り込まれていて、お伺いする際は一挙手一投足において、お客様に気に入っていただけるよう神経を研ぎ澄ませないといけない。少しでも阻喪があると、次からは絶対に声をかけてもらえない。だからお客様の前ではもちろん、移動の車の中でも何がNGなのかを必死に考えて阻喪がないように、でしゃばらないようにしないといけない、と。
⑤極度に緊張しながらお客様のご自宅に外商員と伺ったものの、お客様が留守ということも多々あるし、外商員がお客様と話している間、車で待機のまま結局最後まで呼ばれないケースもあります。それでも、同行する車の中で外商員といろいろコミュニケーションがとれれば、何かしら次のきっかけ作りにはなります。
⑥努力の甲斐あって、ある日実際にお客様のおうちにあがる機会をいただけました。外商員が世間話をしながらさりげなくこちらの紹介をしてくれます。幸運なことにお客様が興味を示してくださり、準備してきた通り、”特別なもの”ということで一言一句気を使いながらご紹介しました。それがうまくいけば、ようやくお客様とつながりができる。一方、何か少しでも阻喪(外商員かお客様にとって何か気に障ること)があれば、今後の機会は一切断たれる。また、その噂が広まると、出入り禁止になることもあり得る。そう考えるとまさに緊張の極致でした。
⑦ただ、そこから思いがけない展開になることも‥。突然お客様が「お昼も用意してあるから、せっかくですからどうぞ」と私の分までご用意くださってビックリ。同時に、どうしよう、と焦りました。初めてのことですし、阻喪があっては‥と思うと気が気じゃなくて。でも、お断りすることはもっと失礼に当たるので、一緒に頂くことにしました。ところが、高級料理ですが、すごく量が多く途中でお腹いっぱいになるんです。が、外商員から目配せで”絶対残してはいけない”という合図を感じたので、お客様と受け答えしながらも、すべてお腹にしまいました。その時の苦しいことと言ったら!でもおくびにも出さず丁寧にごあいさつをして車に乗りました。帰りの車の中では、外商員から、”あの時はこうすべきだった、こういうことを言わないとだめじゃないか”とダメ出しばかりで、本当に悲しかったです。正直もう行きたくない、という気持ちにもなりました。
⑧ただ、しばらくして外商員から、○○様が”またあの人連れてきていいわよ”とおっしゃっていた、という言葉を聞いて、少しだけ苦労が報われたと思いました。過去の反省を踏まえ、注意されたことをすべて事前確認して、準備万端で行きました。今度は帰りの車で外商員が”よく勉強したね。あなたはきっと伸びるよ”と一言ポツリとほめてくれて。緊張も丁度ほぐれて、涙が出そうになりました。
とのこと。今では堂々と外商顧客様も複数持って、活躍しています。曰く、「一朝一夕にはいきませんが、とにかく粘り強く、且つ研究し続けること、それが成功の道」とのことでした。

■外商員にとってのメリットを追求できていますか?ーWin-Winの重要性
店頭で直接お客様に販売するスタイルに比べ、外商員を通してブランドをアピールするスタイルは、難易度が一段上がります。なぜなら、世界中の贅沢なモノを知り尽くした外商員にまずその気になってもらわないと前に進めないからです。且つ、お客様の情報は外商員が握っており、外商員はお客様の信頼を損ねることは絶対にやりたがらない。ですから顧客情報を少しずつでもシェアしてもらい、より精緻な戦略を練る必要があるからです。
そのためには、商品を売りこむ前に「この人(店長・スタッフ)なら、パートナーとしてお客様にお勧めしても大丈夫そうだ」と思ってもらえるような段階に進むことが大きな第一歩です。では、具体的に何をすればよいのでしょうか。以前からの慣習も大切ですが、一度外商員の立場に立って客観視してみることが大切です。
| 外商員の視点 | 効果を高めるポイント | 具体アクション |
|---|---|---|
| “顧客様と百貨店、外商員自身にとって価値ある商品”を優先したい | 三者のメリットを明確化する | 商品のターゲット顧客層&実績推移・粗利・成功例などを数値で提案 |
| 外商員&担当顧客ごとに売れ方が違う(パーソナライズ) | 各担当員の戦略を知ってそれに合わせる | 外商員をよく観察し、売れ筋・価格帯・客層に関し提案を最適化 |
| 外商員は長い説明は使わない(端的に) | 売れる理由を一言化 | 「これが売れる理由」「ここがポイント」を10秒トークで渡す |
| 売上の大半は“タイミング・組み合わせ方”で決まる | 提案の組み合わせと在庫を管理 | ライフイベント/限定品提案・欠品防止策の徹底 |
| 相談しやすい、依頼しやすい、融通が利く人を優先したい | 日頃の関係構築 | 日常挨拶・感謝する・関係構築(ホウレンソウ) |
| 売れない時の原因を放置せず、次に活かせることが大事 | 売れなかった時の原因を潰す | 価格・競合・説明の難しさ・認知不足を分解し、 改善案を持っていく |
| 偶然に期待しすぎると危険、再現性が重要 | 小さく勝って横展開 | 1ケース成功→事例化→他のお客様&外商員へ展開 |
もちろん、確率論ですから努力したからと言って、すべてうまくいくとは限りません。また、もしも外商員から「ルールを曲げてでもこれをお願い」と一方的に無理難題ばかり押し付けられても、結局は中長期の信頼関係は継続しにくくなります。私たちも「できること、できないこと」を明確にし、その上でパートナーとして組めるかどうかを見極めていくことも大切です。
■短距離競走ではなくマラソンで伴走する!
最後に信頼関係構築は短距離競走の発想ではなかなかうまくいきません。店頭接客では数分あるいは数十分で買う、買わないの結果が出ます。だからこそその短い時間での真剣勝負、集中力が問われます。一方外商員との関係はマラソンに近いものがあります。しばらく声がかからない、一緒に行く機会が減った、と思っても関係性が残っていれば、また一緒に仕事をする機会はきます。だからこちらも中長期を見据えて、焦りすぎず、ただやるべきこと(挨拶やホウレンソウ、情報提供)を粘り強く継続することが非常に大切です。
以下はあるスタッフのエピソードです。
「実は外商さんと一緒にお客様宅に伺った際、その場では特に問題なく終わったのですが、あとから大きなクレームをいただいたことがありました。確認すると、認識のずれがが原因でした。お詫びに伺ってもお怒りで門前払い。外商さんが何とかとりなしてくれたものの、外商さん自身も当然ながら相当お怒りで「もう金輪際取引しない!」と出入り禁止の通達をもらいました。会社を辞めなければならないかも、と落ち込んでいたところ、店長が「こういうことはいつでも起こり得る。原因は究明できたのだから、再発させないこと。それと、あきらめずに外商担当者に会ったときには挨拶をしっかり行うことと、これまで同様、役立つと思える情報があれば見返りを期待せず提供し続けること」とアドバイスをもらいました。なので、叱られること覚悟で資料を置いてきたり、SMSをしました。反応は全くありませんでした。2年ほどたった時、突然その外商さんがお店に来られて、「あの時は私も感情的になってしまって。今度一緒に外販に出ない?」と言われてびっくりしました。半信半疑のまま外販に行き帰りに「食事していこうか」と言われ二度ビックリ。そこで怒られるのかと思いました。食事の場所で改めて過去のお詫びをすると「謝罪はもういいから」と言われ、場を持たせるために近況などを話していました。するとドアが静かに開いて、そこに現れたのはクレームになった顧客様でした。何が起こったのか分からないうちに、「仲直りのしるしに、○○さんに頼んでここへあなたを連れてきてもらったんだよ」と言われ二度ビックリ。恐縮しながらお話を聞くと、「こちらも思い込みで確認せず話をしてしまって、あとで悪いことをしたな、と思ったけどなかなかきっかけがなくて。そうこうしているうちに時間がたってしまって。いつかきちんと謝りたいなと思っていたんだ。それで○○さんにお願いして今日のセッティングをしてもらったんだ」とのこと。
そこで思ったのは、お客様はただ裕福な外商顧客ということではなく、やはり社会的に成功される方はそれだけの人間的器をお持ちなんだな、ということです。こういう方とつながりを持つことができたのも、外商さんとの関係があればこそだ、と。店長に言われて投げ出さないで良かったなとつくづく思いました。
いかがでしょうか。接点ごとでは紆余曲折ありますが、本当の信頼は点を丁寧に積み上げた結果として、線や面となり、生まれてきます。あなたが失敗したとしても、そこからどういう出方をするか?まで見ているのが、本当の意味で目が肥えた外商員とその先のお客様なのです。
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