■目の前を通るお客様より大切なことがあるんですか?
先日、百貨店のインターナショナルブランドブティックが立ち並ぶフロアを歩いていて、ふと気づいたことがありました。お客様がさほど多くない時間帯ということもあったのでしょうか。数件に1件の割合で、店頭で待機中のスタッフがスマホ画面を注視している光景を目にしました。
昔は「店頭作業」ということで、什器の上に書類を出しつつ必要な処理をして‥でしたが、それがPC作業に代わり、そして今は各スタッフにスマホが貸与される時代になりました。これは画期的なことで、いちいちバックヤードに入って共通PCを開いてメール等をチェックしなくても、個々のスマホにリアルタイムに近い形で新たな共有情報が流れてきます。簡単に閲覧、操作できるからこそ、手間も軽減され、情報もアップデートできます。各種集計、手続きもスマホですみます。お客様とスマホを使ってLINEやSMSでやり取りをする、となると片時も手離せないぐらい重要なツールです。限られた人数で、残業も許されない時代ですから、スマホを持つこと自体、また、それを活用すること自体は、何の問題もないどころか、むしろ推奨されるべきものであると考えます。
ただし、中にはどう見てもスマホに”没入”している、且つそれが習慣化しているケースが見受けられ、「ここまで多くのスタッフが、店頭を歩いているお客様そっちのけ(?)で、スマホに向き合っているのか」と改めて驚きました。試しに、と思ってあるブランドの店頭を見ると1名で待機中で、スマホ画面に必死に集中しています。そこで、スタッフのすぐ近くに立ってそこに置いてある商品を眺めてみました。私の気配すら感じないのか、「いらっしゃいませ」もありません。そこで、少し動きを入れてみようと思い、手を伸ばして商品をじかに触ってみたり、角度を変えて商品を眺めたりしてみました。しかし気づきません。そこで、もうほぼ目の前というところまで近づいて初めて私の存在に気付いたようです。しかし、心の準備、体制の準備が全くできていなかったためか、「あの、その・・」というような態度で慌ててスマホを仕舞おうとしました。そこで、「仕事用にショルダーで持てる軽いバッグがあればと思って先ほどから見てるんですが、こちらにはありますか?」と聞いたところ、「えっと‥バッグですか・・」という間の悪さでした。なんとなくぎくしゃく始まった接客で、クラッチが合うまでに少し時間がかかりました。もしお客様が急いでいれば、そういう時間もないまま接客が終わってしまった可能性もあります。
「偶然そういう状況で、いつもはそうではない」という反論もあるかもしれません。しかし、それであれば条件反射的にもっとスムーズに対応してもらえたのではないかと思います。何より、入店して商品を見ているのに気づいてもらえない光景を見て、「目の前を通る、あるいは商品に興味を示しているお客様より大切なことがあるのかなぁ?」という気持ちになったというのが正直なところです。
■「待機」=準備を整えて”機会”が来るのを待つこと。
待機とは、ただ受け身的にお客様が来ないかな、とそこに立っていることではありません。いざという時はいつでも行動できる用意をして、その機会・時期を待つことです。インバウンドも含め、人気が高く、開店から閉店まで行列や入店が絶えないブランドであれば、機会を待つ以上に向こうから機会が押し寄せてくる感覚で、スマホをチェックする時間もないほど忙しい状況かもしれません。
しかし、現実はそういうブランドばかりではありません。1日に数組~15組接客できれば有難いというブランド店舗も多いのではないでしょうか。逆に、だからこそ来店が少ない閑散時間帯ができ、そこで「今のうちにスマホチェックでもしておこうか」となる心理の流れはよくわかります。ただし、そのままついスマホ画面の世界に没入してしまうことで、もしかしたら、その姿勢をお客様が遠くからご覧になって、「なんだかスマホに集中している様子。今行くとぞんざいに扱われるかも」などと考えて、入店せずにスルーしていっているケースもゼロではない、ということです。
実際私もメンズ館のあるブティックのスタッフが、什器に寄りかかって画面を見ながらニヤニヤしていたり、通路の人を全く無視しているのを見ると、「マイワールドに没入して、お客様そっちのけだな」という気持ちになり、訪店しようと思っていたのを取りやめたこともあります。知人にそれを話すと「私もそう感じること、あるある!でもどうしても見たいときは、こちらが”お仕事中すみません”という気持ちで遠慮しながら入っていく」と言って笑っていました。「そうじゃなく、歩いていて目が合って、にこやかに”いらっしゃいませ、こんにちは”と言われて、ついこちらも”こんにちは”と返す、あのちょっとしたやりとりが、今後は希少価値になっていくかもね」と少し寂しそうにつぶやきました。
■仕事はお客様があってこそ生まれる!
では、待機と業務、どちらを優先すべきか?店頭ではスマホを絶対に見てはいけないのか?というジレンマに陥ってしまうケースもあるでしょう。
そこには絶対的な正解があるわけではなく、どう対応すべきかはそれぞれの会社・店舗の方針、状況による、としか言えません。
ただ、そもそも「何のために自分が今店頭に立っているのか?」という究極の目的を忘れてはいけない、ということです。あれも、これもやらなければならない状況は分かりますが、”接客でお客様を魅了し、ご購入、あるいは再来店につなげる”以上のミッションはない、ということは常に自覚する必要があります。どれだけミスなく業務を遂行できても、店頭における接客がグダグダでは、ブランドの価値は伝わらず、ご購入機会もつぶしてしまいます。高額品を検討されているお客様は、購入までのプロセスにもある程度の期待は抱きます。”大事なお客様”と思っても欲しいし、”ついでの接客ではなく、自分にしっかり向き合ってほしい””さすが、と感じる人から買いたい””さすが、と感じるお店で買いたい”などなど。それにしっかり答えてこそ、ご購入➾商品補充 or フォローアップなどの業務が生まれてきます。購入がすべてストップしてしまったら、商品の動きもストップし、ひいては業務全体もストップしてしまいます。最終的には店の存在意義は消滅します。今あるステージは、お客様あってこそ存続できています。しかし、そのお客様は放置しても来てくださる方々ではありません。メガブランドであっても明日の保証はない時代です。突き詰めると、やはり一客、一客の積み上げがブランドの明日を左右するのです。当たり前のことかもしれませんが、そこからブレークダウンしてくると、「目の前にお客様がいらっしゃった」という機会ほど有難い機会はありません。その時に率先して少し余裕をもって笑顔でアイコンタクトを取り、お客様に合わせたインタラクティブなやり取りができるかどうかは非常に重要です。そのためには、通路を歩く方にもアンテナを立て、観察・洞察を行いつつプロアクティブな行動をとるという「待機」は非常に重要な仕事です。
あるベテランスタッフに聞くと、「店頭でスマホチェックする際は、〇秒ごとに必ず顔を挙げて通路を見ることを徹底しています」「気配を感じたら、ではなくフロア通路の動線を見て、その流れから、うちのお店の前を通られそうな方がいらっしゃればその段階でスマホをしまいます」とのこと。いろいろな試行錯誤から生まれた技の一つかもしれません。あなたのお店ではどんな工夫が考えられますか?
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