■2024年度新入社員が”いいね!”をつけたラグジュアリーブランド接客とは?
4月、2024年度の新入社員が元気よく入社してきました。今年も新入社員の方々と直接コミュニケーションが取れる貴重な機会である「新入社員研修」を複数担当させていただく機会をいただき、彼ら・彼女らとの会話から多くのことを気づかせてもらえました。中でも、真っ白な視点で改めて”プロのおもてなし”を体験しよう!とういう課題で、自分たちで店舗をピックアップして行ってもらい、体験の感想をシェアしてもらう時間は、私にとっても楽しみな時間です。なぜなら、社会人として、あるいは購買者としてある意味慣れてしまっている立場では気づけないこと、感じにくいことを、若々しく柔軟な感性を持った若者、いわゆるZ世代の新入社員の五感を通して教えてもらえることがたくさんあるからです。
今年の新入社員の気づきから、特に印象に残った内容をいくつか以下に記載させていただきます。サービスを提供する側にとって”気づきの種”があるかもしれません。
【ある時計宝飾のブランドブティックでの対応について】
一言でいうと、素晴らしかったです。
最初から最後までスムーズな案内で、商品を見ているときは商品に集中できるように少し距離を置き、必要なタイミングで、すっと近寄って答えやすい質問をしてくだいました。なので、非常に緊張して入ったにもかかわらず、思った以上にリラックスしながら、商品を見たり説明を聴いたりすることができましたし、心地よい時間を過ごさせていただきました。
ただ、私の中で最も印象に残っているのは、入店した際のそのスタッフの方の“第一声”です。
その方のアイコンタクトをとって笑顔で言ってくださった「いらっしゃいませ」の姿勢、所作、お辞儀、声のトーン、表情に
・ようこそいらっしゃいました
・どうぞごゆっくりご覧ください
・どうぞ楽しんでいらしてください
・どうぞ良い時間をお過ごしください
・私がエスコートさせていただきますね
など、もろもろすべての想いが凝縮されているように感じたのです。
なかなか言葉では言い表せないのですが、
すべての想いが込められて伝わってきたその方のたった一言の「いらっしゃいませ」は映像とともに、今でも強く私の記憶に残っています。
多くを語らなくても、第一声でそれを伝えられるのは凄いと思いましたし、さすがプロと感じました。
第一印象の重要性について、改めてその方のご挨拶から強く認識することができましたので、自分もそうできるようになりたいと思っています。
【あるファッションラグジュアリーブランドブティックでの対応】
一言でいうと”ほぼ”完璧な接客でした。
入店すると、すぐにアイコンタクトをとって笑顔で気持ちの良い「いらっしゃいませ」があり、その後も本当に“ここ”というタイミングで細やかに声掛けをしていただきました。必要以上に圧を感じることもなく、かといって、放置されているわけでもなく、私たちがどうしてほしいかをよく見て対応していただきました。
何を探しているかだけでなく、「なぜ?」も聞いてくださったので、「就職祝いに両親がプレゼントしてくれる」と伝えると目を見てにこやかに「就職おめでとうございます!心からお祝いしてくださって素敵なご両親様ですね。」と言ってくださいました。素直に嬉しかったです。
「是非ご試着を」とすすめてくれ、「普段の洋服のスタイル」なども聞いたうえで、「それならぴったりです。これだけたくさんあるバッグの中で、こちらを選ばれるのはお目が高いです!」と言っていただきました。ラグジュアリーなブティックなど学生時代敷居が高くて入ったことがなく、勇気を出して入ってみましたが、リラックスして想定以上に楽しい体験で、今でも余韻が残っています。「行くならここ、と思っていますし、あのスタッフの方のような所作も身に着けたいです」とのことでした。
”ほぼ”完璧、とのことだったので、何があると完璧だったのですか?と尋ねると「試着の際、私の荷物については、どうぞこちらに置いてください、とすすめてくださいましたが、できれば一緒に行った友人も荷物を複数持っていたので、一緒に勧めてくれると本当に“完璧”だと思います。とのことでした。
他にもいろいろな感想が飛び交いましたが、総論としては”若くても””インバウンド対応で忙しそうでも””一見買わなさそうでも”、馬鹿にされず、お客様として尊重してもてなしてもらえたことへの”感動”は相当大きかったようです。「第一印象が今後中長期にわたる刷り込みを創る。もし自分たちが接客をする立場なら、明らかな分け隔てではなく、どなたにも基本的には感じよく接することができる大人になりたい」とほほえましい感想が多々聞かれました。
■世の中、商売のための形ばかりのサービスが多く、心からやっている人はほとんどいないのが実情である?!
Z世代にとってはラグジュアリーであればあるほど「パーソナルな対応」はそもそも”当たり前”の基準です。彼らが体験してきているのは、成熟化したサービス。大半が「快適・便利」を前提にデザインされており、スマホでほぼすべてが完結できる環境です。ちょっとしたレストランでも名前を書いたプレートでWelcomeをしてもらえ、アレルギーに関して個別対応してもらえます。病院も美容院もタクシーも予約を入れればきちんと相手が合わせてくれます。欲しいものは指定した時間に手元に届く、そういう環境下で育った人たちが、ラグジュアリーブランドのおもてなしにそれ以上の「何か」を求めるとしたら、それは何でしょうか?
そつなくスマートに、だけでは価値は生まれません。何気ない接点においてすら、「今、私はあなたに真摯に向き合っています」というスタッフ自身の心の姿勢が暗黙のうちにチェックされ、且つ、ちょっとした態度や言動を通してその心の姿勢がシビアに読まれている、と言ったら言い過ぎでしょうか?
新入社員研修では、あわせて「意識調査」も実施します。その設問の一つに「世の中、商売のための形ばかりのサービスが多く、心からやっている人はほとんどいないのが実情である」という考えに対し、約4割が「そう思う」と答えています。つまり、非常に快適なサービスを日々シャワーのように受けつつも、彼らの心の中には「商売のためだからこうしている」というクールな受け止め方をしている人が比較的多いのです。その彼らが、上記のような体験も含め、研修を受けるうちに「そうではない」という考え方に変わっていき、最終的には「心からのサービスを提供できる、それがプロであり、それはお客様にも伝わる。自分も、そういうプロの一員として、お客様に喜ばれる存在になりたい」と思うようになる、という心の変化が起こるのです。
■柔軟な感性を持つZ世代に価値を感じさせる接客の極意とは? ”一客入魂!”
ラグジュアリーブランドが、これから社会に出て活躍をする若者達にとっても、これまで同様、あるいはこれまで以上に「憧れ」であり続けるためには、店頭で直接接するスタッフ一人一人も、”形ばかりのサービス”ではなく、【一客入魂】-”目の前のお客様に真摯に向き合う”ということが日々試されているのだと、改めて気づかされました。成熟化したサービス社会で育った彼らが本当の意味で受け取りたいのは、「形」以上に「心」なのかもしれません。
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