■チームビルディングが難しい理由とは?
チームビルディングとは、文字通り、チーム・組織を構築する取り組みを指します。わざわざbuild=構築する、という言葉を使う背景には、ただ人が集まって役割を与えた、それなりにコミュニケーションをとっている、というだけでは、目まぐるしく変わる環境に柔軟に対応しつつ共通の目的を達成できる強いチームにはならないという厳しい現実があります。
また、チームを構成する人材・役割・ルール・体制等の整備はもちろん重要ですが、様々な価値観を持つ人間が集まる以上、何かしらの葛藤や摩擦は起こって当然です。それをいかにうまく避けるか、丸く収めるかではなく、葛藤や摩擦もある意味エネルギーです。そのエネルギーを、共通目標の達成に向けたポジティブなエネルギーに転換していけるかどうかが重要なのです。表面的に合わせるだけではチームビルディングにはなりません。むしろそれぞれが考えていることを表明しあい、違いを認めつつも、同志として共通の目的達成に向けて、役割を引き受け、強みを発揮しあう状態に持っていくのがチームビルディングです。しかし、それは決して簡単なことではありません。
簡単ではない主な理由として【それぞれ見えている世界が違う】ということが挙げられます。
実際、同じ店舗で働いていて、同じユニフォームを着て、同じように接客をしているから、皆同じ方向を向いていて、同じ光景を見ているかといえば、そうではありません。同僚であるAさんとBさんでも実はお互いに見えている世界は違います。上司と部下となれば、もっと違います。たとえば、スタッフAさんは「仕事=与えられた業務を真面目にミスなくこなすことが重要」と思って働いていたとします。Bさんは「仕事=いかに貢献できるか、そして評価をしてもらうかが重要」と考えていたとします。そこにたとえば店長が「新しい取り組みを始めましょう!多少負荷はかかりますが、新しいお客様開拓のためには非常に重要な取り組みなので、是非率先して取り組みましょう!」とはっぱをかけたとします。Bさんは「チャンス到来」ととらえるでしょうし、一方のAさんは「負荷が増えると、ミスにつながるリスクが高いな。今までのことがおざなりになって失点につながるのは嫌だな」ととらえる可能性があります。ただしAさんは真面目なタイプなので、露骨に嫌な顔をしたり、やりたくないと主張したりはしないでしょう。しかし、捉え方が異なる以上、水面下で取り組みに対する熱量に差が生まれ、それが徐々に大きくなる、ということは良く起こりがちです。
店長がそういう違いに気づいていないと、「皆、素直に言うことを聴いてくれて、うちのチームは一体感をもって協力してくれている」と思い込んで、特に手を打たないまま取り組みを進めてしまい、結果が出ない状態になって初めて”Aさんは最初からさほど乗り気じゃなかった”と気づくということはあります。これではせっかくのチームビルディングの機会を自ら逸してしまうということになりかねません。
そこで重要なのは、表面的にうまくいっているから、で片付けず、人それぞれ見えている世界が違うからこそ、常にチームビルディング(構築)の意識と取り組みを地道に行うことが必要不可欠である、ということを自覚することです。特に最初が肝心です。ベクトルが合っていないと、エネルギーが分散し、達成できる目標も達成できなくなる、という状況に陥ってしまいます。
■チームビルディングの第一歩:共通の目的とその意義をスタッフ一人一人に売り込み、浸透させる!Noを歓迎する!
前述のように、一人一人違うからこそ、共通の目的が重要です。が、それは「こうしましょう。これを目標にしましょう」と伝えた、イコール皆が理解したということにはならないということを意味しています。提示しただけでは目標は何のパワーも持ちません。各自が「本気で達成したい」「達成すべき」と思って第一歩を踏み出して初めてパワーを持つのです。それがチームビルディングのスタートです。そして、そこまではまずは店長の重要な仕事です。
そこで求められるのが店長のネゴシエーションスキルです。皆が特に興味を示さないケースであっても、いかにそれを魅力的に売り込んで「その目標に乗ります!」という気持ちになってもらえるか、です。基本的にメリットを感じないことに人間はエネルギーを注げません。しかし、何をメリットと感じるかは人それぞれ違います。だからこそ、個々の考え方、価値観、活かしたいと思っている強み、目指したいと思っていること、などを踏まえて売り込んだり、ネゴシエートすることが必要不可欠です。
ある店長は、スタッフが何気なくおしゃべりしている中で繰り返し発している言葉から、各自の価値観を読み取り、それを目標設定の面談で活用しています。お客様のライフスタイルや背景を知って、提案をするように、スタッフのライフスタイルや背景を日頃から掴むとともに、将来どうなりたいと思っているか、何に興味を示すのか、強みをどう引き出せばよいのか、という角度から事前に作戦を練って、目標の売り込み方を工夫します。もちろん、作戦失敗ということも十分あり得ます。その場合、「はっきりNOと言ってもらった方が、私としてはやりやすいです。逆に”なぜこの目的に乗れないの?””ほかにどういう目標なら興味が出る?”など聞いていくことで、そのスタッフをより理解でき、次の作戦に反映させることができるからです」とのこと。そしてどうしても腹落ちしていないな、という場合は、そこに時間をかけすぎるより「とにかくトライしてみよう!」とけしかけ、小さな成功につなげる努力をするとのこと。
それをやるうちに、スタッフも「やればできるかも」「意外とやったら手ごたえがある」という気持ちが生まれ、行動に弾みがついてきます。この一連の流れは、マインドを醸成する働きかけだけではなく、”行動からマインドが変わっていく仕掛けを作ることも重要である”ことを意味しています。
当然スタッフ数が多ければ多いほど、その負荷は大きくなります。その場合は店長一人でやろうとせず、前向きな人・スタッフのパワーを借りてベクトルのすり合わせをしていくことで、スピードアップにつながります。
■一匹狼だった私が For the teamに変わったポイント
かくいう私も、若いころははっきり言って一匹狼的な発想が強く、所属チームのメンバーとも積極的にコミュニケーションはとらず、黙々と自分の担当業務をこなして帰る、というパターンを意識的に繰り返していました。逆に他のメンバーが気を遣って「一緒に食事でも」と誘ってくれたりしましたが、いろいろと理由をつけて断り続けるうち、そういうお誘いもなくなり、私にとっては気が楽でいいな、と思っていました。
しかし、転職をした先の職場では、そういう私の断りをさらにはねのけるぐらいのエネルギーで同僚や先輩たちがしつこいぐらい話しかけてくるわ、質問してくるわ、一緒に飲みに行こうと言ってくるわ・・さすがに断るのも面倒になって仕事帰りにグループの飲み会に付き合わざるを得ない状態になりました。最初は慣れていない分、気疲れするなぁと思ったりもしましたが、そういう場で日頃職場では聞けない先輩たちのいろいろな経験や失敗談、そこからどう立ち直ったかなどを明るく共有してもらううちに、自分ひとりで心の中で悩んでいたこと、葛藤していたことが徐々に溶けていき、「自分だけじゃないんだ」という気持ちになったことを覚えています。
しばらくすると周りから「表情が変わったね」と言われ、「どんなふうに?」と尋ねると、「以前は警戒心が強そうで、厳しい表情だったけれど、最近は徐々に棘がとれてきた感じ」と言われました。確かに、”一人で戦う”と意気込んでいたのが、”仲間がいてくれる”という安心感や他のメンバーへの関心や共感が生まれ、より積極的にコミュニケーションをとりながらのびのびと仕事ができるようになった気がします。気がついたら、「こんな自分に、忙しい先輩たちがこれだけ関心を寄せて仲間に入れてくれようと努力をしてくれた。少しでもその期待にこたえたい。何とか先輩たちの数分の一にすぎなくてもチームに貢献したい」という気持ちに変わっていました。同時に、自分のために頑張る以上に、For the teamだと何倍ものエネルギーが出るようになりました。
人は「してもらった分、返さなければ、あるいは返したい」という気持ちになるものです。店長が「〇〇さんは一匹狼的で言っても聞かないから、あの人は私たちとは考え方が違うから、無視してやりましょう」となった途端、チームビルディングはとん挫します。
また、チームは生き物ですから、チームビルディングは一回やったら終わりではなく、常に揺れ動くチームの状態にアンテナを立て、必要に応じてスタッフの声を聞いたり、行動を観察していく中で、何が足りていて何が足りていないかを掴んで対応する必要があります。
これらは決して生易しい仕事ではありません。が、だからこそ店長の真の力量が問われ、成功したあかつきには、仕事での喜びも何倍にもなって跳ね返ってくるのです。
★関連記事→店舗のチームづくりがうまくいく3つの要素とは?今日から実践できることとは?:ブランド店長問題解決講座(48)
★お勧め本→『新しい店長のバイブル~業績を上げ続ける店舗はこうして創る!』(PHP)
★ラグジュアリーブランド研修についてはこちら→ラグジュアリーブランド研修シリーズ