■スタッフの言動一つでブランドの「世界観」が幻滅に・・・
4月に入社した新入社員に”ラグジュアリーブランドで受けた接客”についてインタビューしてみました。ファッションに非常に興味を持っている人でも、いざラグジュアリーブランドのブティックに足を踏み入れるとなると、かなり緊張はするとのこと。私から見ると、雑誌から抜け出たようなスタイリッシュな男女も、インスタなどでこまめにチェックはしているが、もっぱらウインドウショッピングが中心で実際に接客を受ける機会は少ない、とのことです。これは今の日本の多くの若者の声を代弁しているといえます。そんな彼らが実際に勇気を出してブランドブティックで接客を受けた際、どんな印象を受けるのか教えてもらいました。
特に印象に残ったエピソードとして、
●どこのブティックも本当に素敵なたたずまいで、ゆったりと見て回ることができる。その上に、デザイナーのこだわりを演出しているブティックもあり、ディスプレイ、デコレーション、どこを見ても「かわいい」「素敵」と思わず声に出てしまうぐらい素晴らしい空間だった。ただ残念だったのは、いろいろな話で盛り上がれるきっかけは山ほどあるけれど、スタッフは笑顔もあまりなく、淡々とした対応だった。見せてほしいというものは丁寧に出してくれたし、聞いたことにはきちんと答えてくれるものの、話は弾まない。徐々に気まづくなってしまって。結局「今回はもう少し考えます」といった途端、「ありがとうございます」と言ってすっとその場から離れ、放置されてしまった。ほかにスタッフもいたが、誰もフォローもしてくれないので、仕方なく出口に向かった。ブランドの世界観という言葉を聞くことがあるが、まさにせっかくの素晴らしい空間だったが、その価値が本当に生き生きと印象に残るように伝わるのは、実際にはスタッフとのやり取りを通じてだ、と思った。
とのこと。
私が「スタッフがそういう接客をするのはなぜだと思いますか?」と聞くと、しばらくう~ん、と考えた後一言。「わざわざ私のような若い子と小物選びで踏み込んだ会話をすることに価値を感じていないのではないのかも。だって、そんなことしなくても売れるでしょうし、もっと高額品をバンバン売らなければならないと思っているのかもしれない。心の中では”早く決めて、決めないなら早く帰って”と思っていたかもしれません。あるいは、朝からずっとインバウンド対応などで忙しくってとっても疲れていて笑顔もなかったのかもしれません」と話してくれました。
実際のスタッフの心のうちは私たちにはわかりません。しかし、ワクワクしながらちょっと勇気を出してブティックに入ってみて感じたことは意外と強烈な印象として刻まれます。「そのブランドにまた行きたいですか?」と聞くと、即座に「行きたくありません。友達にも勧めません」ときっぱり言い切りました。
時が流れて経済的余裕が生まれれば、この心理も変わっていくと思われます。しかし、せっかくの第一印象を台無しにしてしまった分、将来の顧客につながるチャンスは半減します。”そんな若い子はうちの顧客ターゲットではない”と思うかもしれません。しかし、経営視点に立てばインバウンドは絶対安泰ではありません。いつ、なんどき・・も含めると、並行してローカルの若いお客様にも種をまき続ける地道な努力は欠かせません。あなたのお店は大丈夫ですか?
■Z世代が欲するホスピタリティを感じる接客
一方、頑張れば手が届くブランド(化粧品、香水)で受けた接客に関しては、かなり好意的な声が多々聞かれました。やはりターゲットゾーンの中心だけに、日頃から研究している成果が如実に表れているとも言えます。「とにかく、紹介してくれたお姉さんが優しくて、親切。絶対この人から買いたい、と思った」「全力で接客してくれているのがわかる。在庫がなくても、他を調べてくれたり、入荷の案内をしてくれて」「共感しあうことが多く、相談にも親身に乗ってもらえる」「いろいろなものを試させてくれ、どれが一番合っているか一緒に考えてくれる」「よく観察してくれて、先手で対応してくれる」「お話が面白くて、聞き入ってしまった」など、接客の余韻に浸っている印象すら受けました。まさに、商品だけでなく、担当したスタッフにほれ込み、「お姉さん」「お兄さん」という無意識に身近な存在としてとらえており、それがまた足がそちらに向く、という引き寄せ効果になっています。おそらく、来店されるのは若いお客様だけではありませんから、年代に合わせて対応を変えている可能性もあります。それだけ多様な引き出しをもって対応しないと顧客づくりにつながらない、という現実を映しているとも言えます。
■Z世代が感動するポイント/失望するポイント一覧
複数の方へのインタビュー結果から、Z世代が接客において感動したポイント、幻滅したポイントを一覧にしてみました。一度点検してみてください。
プロセス | 感動するポイント | 失望するポイント | |
1 | 歓迎 | ・立ち姿、所作が美しい ・笑顔で「ようこそ」と目を見て声をかけてくれる ・(雨の日)一人ずつ傘を袋にいれてくれる/タオルを渡してもらえる/濡れた靴を拭いてくれる ・ウエルカムの人だけマスクをしていないので、こちらがマスクをしていなくても大丈夫という気持ちにさせれもらえる ・アイスブレイクをしてくれる。自分が何気なく言ったことを反復して、そこから話を広げて返してくれる(大阪から来たんです☞まあ、大阪から!ご旅行ですか?・・) | ・スタッフ同士が話していてこちらに気付いていない ・忙しいのか、別の作業をしながら挨拶(ながら作業)。 大事にされていない、用がないお客と思われている、という気持ちになるので、消極的な気分でショッピングをしないといけない |
2 | 自分に興味をもって接してくれる | ・いろいろある中で、どういうものがいいのか掴むために丁寧に聴いてくれる。反応も読みながら対応してくれるので、気持ちがいい | ・聞いたことには答えてくれるが、何のために、何をどう見ているのかには興味を持っていないので、こちらもそれ以上話す気になれない(エレベーターの中も無言で圧迫感あり) |
3 | 提案 | ・要望に沿うものだけでなく、プラスアルファで選択肢を広げる提案をしてくれるので、ブランドに対し新しい発見がある ・革の扱い方、手入れの仕方など、分かりやすく丁寧に教えてくれる。商品の優れた点について自信をもって説明してくれるので、”すごい!”という気持ちになる ・財布を絞り込むのに、「全身鏡で洋服やバッグとのバランスや色合いをご覧ください」と勧めてくれるので、行き届いていると感じる | ・どこに何が置いてあるかの説明もないので、迷う ・「見たい」というものだけ出して終わる ・見て選んでいる途中で断りもなく商品をさっさと下げる ・他のスタッフがいてもフォローに入らない ・プレゼントと言っているのに、送る相手について質問はない |
4 | 退店時 | ・ドアマンの方が丁寧に対応してくれるのが好印象 ・買わなくても笑顔でまたどうぞ、と言ってもらえるのは嬉しい ・最初の印象だけでなく、後の印象も大きい。名刺を渡してくれて、またお待ちしてます、と言われると好印象。いい気分で家に帰れる | ・買わないと分かると、さっさと商品を片づけて放置される ・出口で複数のスタッフが談笑していると「なぜ、フォローに入らないのか」と思う |
当然個人差もあると思いますが、ブランドや商品の力に依存する怖さ、売れているのを「自分が売っている」と錯覚する怖さを常に持ち続けないと、いつの間にかスキルやホスピタリティが希薄化していくリスクがあることをZ世代から改めて教えられました。
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