■ふらりと入ったお店のサポーターになるまで
以前私は通勤の帰り道にある地下のこじんまりした居酒屋に何年も通ったことがあります。多い時は週に3日、仕事帰りに飽きずに通いました。多くの知人にも紹介し、その人たちがお店を訪れてくれることがうれしくて、まるでその店の営業担当者のように口コミを広げました。だからと言って、特別サービスをしてもらうわけではありません。通常のお客様の一人として同じサービスを受けるだけです。特に義理立てする必要もないのに、なぜそこまで?と自分でも不思議になります。そこで今から振り返ってその当時の心理を紐解いてみると以下のことが分かってきます。
①成長意欲が伝わってくる!
最初に入ったきっかけは、その店がオープンしたてで、熱心に呼び込みをしていたためです。立地も決して良いとは言えず、閑古鳥が鳴いていました。特に何かを期待したわけではなく、単なる興味だけで入店しました。実際、スタッフもどこかぎこちなく、出された食事を見ると、盛り付けなどまだまだ工夫の余地はあります。しかし、スタッフ全員がこちらの反応を一生懸命伺っていることが伝わってきます。そして店長自ら率直に「どうですか?」と聞いてきます。荒削りではあるものの、鮮度が抜群なのと、サービス精神にあふれた量で、久しぶりに東京で鮮魚を満喫した、という気持ちになれました。そこで、具体的にメニュー、盛り付け、価格等についてお客さんの視点でコメントをすると、それを一生懸命メモするのです。その姿を見て、素直に「いいものは持っている、何とかこのスタッフたちの頑張りがより多くのお客様に伝わるといいな」という気持ちにさせられました。
②スタッフの想いが伝わってくる!
他にお客様がいないこともあり、スタッフになぜお店を開いたのか?と聞くと、バンド仲間で「いつかこんな店を創りたい」という想いをよく語り合っていた。30代に突入する際、意を決して少しずつためたお金を出し合い、足りない分は何とか借金してオープンにこぎつけたとのこと。慣れていないことも多いものの、マーケティングやリーダーシップの本なども読みながら、どうすればいいお店になるか考えているとのこと。そして行き着いたゴールが「お客様にとことん喜んでもらうことが、究極の発展の道」という結論。だから、王道で勝負したい、少しでも新鮮な魚を安く仕入れて、薄利でも喜んでもらえればお客様が繰り返し来てもらえるようになる、それに徹したいということ。その志を聞いて、さらに応援したい気持ちにさせられました。
③完璧でない分、教えてくださいの姿勢がお客様の参加意欲を高める!
その後も何度かお店を訪れるうち、とにかく一生懸命、という姿勢と、厳しいコメントをしても「他に気付いた点はないですか?」とむしろ貪欲に聞いてくることもあり、こちらも知らず知らず”チームの一員”として「何とかこのお店を軌道に乗せないと」という気持ちになっていました。最終的には頼まれてもいないのに”のぼり”まで注文して贈呈したり、先述のように知人に積極的にPRしたり。そうこうするうち、地道にコツコツの積み上げがようやく花開いてきて、徐々にリピーターが増え、満席状態になることも多くなってきました。しかし彼らはそこで満足せず、2店舗目、3店舗目を目指すとともに、アルバイト育成などについても相談を持ち掛けてきます。結果、数年にわたってサポーターとして複数の店舗を順に予約しては訪れ、フィードバックを重ねました。
仕事が忙しい中で私をそこまで突き動かしたのは、「お店の一員として、運営に参加している気持ち」と「お店がお客様に喜ばれて、繁盛していくことが自分事のように嬉しい」という気持ちです。つまり、気がついたら、熱烈なサポーターとして活動していたのです。

■できる店長はサポーターとなる顧客を着実に育てている!
私がこれまで出会った、”できる店長”、すなわち、素晴らしい顧客が長期間にわたって複数定着しており、その方々から深く愛されているお店を創り上げている店長を振り返ってみると、顧客様を上記の私のような”サポーター”として育てていることに気づきます。
ある都内の路面店の店長はビジネス界で名士と言われる方々を含め、そうそうたる方々を顧客として育ててきています。
その秘訣を聞くと、まさに「私にとって顧客様は、もっと素晴らしい店舗にするには?マネージャーとしてどうあるべきか?など悩んだ時に、素直に教えを請い、助けてもらっている方々です」と言います。「私よりも何倍も経験を積まれ、いろいろなことをご存じで、且つ厳しいこともしっかりおっしゃって下さる、という点で、単に品物を購入いただくという方々ではありません。こういう方々に出会えて、直接いろいろお話ができること自体、感謝してもし足りないぐらい、財産になっています」とも。
実はそういう店長の心の姿勢こそが、お客様を自然と「このお店や店長を応援しよう」という気にさせているのです。
それを少し掘り下げると、愛着の醸成のプロセスとの関係が見えてきます。
すなわち、マーケティングやビジネスの世界では、どうしても「完璧な商品」「落ち度のないサービス」を目指しがちですが、「愛着(アタッチメント)」の視点で見ると、実は完璧すぎるものは人を遠ざけてしまうことがあります。
●完璧なものは「他人事」、未完成なものは「自分事」
完璧な商品やサービスは、すでに完成されたアート作品のようなものです。お客様はそれを外から「眺める(消費する)」ことしかできません。しかし、どこか未完成だったり、課題を抱えていたりすると、そこに「余白(参加する隙間)」が生まれます。完璧な店だと「私が何か言う必要はないな」と一歩引いてしまう。一方、完璧でない店に対しては「ここはとても心地よいけど、もっとこうしたらさらに良くなりそう」そこでアドバイスを求められるきっかけがあると「私が応援してあげなきゃ」と、お客様が主役(当事者)として関わる余地が生まれるのです。この「関わり」を感じることこそが、愛着の正体です。且つ、足りない点を一緒に何とかした、という体験が、さらにその愛着を強めます。それが、他のお店以上にそのお店に対する代替不可能な絆(愛着)に変わるのです。
できる店長の経験でも、「私がこのお店に赴任して、経験も浅くチームもまとまっていない時に、ある大きな会社の経営者であるお客様に、お包みをしながら世間話的に、”どうすればそんな大きな会社で人を統率できるのか教えてください”と真剣に聞いたことがあります。すると、逆に”どこまで本気でこのお店を良くしたいと思っているのか?”と聞かれて、それ自体が自分の中で整理できていないことに気づかされたんです。答えられずにいると、「次に私が来るまでの宿題だよ」とお客様にいわれて。そこで改めて必死に考えました。2か月ほどたってお客様がまたふらりと立ち寄られたので、その間考えたことを共有すると、そこからいろいろまた質問されて。また宿題を出されて。でも今から考えると、お客様にコーチングを受けていたんですね。そうやって必死にやっているうちに、チームもまとまってきて。気がついたら、お客様もお友達を連れてきてくださったり、他にもいろいろな方をご紹介下さったり。そういう方々がお店の成長を見守って下さる存在になっています。ですから、ただ買ってくださる顧客様、という関係では片づけられない、あのお客様なしでは今の状態は考えられません」とのこと。
且つ、その方一人ではなく、できる店長は他の顧客様に対しても「ファッションにお詳しいので、是非教えてください。私なりに勉強はしていますが、どうすれば○○様のような洗練された、絶妙なバランスで見事に調和させられるセンスを身につけられるのでしょうか。私ももっと勉強して少しでも今以上のおもてなしができるようになりたいんです」と自分の思いをぶつけ、教えていただいたことは書き留めて行動に移してきたとのこと。
恐らくそういうお客様をリスペクトするだけでなく、お店の発展につなげようとする姿勢が、結果的にお客様の気持ちを動かし、素晴らしい顧客が積極的に協力してくださるお店を創り上げたのです。
■お店に完成はない!より良いお店を”共に創る”サポーターづくりが、顧客づくりを促進する!
お店は生き物です。生まれた時は未熟なことばかりです。そこで焦って、無理に完ぺきに見せようとしても、お客様は見抜きます。大切なのは、日々どう脱皮し続け、成長していくか。ただ、それを店長一人で「何とかしなければ」と気負いすぎても空回りします。そこで力を借りることができるのは、お客様。多くの知識・見識・経験をお持ちで、たくさんのお店を見てきたからこそ、どうすればお店が発展するかを客観的且つ冷静に見て、意味ある示唆を下さる存在です。お小言、クレームであっても、教えていただいたことを行動、取り組みに活かすことが、お客様に”お店を一緒に創るサポーター”になっていただく道です。お金を使ってくださるお客様(ファン)を増やすだけでなく、このようにお店の理念や店長・スタッフの人柄や姿勢に共感し、「この店をなくしてはいけない!」と様々な形で支えてくださる「サポーター」をいかに作れるか、が強いお店作りにつながります。
「ここは私のお店」と一人でも多くのお客様に自店に愛着を感じて頂くほど、仕事をしていて素晴らしいことはありません。ただし、お客様も忙しく、エネルギーの使い方を考えます。真摯に向き合う姿勢、未来に向かってより良くしていこうというパッションと覚悟を持った店長・スタッフだからこそ、お客様もそこにエネルギーを投入しても良い、と考えるのです。

★関連記事→できる店長はOJTで差をつける!:ブランド店長問題解決講座(53)
★お勧め本→Kindle&ペーパーバック出版!【ラグジュアリーブランド店長として輝き続けるための 5つの問い】9月1日出版,『新しい店長のバイブル~業績を上げ続ける店舗はこうして創る!』(PHP)
★ラグジュアリーブランド研修についてはこちら→ラグジュアリーブランド研修シリーズ




