■厳しい時ほど、”それは良かったですね”と言えますか?
ある店長が、以前受けた研修で非常に参考になったエクササイズとして「それは良かったですね」エクササイズを紹介してくれました。具体的には以下のようなやり取りをするエクササイズです。
①Aさんが最近悩んでいることを1つ挙げる
②それを聞いてペアを組んでいるBさんが、あえて「それは良かったですね」と合の手を入れる
③Aさんが「なぜですか?(こんなに悩んでいるのに)」とBさんに質問する
④それを受けてBさんは、何かしらの良かった理由を挙げる
実際にやってみるとこういう感じです。
①Aさん:「スタッフがすごく頑張ってくれているのに、先月も今月も店舗予算が達成できず、悩んでいる」
②Bさん:「それは良かったですね」
③Aさん:「え、なぜですか?」
④Bさん:「だって、~~~~~」
いかがでしょう?あなたがBさんなら、どう答えますか?

私はこのエクササイズを教えてもらったとき「強制的に物事の良い面を探す思考ストレッチにつながる」と感じました。物事にはすべてプラスとマイナスがあります。今目の前のことだけを見れば、プラスに映ることでも、長い目で見るとマイナスになることもあります。たとえば、インバウンド景気で面白いように高額品が売れて予算も達成できた。それはありがたいことです。しかし、そこで満足してしまうと、以下のように”長い目で見て”マイナスになることも多々あります。
①緻密な戦略を立てるスキルが磨かれない
②固定客化への執着やアイディアが生まれない
③売れてるから、ということで接客、店舗計画などの振り返りがおろそかになる
④忙しさにかまけて、一人一人のスタッフのケアがおろそかになる
などです。だからこそ、そこまで考えてリスク対策をしておくことが業績を安定させます。
逆に「うちのエリアはインバウンドの恩恵もなく、昔からの固定客が中心で、何とか新規客を取りたいけれど、なかなか成果につながらない」という悩みを持っていることは、今の時点では苦しいことではありますが、《長い目で見れば》「それは良かったですね」と言える要素も生まれてきます。
それは良かったですね、の理由として
①危機感がある分、昔からの固定客に対しできる限りのケア(おもてなし)をせざるを得ない。それが基盤強化につながる
②保守的な発想だけでなく、「新規客もとらないと予算に届かない」がために、何かしら今までやっていないことにも挑戦しないといけない
③だからこそ、視野を広げて、新しいことにもアンテナを立てることができる
④そうなると、ベテランの知恵とスキルだけでなく、若手のアイディアや発想にも耳を傾けたり、取引先との連携も強化しないといけない
⑤成功に導くまでは苦難もあるが、ノウハウを蓄積できれば中長期にわたる基盤強化につながる
等が考えられます。また、そういうポジティブな発想でないと、知恵は生まれません。長々いうより、「それは良かったですね」と逆説的に一言発するだけで思考回路を広げる、というそのやり方に私は衝撃を受けたのです。
「今置かれている厳しい状況」に対し、価値ある”意味づけ”(センスメイキング)ができるかどうかが、変化の激しい時代に問われる店長の力の重要な要素だからです。

■価値ある意味づけ(センスメイキング)のベースは、長期・大局・根本の発想
これまでの常識が通用しない、ということは皆さんも体験を通じて幾度となく実感されていることでしょう。新しく入ってきた若いスタッフの言動に驚いて「私の時代はこうじゃなかった。今は常識が違う」という声を聴くことも多々あります。また、デジタルツールの進化によって、業務の仕方も大きく変わりました。この先、AIによってもっともっと変わっていくでしょう。何とか追いつかないとと頑張っている日々ですが、努力は当たり前。売上という結果につなげられなければ失格です。ただ、苦しい時こそ店長は、いったんお店と自分自身を客観的に振り返ることが大切です。その振り返る際の軸が「長期・大局・根本」です。
①「長期」:キーワード=《長い目で見て》。
将来、店舗ビジョンが実現している状態から振り返ったとき、今はどう映るのか?
苦しいけれど、「ここを乗り越えたからこそ、今のビジョン実現につながった」「ここで問題を解決することをあきらめなかったからこそ、今がある、と思える時期」にするには、どうすべきか?を洗い出してみましょう
②「大局」:キーワード=《自分がもし~だったら》この状況をどう捉えるか?どうしてほしいか?
変わり続ける環境の中で、自分の視点だけでなく、経営者や上司の視点、取引先の視点、競合他社の視点、お客様の視点、スタッフの視点から見て、今はどう映っているのか?どうすることで、関係者の見方がポジティブになるのか?自分がもし~だったら、どう思うか?など、あえて他者の視点にたって、物事を俯瞰してみることです。
③「根本」:キーワード=《そもそも》
そもそも抱えている問題の根っこはどこにあるのか?これを放置するとどうなるのか?
そもそも何を目指していたのか、いるのか?
そもそもこの発想で本当に良いのか?等を掘り下げて考えていくことです。
この長期・大局・根本を踏まえて「今の状況が発生している意味や意義を構築する」のです。(センスメーキング)
Cさんは売上の良いメガブランドでスタッフ経験を積んだあと、「新店を任せてもらえる」ことに惹かれて、中堅のブランドに転職し、店長に就任しました。これまで高い売り上げを実現してきたノウハウをもってすれば、必ず成功に導ける自信がありました。スタッフともコミュニケーションをとり、ビジョンを共有し、ロールプレイングで接客のあり方も確認し合いました。「持てるノウハウを全部出して、これ以上できないというぐらい頑張りました」。オープンから数日はお客様も物珍しさで来られ、ほっとしたのも束の間。数週間経つうちに来店数は減り、売り上げも厳しくなってきました。やれることは何でもやろうという気持ちだったため、その間も明るく声掛けをして、スタッフのモチベーションを維持するように努力しました。しかし、3か月続けて予算が達成できない状態で、会社からの期待が色あせていくのが分かりました。「苦しくて苦しくて、一人になったときに半分悔し涙ですが、泣いたりもしました」とのこと。「結果が出せなければ、辞めるしかない」と自分を追い込むものの、そうすればするほど苦しさが表情に出るようになってしまい、悪循環が始まりました。出口のない不安にさいなまれて”来月もダメかも”という気持ちばかりで、希望が持てなくなりました。スタッフに弱音を吐いてはいけない、という責任感の持ち主だけに、一人で苦しんだ時期でした。
4か月目は少し持ち直したものの、他店に比べると見劣りする成績。いよいよ行き詰ってきた5か月目に入ろうとしたとき、スタッフの一人がおずおずとCさんに言ったそうです。
「店長、こういう時こそ、一緒に考えるために私たちがいるんじゃないですか。オープニングスタッフとして何とかしたいという気持ちは一緒です。3か月前に私が売れなくて、足手まといになるぐらいならやめた方がいいかもと一人で悩んでいるとき、「一緒に取り組みましょう」と言ってロールプレイングにとことん付き合ってもらって。だからこそ少しづつ売れるようになって。あの時あきらめないで良かったな、と思えるからこそお店の役に立ちたいんです。
でも最近店長は元の明るさはないし、一人で何とかしようと頑張っているようで、私たちも声をかけづらくて。
うちのブランドはまだまだこのエリアでは認知してもらえていないから、言っては何ですが、お客様が少なくて当然かな、と思います。
でも、よくよく見ていると、以前来られた方が”また来たわ”と言ってくださったり、修理品を持ってこられた方が、じっくりお話をされていったり、滞留時間が徐々に伸びています。だから私は皆の頑張りで良い芽は育っていると思っています。
確かにすぐに売り上げにはつながっていませんが、このままぶれずに半年丁寧にやり続ければ、定着するお客様が出てきます。だから、売り上げだけを気にするのではなく、来店した人すべてに声を掛けられたか、接客中に複数の商品を紹介し手に取っていただけたか、お客様のご来店動機を聞けたか、連絡先を頂けたか、などを見て行くようにすれば、私たちも励みになりますし、進歩しているのが見えるのでは?」と提案してくれました。
その時Cさんは、自分が見失っていた、上記でいう「長期・大局・根本」の発想に気づかされたとのこと。「店長である私が一番、目先の売上に焦り、狭い視野でしか考えられなくなり、とりあえず何とかしなければと小手先に走り・・ぶれまくりです!恥ずかしい面もありますが、でも、あれだけ苦しんだからこそ、プライドを捨ててスタッフの意見を素直に受け止められたんだと思います。タイミングが合わなければ”そんなことぐらいわかっている”で聞き流したかもしれませんから。そう思うと、最初からうまくいかなかったことに意味があるなと感じます。メガブランドで売れる状況が長かっただけに、見失っていたことが多々あったことを教えられました。
今では、トップ5に入る売上を創り、百貨店とも良好な関係を構築している店長のエピソードです。
その根幹には、苦しい時ほど原点に立ち戻ること、ピンチの時こそ「(長い目で見て)それは良かったですね」と後々思える状況を創るべく、あきらめずに柔軟な発想にトライするしなやかな芯の強さがあるのです。
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