■インバウンドのうつろいやすさ(2018年のインバウンド激減ショックから学べること)
銀座のラオックスが2018年8月末で銀座のお店を閉店しました。
理由はシンプル。顧客数、単価の大幅下落で売り上げ、利益が減少し、一方でこれまで投資した分のコストが嵩むからとのこと。
銀座ラオックスと言えば、特にアジアからの旅行客(インバウンド)向け免税店として大型バスが止まる抜群の立地で、品揃え、中国人接客スタッフらを揃え、行列ができるほどに盛況だったにも関わらず・・です。
写真は2年前(2016年)に撮影した銀座の朝の光景ですが、団体客の大きな声、「買うぞ!」という意気込み、とても日本人の私たちにはかなわないアグレッシブなパワーに満ちあふれていました。店内もごった返し、まさに商品が「飛ぶように」売れていました。それが閉店に追い込まれるとは。
たった1~2年で何が起こったのでしょうか?
シンプルに言えば、主な理由は2つ。
一つは為替や関税施策によって「内外価格差」が縮まったことで、さほど”安さ”を感じなくなったこと。また、インバウンドの中心層が「富裕層」だけでなく、「中流層」まで広がったことで、金銭感覚がより鋭くなっていることが挙げられます。
もう一つ、こちらの方がインパクトが大きいのですが、社会が成熟化すると共に、インバウンドの購買意識、行動が変化したためでもあります。
ニュースでもよく言われるように、「モノ」から「こと」へ。「モノ」だけであれば、インターネットの普及も含め、世界中のモノを旅行せずともそこにいながらにして手に入れることが可能になりました。また、経済成長のおかげで、家賃こそ高いものの便利なモノは中流層にまである程度行き渡ってきました。となると、旅行の目的が「お得なものを買う」「そこにしかないものを買う」という軸から、徐々に「そこでしか味わえないモノ・こと」にシフトしていく。それが体験価値です。
地方の離島、北海道の先端、高知の四万十川(空港から車で5時間)・・など、日本人でもなかなか行かない(忙しくて行けない)場所、何処へ行っても外国からの観光客が当たり前に見られるようになりました。1回の旅行のこだわりレベルはどんどん深まっており、「画一」から「個別(こだわり)」へ。これは日本と同じ流れですが、驚くのはその変化のスピードです。
日本人が現在のように、成熟化し、品質に対するこだわりだけでなく、自分のライフスタイルやそこから「何をどう選ぶか」のこだわりが顕著になってくるまでにはある程度の時間を要しました。バブル経済によってインフラが整備され、生活基盤が整い、バブル崩壊後の20年以上をかけて、単に拡大を目指すのではなく、各人が”快適”を追求するようになり、現在の「多様な」働き方、遊び方、こだわり方が当たり前になってきました。しかし、中国を始め、アジア諸国はその転換スピードがあまりに速く、こちらの想定を超える動きになっているのです。
■インバウンド対応を販売スタッフの成長チャンスにしている店長は何が違うのか?
先日もあるラグジュアリーブランドの販売スタッフと話をしていると、「今では商品、サービスに対するこだわり方は日本人のお客様と何ら変わりません」と認識していました。以前のように「片言の中国語」でスマホに映された商品を出せば売れる、という時代は遠い昔で、今では英語、中国語or韓国語を使って、きちんとお客様のニーズや背景を掴み、こちらから積極的に提案をする。その際、なぜそれが「あなたにぴったりか」をきちんとご納得いただけるように伝えなければ購入に至らないとのこと。それは予算等の問題というより、そのレベルのサービスを求められているから、とのことでした。
となると、本当のところ、インバウンド対応は、日本人のお客様よりも難易度が高まることになります。なぜなら、そういう方々は
●ご旅行やご出張中なので、そんなに無駄な時間は使っていただけない
●少なくとも英会話、あるいは中国語か韓国語による会話ができないといけない
●世界中のサービスを経験していることも想定されるためサービスへの期待度が高い
●以心伝心ではなくほめる、ダメならダメというなど、意思表示をはっきりしないといけない
●現地の慣習を理解していなければならない
●商品やブランドについてしっかりした知識を持って、なぜそれがお似合いかを明確に伝えなければならない
●日本に興味があり、勉強もされてきているので、日本自体についての歴史や文化、流行の場所などを頭に入れておかなければならない・・・
等々、いわゆる【日本人同士だから分かっていただけるはず】という甘えが通用しなくなることを意味しています。しかし、これはある意味販売員にとっては格好の成長のチャンスにできます。日本に居ながらにして、「多様性」への対応を身をもって体験できるのですから。外国人スタッフと働くとはどういうことか?外国人の方々に、日本の”おしつけ”ではなく、”もてなす”とは具体的に何をすることなのか?語学の必要性だけでなく、多様な国、民族、価値観を持った方々と本当の意味でコミュニケーション(意思疎通)を図るとはどういうことか?を日々勉強できる貴重な機会を与えられているとも言えます。
いくら教科書的に「多様性・グローバル化への対応」を学んでも、日々生身の人を相手に、しかも売上結果を期待される中で、どうすべきかを研究する以上に生きたノウハウを生みだす手段はありません。そう言う意味で、今こそ販売スタッフのあり方が今後の日本のあり方を支えることにつながると共に、適応できないと、販売スタッフの仕事は今後もどんどん価値を失うか、AIロボットにとってかわられていく厳しい時代でもあります。
忙しい中でも、そういう「時代の変化」を読み、どうすれば自分自身の未来につながるチャンスにできるのか?を考えれば、私たち販売スタッフののやるべきこと、できることの多さに圧倒されると共に、大きなやりがいにもつながります。
店長や販売スタッフと話す中で、視点の持ち方を変えることで仕事を楽しむことにつながるのではないか?と考えさせられる今日この頃です。
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