■マネージャーにとって店舗内の人間関係ほど難しいものはない?!
店長だけでなく、スタッフの中にも「職場の人間関係ほど難しいものはない」と考える人は多いのではないでしょうか。
人間関係がうまくいかなくなるケースとして、私が実際経験したり、見てきた中で、たとえば以下のようなパターンがあります。
①人間は感情の動物。どうしても好き嫌いは出る。且つその感情を理性でコントロールすることはかなり難しい。⇒どうしても表情や態度ににじみ出る⇒相手に伝わる⇒相手も似たような感情を抱きがちで、お互いにぎくしゃくしてしまう。いったん嫌いとなると、本来好きだった仕事・会社・職場に対しても嫌な面が見えてきて、仕事に身が入らなくなる⇒うまくいかないことが増える⇒仕事に行くこと自体嫌になり、なかなかその呪縛から抜け出せなくなる。⇒退職や休職につながりやすく、店長としては、特に頭の痛いところです。
②立場・距離が近いとつい「我」が出やすくなり、知らず知らず相手にも同じレベルを求めてしまう。⇒「こうするのが当たり前」という自分の基準を相手に当てはめ、それから外れた行為に対し、どうしても目が行ってしまう。⇒些細なことが気になり始め、「なぜこうしないの?」「なぜそうするの?こうすればいいのに」という想いが強くなる。⇒それを率直に言い合えればいいけれど、”言い方に気を付けないといけない””そのうち気づいてくれるかも”などいろいろ考えるうちに言い出せないまま心の中にため込んでしまう⇒ストレスになるので、本人ではなく別の人に愚痴ってしまう⇒それが遠回りに本人の耳に入ったりして、気まずくなる⇒わだかまりを解く方法がわからないまま時間が経ち、しこりになる⇒徐々に精神的に疲れてきて一体感が持ちにくくなる、というパターン。
最初は仲良くやっていたはずなのに・・・いつの間にかぎくしゃくしてしまって・・。特に「これ」という特定の原因があるわけではないんです、という声も聞きます。
これも店長としては、お店の空気に関わるだけでなく、チームとして協力し合いたいけれど、お互いの関係性に気を遣わないといけないという負担が増して大きなロスにつながります。
お客様との関係は「点」あるいは「線」なので、多少嫌なことがあったとしても物理的に離れれば、冷静にもなり、感情を鎮めることも可能です。が、スタッフ同士となると限られた空間で一緒にいる時間が多いこともあり、「避けられない」=冷静になろうとしても感情がよみがえってしまう難しさがあります。
しかし、翻って考えてみると、赤の他人同士にもかかわらず、最初から何の努力もなく相性がぴったり合って、お互いに何の文句も出ない関係性と言うのは存在するのでしょうか?よほど運命の赤い糸で結ばれていない限りありえないのではないでしょうか。世の中からおそらく人間関係の問題は消えることはなく、どれほどテクノロジーが発達しても、この問題だけは普遍的に存在し続けるのではないでしょうか。
となると、店長としては「もっとうまくやってほしい」という気持ちは持って当然ですが、逆にお互いにすすんで協力的にやってくれているケースの方が、ある意味本当に難しい確率を乗り越えてもたらされた貴重な状況といえるのかもしれません。
■ぎくしゃくする人間関係を乗り越える3つのポイントとは?
では、店長としてぎくしゃくする人間関係に対し、何ができるのでしょうか?
ここでは3つのポイントに絞って考えてみましょう。
1)感情の問題からアプローチするのではなく具体的な結果や行為からアプローチする
嫌いなものを好きになれ、と言ってもどこか無理があります。それよりも、そもそも私たちに期待されていること、すなわちミッション/達成すべき成果からアプローチすることが大切です。なぜなら、私たちはそのために日々店舗に立っているのですから。それを達成できるかできないかが最重要課題であることをしっかり共有したうえで、その達成に向けて阻害要因となる言動に関して店長としてフィードバックすることが重要です。
たとえば、「〇〇さんの良いところも見てあげて」というよりも「先ほどの接客で〇〇さんが接客で手一杯なのを見ていたのに、商品を片付けたり、提案商品を持っていくフォローができていませんでしたね。それによって誰に、どんな影響が出ていると思いますか?」とアプローチした方が自分の行動の振り返りになります。且つ、その対話を掘り下げていくことで、徐々に「好き嫌いで態度や行動を変えてしまうことで、最終的に店舗の足を引っ張ることになり、自分の評価にもマイナスに働く」ということに気付いてもらうことにつながります。
逆に、好き嫌いを超えてやるべきことをきちんとやっていた場合には、「ありがとう。助かりました。さすがですね」と伝えることで、徐々に感情の切り替えもできるようになってきます。理性が感情に徐々に打ち勝てるようになるためにも、「感情はさておいて、どのような行動を強化してもらうか」に焦点を当てることが非常に重要なのです。
2)役割・課題を与え、そこに神経を集中させる
手すきの時間が増えると、人間は考えなくても良いことも考えてしまったり、見なくても済むものを見たりしがちです。手すきと言っても新しい情報を得るために自由に持ち場を離れることができるわけではないため、どうしても身近に動くものに目が行きがちです。そう、同僚スタッフの言動がどうしても目に入ってきやすくなるのです。
そこから邪念が生まれることはしばしば。そのリスクを回避するためにも、店長は、スタッフにできるだけお客様や業務が立て込んでいない時間帯をどう有効活用してもらうかに腐心することは非常に重要です。
たとえば、”今後のキャンペーンの成功に向けて1日最低3つは具体的アイディアを出して記録していってください”、あるいは”空いた時間があれば他店のディスプレイと比較して自店の商品のここがウリ!と言う点を1日3点出してください”、など具体的にやりきらなければならない課題・宿題を出して常により店舗をよくすることを考え続けるよう頭を一杯にしてもらうことが大切です。
3)一人一人の良い点、助かっている点を店長が具体的に示し、皆で共有する
人は自分の考えに固執しがちです。自分が思っていることは他の人も思っているはず、とどこかで勝手に思い込んでしまうところがあります。そこで、店長としては、誰に肩入れする、と言うことではなく、”縁があって今同じチームにいるメンバー”に対し、各人の自分にはない強み、頼りにしている点をことあるごとに具体的に皆の前で共有することが大切です。
それによって、スタッフ同士「へえ、自分の知らない面があの人にはあるんだ」とか「ふーん、そういう見方もあるのか」と視野を広げたり、少し柔軟な目でお互いを見るきっかけを作っていくのです。
以前私もちょっとした断片で「この人はこういう人だ」と決めつけてしまう傾向がありました。しかし、同じ職場で、非常にうまくチームをまとめているリーダーがいて、その人と話しているときにあることに気が付きました。たとえば私が「〇〇さんてこうですよね」というと、「ああ、彼ね。確かにそういう点はある。ただ、実は彼ね、以前こういうことがあったときに、こういう行動をとったんだ。それを見て僕はこの人は~ができるんだ、と改めて思ったんだよね。だから僕だったら、彼に~をお願いしてみるけど。だって~してもらえそうだもん」というボールを投げ返してくるのです。
それが一人二人ではなく、ほぼその職場の人全員に対し、そういう”事実に基づくポジティブなボール”を投げ返せるだけの情報を持っているのです。
彼と話した後は、素直に「へえ、そうだったのか」と思えて、自然とその人に向けるまなざしや態度も少しポジティブになっていき、ストレスもぐっと少なくて済みました。
そのリーダーの観察眼によって、メンバーも「このリーダーならついていける」と思うのか、”部署替えで赴任した先々で素晴らしいチームワークを築いている”という評判を数多く聞きました。
以上が、今日から即実践できる3つのポイントです。
ただ、お客様との関係同様、人間関係は「確率論」でもあります。努力したから100%思った成果につながるとは限りません。ただ、確率を上げる努力は必ずその人の力となり、厳しい状況下に置かれた際にも自分を守ってくれます。
その時武器になるのは、「相性の合う人材」を求めることではなく、日々の地道な種まきを継続することかもしれません。
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