■信頼できるってどういうこと?
「信頼性の3要素」というキーワードをご存じでしょうか?私たちがある人を信頼できるかどうかを判断する際に
①有能さ=その人がこちらが期待していることををやり遂げる能力があるかどうか(スキル/経験)
②頼りがい=その人があなたのためにやる、と言ったことを必ずやるかどうか
③正直さ=その人は私に対してどんな興味と動機があるのだろう
ということを見ている、ということです。(『Trust 世界最先端の企業はいかに<信頼>を攻略したか』より)
言われてみれば、「あのスタッフは信頼できる」という際、私たちはそのスタッフのプライベートや過去をすべて知っているわけではありません。ただ、仕事において「頼んだこと、期待することをきちんとやってくれる」「約束したことをきちんと遂行してくれる」「それも自分のためだけでなく、チーム全体のことを考慮してやってくれる」という条件が揃えば、良い結果を期待することができ、十分信頼して仕事を任せることができます。
ということは、裏を返せば「信頼」とはその人の生き方や考え方をすべて反映するものではなく、あくまで「この領域において」という限定的なものであり、且つ、信頼に値するレベルまでスタッフを育てることは十分可能、ということです。また、いったん何かのきっかけで崩れた信頼も、改めて取り返すことも可能である、ということです。そう考えると「あんなスタッフでは信頼できない」ではなく「信頼できるようなスタッフになってもらうには、今店長として何が大切なのか?」と冷静に分析してみることがより意味があるのではないでしょうか。
■崩れた信頼・・・
実際、先日お会いした店長は以下のような経験をした、とのことでした。
・中途入社で入ってきたスタッフがしばらくすると周りから浮いてしまっていることに気づきました。何となく他のスタッフがその人によそよそしいのです。
・そこで話を聴いてみると、「あの人はうちのお店の雰囲気に合わない」という抽象的な話ばかりでてきます。
・具体的に何があったのかを確認していくと
「こちらが教えたとおりにやらず、勝手に自己流でやってミスをしてしまう。分からないことがあっても私たちに確認してこず、ミスにつながる。結局私たちがそのしりぬぐいをしないといけない。その割に悪いと思っていない様子」
「商品が売れるのは良いが、自分の成績ばかり気にして、他の人のフォローを積極的にしない。自分さえよければ、という気持ちがあるのではないか」
「店頭以外の仕事を依頼したところ、時間がかかりすぎてその割にきちんとできていない。途中報告もないので、他のスタッフが休憩に出られないことがあった。自分のペースを重視して周りのことを気にしていない」
などなど不満がいろいろ出てきました。
・結論としてスタッフの中には「あの人が入ってきたことでチームワークも悪くなってしまった」と言い出す人が出る始末です。
一人のスタッフではなく、複数のスタッフの声はパワーを持ちます。店長もそれを聞いて、「問題のある人が入ってきてしまった。人事からは特に何も問題とは聞いていないのに・・」と思ったそうです。
■2つの落とし穴
しかし、この話には大きな落とし穴が2つあります。
一つは「事実」と「意見」が混同していること。
まず私たちはあくまで事実と意見を冷静に切り離して話を聴く必要があります。
たとえば、「こちらが教えた通りにやらなかった」「ミスをした」は事実としても、「(好き)勝手にやった」「悪いと思っていない」はあくまで意見です。
あるいは、「他の人のフォローをしない」は事実としても、「自分の成績ばかり気にして」「自分さえよければ」は意見にすぎません。
スタッフの気持ちはわかりますが、問題解決するにあたり、店長はあくまで「事実」に焦点を当てることが重要です。
もう一つの落とし穴は「期待通りできていない理由」の掘り下げが客観的にできているか、です。
先述の信頼性の3要素を活用すると
①中途だから大丈夫だろう、ではなく、このお店で必要とされる知識・スキル・経験をきちんとインプットしているか
②約束したことができないことでどれほど重要な影響が幅広く及ぶかをその都度きちんと理解させていたか
③本人の転職動機、意欲、気にしていることに耳を傾け、どうすればなりたい状態になれるのかをすり合わせていたか
など、こちらの働きかけが十分であったかどうかを振り返る方が近道、ということはよくあります。
■信頼を取り戻せ!
店長曰く「私も忙しく”中途だから大丈夫だろう”と勝手に安心感を持っていたことを反省し、冷静に本人と話をしました。現状を客観的に共有し、この状態から抜け出して、本来望んでいる「信頼される状態」になるためにお互いに何が不足しているのかを1つ1つ振り返りました。実際対話を通してスタッフから以下の言葉が出てきました」とのこと。
・「中途のクセに・・と思われるのが嫌で、確認がおろそかになっていて、ミスした分は売り上げを上げて取り戻さなければ、という焦りが先走っていました。
・周りからネガティブに見られている、と気づき始めてからはなかなかこちらから打ち解けられず、よけい視野が狭くなっていたと思います。
・正直、苦しかったです・・・。
店長はそれを聞いて心が痛み、「何とか一緒に信頼をしあえるような状況を創りましょう」とスタッフを励まし、精力的にフォローした結果、数か月後そのスタッフの笑顔を見ることができたとのことです。
今では何事もなかったかのようにスタッフ同士、屈託なく笑いあって話をしている光景を見ながら「一時の感情や安易な判断で決めつけてはいけないと肝に銘じています。だれでも信頼に値する仕事ができて仕事を楽しいと思えるようになってもらうために、店長としてできることを積極的にやることが本当に大切だと教えられました」と話していました。
100%解決とはいかないにしても、育成の問題にぶち当たったときにいったん立ち止まって考えることは私たちの視野を広げることにつながると教えられます。
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