■「そつなくやってはくれるけど・・それ以上頑張ろうとはしないスタッフ」に対する店長の葛藤
今や名だたるラグジュアリーブランドは各社でトレーニング専門部署や専任トレーナーを置き、グローバルでの教育メニューがすべてのスタッフに速やかに行き届く仕組みになっています。
教育メニューもe-ラーニングで学べるものからOJTツール、集合研修のプログラムまで最先端のものが用意され、昔に比べるとブランドについても商品や顧客管理の仕方、店舗マネジメントやコーチング等についても至れり尽くせりで学べる環境だと感じます。
裏を返せば、お客様のスタッフに対する期待値も上がり続け、ブランドの顔にふさわしいだけの教養やスキルを有していないとサービス競争に勝てない、という危機感の表れでもあると思います。それだけに、各ブランドで本当に素晴らしい考え方でリーダーシップを発揮されている店長も非常に多くなりました。
まさに「できる店長」がそこかしこにいて、安心して店舗経営を任せることができる、と言っても過言ではありません。この高い基準を体現している業界の発展には感動すら覚えます。
ところがその“できる店長”たちからよく聞く今の部下育成の悩みとして、ざっくりと以下のようなことがあります。
<スタッフプロファイル>
*年代的には20~30歳過ぎ
*ファッションがそれなりに好きでこの仕事に就いている
*仕事(業務)に対してはまじめでやるべきことはきちんとやる
*接客もそつなくできる。向いているとも思う
*数字もそれなりに上げたい、と思っている。だから一応フォローは行っている
*特に反発するなどの行為はなく、言われたことには従う
やりにくいベテランに比べれば、若くて素地があるだけに店長としては当然「育てがいがある」「今はまだ若いがこれから経験を積む中で、可能性を引き出せる」とも思う。だからこそ、何とかより高い結果が出せるように全力でサポートしたいと考えます。ところが、当のスタッフ本人がせっかくのその店長の好意やサポートに対してさほど乗ってこないのです。
話を聴くと
「何とか頑張る動機づけをしたいと思って、どうなりたい?どこまで達成したい?と聞いても、あまり欲がないんです。
やればできる、と思うし、評価もされると思うんです。その方が仕事も面白くなるし。自分の顧客様が増えれば、やりがいになりますよね。あなたならできる、という前提で、こういうことをしたら?とかこういうやり方もあるよ、とあくまで押し付けではなく、提案という形で勧めてみるんですが、はい・・というだけで期待するような積極行動にはならないんです。
また、そういうスタッフが増えているような気もします」
とのこと。
まさにそれが成熟した社会の「多様化」「個別化」の流れです。
店長が言っているのは実際の成功体験や成功事例をもとにしたまさに「正論」です。目の前の店長がその体現者であり、成功者でもあります。しかし、いくら正論で実例を示されても、それに“なびかない”人も多い、という現状があります。
部下の心理としては「言っていることは分かる。自分のことを思ってくれているのも分かる。期待をかけてくれているのも分かる。
でも、私は別に・・」という気持ちではないでしょうか。つまり、人は人、自分は自分。且つ「やればいい」というメリットではなく、「やりたいか、やりたくないか」がより重要なウエイトを占めているのではないでしょうか。
もちろん仕事である以上、やりたくなくてもやらなければならないことがある、ということは重々わかっていて、そこは仕事として割り切ってやる。ただ、自分の将来キャリアや生き方に関しては、「あの人のようになりたい」というより、「自分に合った生き方をしたい」の方が強いのではないか。すなわち、自分の価値観や生き方に関しては意外と殻が固い。
「何が自分に合っていると思う?」と聞いても「そのうち見つかると思っている」という答えもよく聞きます。それだけのんびりできるのも、豊かさの裏返しとも言えますが・・・。
「マイペースでやっていきたい」「がつがつしたくない」スタッフをどうしたらいい?
店長としては、そういう部下に対してどのように動機づけすればよいのでしょうか?
私見で恐縮ですが、いったん店長の側も自分の理想や指針である「こうあるべき」「こうすべき」を捨てて、“自分は自分、人は人”と いう割り切った考え方を取り入れることが必要かもしれません。(さもないとフラストレーションがどんどん嵩んでくる。)
そしてそのぐらい割り切った気持ちでスタッフと対話することをお勧めします。
その際、「質問をして相手に話させ、考えさせる」ことが大事ですが、つい想いが強くなって「どうしたら思う方向にリードできるか」を前提に質問をしているケースも多く見られます。
その姿勢を部下はしっかり見抜いて「こう答えておこう」というリアクションになり、結局単に柔らかい説得話法で終わってしまうことも往々にしてあります。そうではなく、表面は同じように見えてもその奥で「この人は自分と違ってどんな考え方をもって生きているのか?」という興味をもってまさに口を挟まず耳を傾けて聴く、ということから改めてスタートすべきではないでしょうか。
実際そのような姿勢で聞いてみると、20歳のスタッフでもそれまでの様々な経験から自分なりの考え方を持っており、それが自分でも気づかないうちに自分の行動を左右していたり、人格を形成していることがわかってきます。
各人の考え方は「いい、悪い」とは一概に言い切れません。大切なのはまず私たちが相手の考えを深く知ると同時に、本人にも自分の考えに向き合ってもらい、本当にそれでいいのか、自問自答してもらうことです。
誰かの話によって自分の考え方を変えて生き方を変える、のではなく、誰かや何かをきっかけに自分の考え方に気づき、そこから自分でどうするかを考えて選択していく、そういう深い気づきのサポーターの一部として上司や先輩が存在しているのです。
親心は重々わかるのですが、本当にポテンシャルを引き出すには、まず“こちらの考え方のリセット”や“より深い気づきにつながる傾聴の仕方”を研究することで、これからますます進む多様化・個性化の時代に店長自身の可能性をさらに引き出すことにつながると考えます。
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