■コロナ問題でスタッフ間の明暗がはっきりと出た!
オリンピックイヤーである2020年の明るい年明け!・・と行きたかったところですが、コロナウイルスの影響で、百貨店含め大きな売り上げの山場を創る予定だった春節は、売り上げ以上にお客様やスタッフの安全の方が重要課題となりました。
マスク着用での接客光景も当たり前になるほど、コロナは長引き、はっきりと先が見通せないまま3月に突入。
3月といえば冬から春に向かい、卒業・入学などシーズンイベントもあり、本来は心ウキウキのショッピングの盛り上がりの季節。
しかし、銀座や表参道など本来賑わいを見せるはずのスポットが、これまでにないほどガラ~ンとしたままでした。
特にインバウンドのウエイトが高かった百貨店はフロア自体も人がまばらで、その分ゆっくり買い物もできますが、そもそもの日本のお客様も人混みを避けるため足が遠のいてしまいました。
しかし、ブランドごとの売り上げ状況を聞いていくと、「大打撃です」というところもあれば、「もともとインバウンド自体がほとんどなかったので、影響はさほど出ていないです」というところもあります。これはある意味必然です。
ただ、同じブティック内でも、「1月以降、スタッフ間の売り上げ差がはっきりと出ている」という声があり、理由を聞くと「日本人の顧客様をしっかり維持しているスタッフは相変わらず安定した売り上げをとれていますが、インバウンドの接客中心で数字が上がり、安心しきっていたスタッフは、売り上げも相当落ち込んだうえに、何をどうして良いかわからない状況にある」とのことでした。
「インバウンドのお客様が減ったら、ローカルのお客様にもゆっくり接客する時間もできて、そこから顧客をつくればよい」と思っていたら、当の日本人の新規のお客様の来店まで一緒に減ってしまったら、一体何から始めてよいのか・・・、という状況のようです。
私自身、心当たりがありますが、仕事が立て込んで忙しい時は、仕事がすべてひと段落して落ち着いたペースでやれるようになったら、もっと丁寧に個別のお客様のケアをやっていこう、だから今は仕方がないけれど・・・最低限のことをやっておこう、と思って先送りしていた時期があります。
しかし、景気が傾き、仕事量が減り、「さあ、いざ」と思ったときには、すでにお客様は去ってしまっていました。
何事も自分都合で考えていては、手痛いしっぺ返しをくらうという経験が身に染みて、それ以来、「先々のことを考えればこそ、今、このときが大切」と心してかかるようになりました。
おそらく顧客をしっかりメンテしていたスタッフも、もちろんインバウンド対応はしていましたが、忙しいからと言って「せっかく作った顧客様のケアをないがしろにしたら、このあときっと自分の首を絞める。且つ、お客様はそのことをしっかり見抜く」ということがわかっていたのだと思います。だからこそ、手を抜かず忙しい中でもせっせとお電話したり、提案したりしていたことが、ここへきて明暗となって表れた。長期的且つ大局的な視点でモノを見ることの大切さを気づかされるエピソードでした。
■顧客化戦略ー「誰に、どのような価値を、どのように提供するのがベストか」を明確にし、体現する!
では、どうすれば「次につながる顧客」になっていただけるのでしょうか?思い付きだけであれこれやってみるだけでは、ケースバイケース、ということもよくあり、なかなか体系だったノウハウにはなりません。
実はその”最適解”は個々のお客様ご自身が持っているのです!先述のように、お客様は私たちの都合で意思決定したり、行動したりするのではありません。お客様ご自身がいいと思ったから、価値があると思ったから、やるべきだと思ったから、やりたいと思ったから、ご自身の意思で行動を選択されます。だから、とことんそのお客様の身になって以下のことを考えてみることが大切ではないでしょうか。
「もし私がこのお客様だったら、数ある競合店と違って(あるいはそれ以上に)どのような価値を提供されたら、次もここを利用しよう、また会いにこようと思うだろうか?」。
前提として、ブランドの良さを伝えたり、商品の特長を伝えたり、「お似合いですね」とほめたり、比較商品をもって来たり・・・おそらくそのぐらいはお隣のお店でも熱心にやっているはずです。
では、それ以外に何で差別化すればよいのか?何があれば、「ここにしよう」という決め手になるのか?
どのブランドも、素晴らしい空間・手の込んだ商品、あこがれのイメージ訴求・・・組織をあげて総力戦で取り組んでいるがゆえに、逆に圧倒的な差別化が難しい現状。
でも、お客様は何か興味や惹かれるものがあって足がそちらに向いた。
本当に貴重な接点をお客様は選択された。せっかくのこの瞬間に、「ここは違うな」と思っていただける価値を提供できるかどうかが勝負どころです。
且つ、それが短時間でできなければ、おそらくその足でお隣のお店に流れていってしまうでしょう。
あなたなら、どのような価値を提供することでお客様の心を掴んだり、印象に刻むことができるでしょうか?
私がこれまで出会った”顧客をたくさんつくっているスタッフ”を思い返してみると、「第一印象」から圧倒的な差別化をしているケースが多いといえます。
“圧倒的な差別化”とは、まさに、店舗の中をのぞいてスタッフと目が合った瞬間、「まあ、わざわざこのお店に視線を向けてくださってありがとうございます!是非ようこそ!嬉しいです!」と穏やかなあたたかみのある表情で、しっかりアイコンタクトをとっている。その笑顔と言ったら・・!且つ、すでにゆっくりと動き始め、近づいてきている。
じゃ、ちょっとだけ・・・。という気持ちで足を踏み入れると、個人的なやりとりをしている雰囲気で「お近くですか?」と思わず自然と答えてしまうような投げかけ。答えたことに対しては、相槌をしっかり打って受容的に聴いてくれるとともに、「今日はお散歩日和ですものね」と波長を合わせてくれる。
そう、このスタッフが提供してくれたのは、「ちょっと入りにくそうだな、敷居が高そうだな、見るだけでさっと帰って大丈夫かな・・」という私の不安をすばやく察知して、それを瞬間的に解きほぐして、リラックスした気分で商品やスタッフと自然対で接することができる時間。だから思った以上に長居して、そのうちに思ってもいない興味が生まれてきて自分からも質問し、・・・というサイクルにはいってしまう。しかもお店を出た時には、「なんていいお店なんだろう」と感動すら覚えてしまう。
まさに私から見れば魔法にかかったようなレベルです。
同時に、プロフェッショナルさも感じ、それがブランドの格を高めることにもつながっているのです。
後で聞くとそのスタッフは「入社する前は、自分もブランドの敷居が高く、窮屈な感じがあった。だから自分がスタッフになったとき、どうすればすっとその緊張を解けるかを考えて、ウエルカムはかなり自分で意識して研究してます。入店される前から、お客様の動きをさりげなく観察し、こういう出方をしたらどうかな?と自分で仮説を立てて臨んでいます。100%想定通りの反応があるとは限りませんが、徐々に思った通りの反応が返ってきて、それがうれしくてさらに研究する、というサイクルです。でもそのうちそれが習慣になって、自分自身初対面のいろいろなお客様と自然な会話を楽しめて一挙両得です」と笑っていました。
些細な部分かもしれませんが、個々のスタッフがお客様に提供したいと、それぞれ考えぬいて生み出す「差別化」された価値は、ある意味想いが入り、磨きがかかっているだけに、マニュアル的ではない分、かけがえがありません。
それが話の引き出し方であったり、チームとしての接客だったり、楽しそうなコーディネート提案であったり、スタッフの個性が出る部分でもあります。だからこそ、多様なお客様を取り込めるポテンシャルをどのお店も持っているのです。
トラフィックが減ってしまって・・・と嘆いても仕方がありません。逆に、来店数が少なく店舗が落ち着いている時期であれば、改めて「私たちが提供できる価値」を掘り下げて考え、「どのように提供すればベストか?」の仮説を立て、地道に検証し、ノウハウ化していくチャンスにできるのです。
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