■ブランド店長・スタッフに必要不可欠な4つの”シンカ”とは?
約25年前、西暦2000年前後、日本におけるラグジュアリーブランドビジネスはさらなる拡大、発展の途上にありました。バブル経済で膨らんだ余剰金を贅沢品に使う、その一過性の消費対象と見られていたインポートのファッションブランドが、その後もファンを惹きつける勢いが衰えることなく続いたことで、単なるブームでは終わらない基盤の強さを証明し始めていました。そこから、既存ブランドの出店ラッシュ、新しいブランドの出現により、多くの人がこの業界にスタッフとして入ってくるようになりました。約四半世紀の間には右肩上がりの成長だけでなく、いくつかの大きな経済危機やデザイナー変更による既存のファン離れと新規獲得の大変さ、インバウンドの波の変化などその都度苦労を乗り越える体験を経て今日に至ります。25年前初々しかった新人スタッフも、今ではベテランの域に入り、且つ多くの人がマネージャーになって店舗をリードしています。ラグジュアリーブランドの多くが外資系ということもあり、店長・スタッフはいくつかのラグジュアリーブランドを経験しているのが一般的で、ブランド業界全体を俯瞰してモノを見ることができる視点を持っています。
その中でも、顧客づくり、スタッフ育成等において素晴らしい貢献をしている店長の皆さんに改めて自分の仕事人生を振り返ってもらうと、「この仕事はいい仕事で誇りの持てる仕事。お客様に喜んでいただけて、自分も成長できて。だからこそスタッフにもこの仕事を楽しんでほしい」「自分も上司や先輩にここまで育ててもらった。だからこそ、スタッフ育成は自分なりに社会的責任、あるいはミッションだと思っている」という声が共通して聞かれます。そこには「職務基準書にそう書いてあるから」というレベルではなく、心からそう考えて行動している芯の強さを感じます。
そこで、「心からこの仕事はいい仕事だ、と思えるようになるために何が大切か?」と逆に質問すると、様々な体験をもとに意見を出してくれました。それを私なりに整理すると、以下の4つの”シンカ”が浮かび上がります。
①進化
確かにラグジュアリーというだけあって高額品。決して私たちのような人間が簡単に変える価格ではない。最初はそれに戸惑ったが、ブランドの製品が一つ出来上がってくるまでには多くの微に入り細に入りの複雑な工程を経て、ようやく完成した後も厳しい検査をパスし、大切に扱われて店舗まで運ばれてくる。パーフェクトを追求するクオリティの高さがあるからこそ、長い歴史を刻んで多くの人に購入され続けている。もちろん時代は移ろうため、同じことをしているだけではダメで、研究を続けて新鮮な驚きも提供しないといけない。まさに伝統と革新。歴史を大切にしつつ、未来を切り拓くためには同じところに留まっていてはいけない、つまりそれを扱う私たち自身、常に同じはない、という気持ちで柔軟にインプットし続けないといけない。でもそのワクワクがあるからこの仕事を楽しく続けられている。
②真価
ブランドの本当の価値は、製品そのものというより、その奥に息づいているフィロソフィー(哲学)にある。その本質がぶれないからこそ、そこに共鳴する人たちによって支えられ、歴史を刻める。もし流行に乗ってブランドのこだわりを捨てれば、目先は売れるかもしれないが、中長期的には価値を損ねてしまう。私たちの仕事は、「こちらの商品、人気ですよ」でも売れてしまうことも多い。しかしそれではプロとは言えない。大切なのは、このブランドがなぜ歴史を刻んでこれているのか、なぜこの商品を創るに至ったのか、ブランドを通して何を実現したいと思っているのか、をお客様に合わせて伝えていくこと。だからこそ”アンバサダー”と言える。同時に、自分自身も忙しさにかまけて本質を忘れて流されないよう、自分自身の軸をしっかり持つことが必要。素晴らしいブランドは仕事をするうえで肝に銘じるべき大切なことを暗示してくれている。
③深化
ブランドとしてしっかりその地域に根を下ろすためには、固定客づくりは不可欠。そのためにはお客様との関係、つながりを深めていく必要がある。お客様にはたくさんの選択肢がある中、うちのブティックに足を運んでもらい、時間を使っていただくだけの関係性をどうやって築いていくかは永遠の課題。これも同じことをしていては飽きられるだけ。来ていただくたび、楽しいと感じていただくためにどのように演出するか、そのための陰の努力は欠かせない。お客様との会話を大切にし、そこから得られた情報をもとに、次にどんな話題でお客様に楽しんでいただくか、何か用意できることはあるか、などを常に考え続けること。でもそれが自分自身も楽しい。且つ、お客様には常に誠実に向き合うことが必須。お客様が一番厳しい評価者でもある。だからこそ、自分自身を高め続けることができる。この仕事の一番の財産は、間違いなく私を信頼してくださるお客さま達。だからこそ裏切れないし、より関係を深めたい。
④真仮(本物と偽物)
これまで述べてきたように、ラグジュアリーブランドの発展を支える優れた店長・スタッフはプロフェッショナルを目指すという芯が通っています。ファッション=時代の先端だけに、フレッシュな感性も求められます。そのために自己成長を怠らず、問題にも果敢に向き合い、解決を目指して取り組んでいます。ブランド力で売れているときは「自分の実力」、何かの拍子に売れ行きが悪くなると、その途端「製品が悪い、会社のマーケティングがイマイチ、立地が悪い」と不平不満を言い始めるタイプとは大きく異なります。今はブランド品もスーパーコピーが出回り、本物と偽物の区別がつきにくくなっていますが、分かりにくいからこそ、製品の検品を厳しく行うように、ラグジュアリーブランドの多くは”店長やスタッフも本物でなければ通用しない”ことを強く認識し、他業界同様、あるいはそれ以上に熱心に教育投資、育成を行っています。「研修を受ける機会が多く、自分を見つめなおす良い機会を与えてもらえている」という声も多く聞かれます。本物であり続けるためにも、日々研究や切磋琢磨を欠かせないのがこの業界なのです。
以上、多くの店長のインタビューから、「4つの”シンカ”を認識し、それを大切にしていくことで仕事がよりハッピーにできるようになる」ということを私自身教えてもらえました。あるいは、それがその人自身の持つ才能という花を咲かせるという意味で真花につながるのかもしれません。あなた自身、あるいはあなたのお店のスタッフはいかがでしょう?改めて立ち止まってチェックしてみませんか?
★関連記事→真のサービスデザインは表舞台だけで終わらない!:ブランド価値を高めるサービスデザイン(2)
★お勧め本→『新しい店長のバイブル~業績を上げ続ける店舗はこうして創る!』(PHP)
★ラグジュアリーブランド研修についてはこちら→ラグジュアリーブランド研修シリーズ