■お客様へのレターがもたらすバリューとは?
今の時代、わざわざ便箋・封筒を使って手紙をしたためるという行為は日常的にほぼ皆無に近いのではないでしょうか。年賀状ですらLINEやSMSで十分代用できますし、書いたとしても便箋ではなく、ハガキでの短い文面で事足ります。私自身も昔は相手の顔をイメージしながら便箋選びをしたり、何度も書き直しをしながらようやく書き終えてほっとする、ということがありましたが、もう何年も前から便箋を買った記憶はありません。コミュニケーションの仕方自体がデジタルの時代の到来でがらりと変わってしまいました。
しかし、店頭での接客・販売の現場では、今でもお客様にレターを出すという行為は継続されています。以前ほど頻繁ではないにせよ、やはりいざというときはやはり直筆の手紙が重視されます。
主な理由として「直筆の手紙の方がお客様に読んでいただける確率が高い」=そのままゴミ箱行きにならず、いったんは開封してみよう、という気持ちになる(特に差出人を認識していれば余計にそういう気持ちになる)ということが考えられます。
人は、”直筆の文字”を通してより多くの意味をそこから読み取ります。たとえば
●「ああ、先日接客してもらったあの人からわざわざ何の用件かな?」
●「あ、あの人こういう字を書くんだ」
●「あまり上手ではないけど、一生懸命書いた字だな」
●「わざわざ私のために時間をかけて書いたんだ・・」
などなど。
そこで、何かしらの事前想定(期待)をもって封を開ける、という行為につながります。
大切なのは、そこで”期待を超える”ことができる内容になっているかどうか、です。
よくある失敗パターンとして「紋切り型のありきたりの内容」が挙げられます。
”新作が入荷したのでお越しください””イベントがあるのでお越しください””ポイントサービス期間なのでお越しください”などなど。
そういう内容であれば、むしろ機械的にDMとして出してもらった方が「期待を裏切られなくてよい」ということになりかねません。
すなわち手書きの宛名を見て「スタッフから気にかけてもらっている存在なのかな」というちょっとした特別感を感じたかったのに、内容は画一的、となると、むしろ”がっかりした”という気持ちにさせてしまっている可能性があります。
これではせっかく意味ある接客をし、時間をかけてお客様に手紙を書いても、すべての努力を無駄にしてしまう怖さがあるのです。
パーソナルである、ということが益々重要性を増す時代です。一貫してパーソナルであり続けることこそがお客様との関係性を深めることに直結します。
■お客様との関係を深めるレターにする5つのポイントとは?
では、逆にお客様からご覧になって「もらって嬉しい」あるいは「大切にしたい」と思っていただけるレターとはどのようなレターなのでしょうか?
接客自体喜んでいただけた、またその良い余韻が消えないうちに出す、誤字脱字がない、敬語が正しく使えている、殴り書きではない、などの基本マナーは大前提として、以下の要素が重要なカギになります。
①早い段階で自分の名前を伝える:先日接客をさせていただきました〇〇です。
ーお客様はお忙しい。覚えていてくださる前提ではなく、改めて自分を思い出していただくことで、今後の記憶にも刻みやすい
②特に盛り上がった会話内容を盛り込んで、改めて自分が感じた印象、感想を記述する:ジュディちゃん(お客様が飼っておられるワンちゃん)の動画を見せていただき、あまりの可愛らしさに心がとろけました。仕事中もジュディちゃんの愛らしいしぐさを思い出すと、私自身ふっと心が休まります。ありがとうございます。
③用件(お客様にとってのパーソナルなメリットを入れて)を伝える:実は〇〇様が一度ご覧になりたいとおっしゃっていた★★の新色がようやく当店に入荷する日が決まり、いち早く〇〇様にご覧いただきたくご案内を差し上げました。おっしゃるように本当に美しい色合いで、限定の商品ですので、是非この機会に実物を手に取ってご覧いただければ私も嬉しいです。
④具体的に行っていただきたいことを伝える(ご来店いただきたい、連絡をいただきたい、など):つきましては、今週か来週で〇〇様がご来店可能なお日にちを事前に教えていただけましたら、商品をすぐにご覧いただけるように準備させていただきます。私は●日●日以外は出勤しておりますし、私が不在でもスタッフが対応できるようにさせていただきます。
⑤ご来店メリットを再度伝えることで、お会いしたいという想いを伝える:〇〇様のお仕事がお忙しいことは重々承知しておりますが、●日からは百貨店の~イベントも始まりますので、リフレッシュもかねて〇〇を楽しんいただければ幸いです。またお目にかかってジュディちゃんの近況や海外のご出張のお話などもお伺いできることを心より楽しみにいたしております。
■レターは形が残るからこそ大切に書く
以前ある販売スタッフが話してくれたエピソードは、私にレターの重要性を再確認させてくれました。
3年ほど前接客したことがきっかけで、あるご年配のご夫婦がその後も”百貨店に寄ったから”と、顔を出してくださり、その都度いろいろなお話をしたり、時に私が提案した商品を気持ちよく購入いただける関係が築けました。私はそのご夫婦がひょこっと顔を出されることを心待ちにしていました。なぜならお二人のゆったりと優しい笑顔を見ていると田舎の両親を思い出し、仕事の失敗談などを話して励ましてもらうたび、私にとってかけがえのないお客様と思うようになったからです。
ところが、そのご夫婦があるときからぷっつりお顔を見せなくなりました。電話はしないでほしい、というリクエストがあったのでご連絡方法としてはレターしかなく、お会いしたい旨を書いてお出ししました。しかし、何の連絡もなく時が過ぎ去りました。私としては「もう嫌になられたのかな」と落ち込んで、手紙を出すのもおっくうになりかけました。でもやはりどうされているかが頭から離れないので、「嫌われたなら嫌われたで構わない。ただ、私としてはダメなところがあれば、直してでももう一度お二人とお話がしたい」という一心で月に2回はお手紙を書き続けました。半年以上過ぎて「さすがにここまで出しても音沙汰がないのであれば、これ以上はご迷惑になるかも」と思い始めた矢先、突然店頭に奥様のお姿がありました。
目が合った瞬間、私は「アッ」と声を上げ、近づきました。言葉が出てこず、むしろ涙が出そうになりました。奥様も何もおっしゃらず目を潤ませておられました。まずは私が落ち着かないと、と思い、「よろしければ」とテーブルにご案内し、まずは「お待ちいたしておりました。お会いしたかったです」と心の内を伝えました。すると奥様が「丁寧なお手紙をいただいておきながら、何も連絡せず本当にすみません。実は・・」とお話をしてくださいました。
お話によると、ご主人の体調が突然悪化し、入院ということになりかなりバタバタされたそうです。ようやく落ち着いて療養ということになりましたが、ご主人は気落ちして「もうどうでもいい」という気持ちになられてしまい、奥様もお困りだったそうです。
そこに私の手紙が届き、奥様は病室でそれを読み上げ、「早く治して〇〇さんに元気な姿を見てもらいましょうよ!」と励ましたそうです。ご夫婦も私のことを娘のように思っていてくださり、ご主人も「そうだな。それまでは病気のことは伝えず、驚かせてあげよう」と、それからはせっせと療養に励まれたそうです。奥様は私からの手紙が届くたび、「はい、プレゼントよ!」と渡してくださったとのこと。「あなたからの手紙が届くと主人にはつらい治療も超えようという意欲がわいてきたんです」。しかし、その甲斐もむなしく、先日ご主人は他界されたとのこと。
ただ、奥様は「これまであなたからいただいた手紙は大切にすべて取ってあり、お仏壇に供えてあります。主人もこんなに心のこもったお手紙をもらえて、いい人に出会えたね」と言ってました、とのこと。私はお話を伺いながら、離れていてもレターが私とお客様の絆を逆に深めてくれたんだと気づきました。あきらめないでよかった、とも思いました。
残念ながら、接客したすべてのお客様とここまで深い関係を築けるわけではありません。
しかし、だからこそ、ご縁を感じる方に対しては、お電話にしろ、お手紙にしろ、一つ一つの接点を通してよりバリューを感じていただける努力をし続けることは、私たちの仕事人生の豊かさにもつながっていくのではないでしょうか。
★関連記事→ブランドストーリー以上に大切な唯一無二の”パーソナルストーリー”でファンを創る!:ブランド店長問題解決講座(4)
★お勧め本→『新しい店長のバイブル~業績を上げ続ける店舗はこうして創る!』(PHP)
★ラグジュアリーブランド研修についてはこちら→ラグジュアリーブランド研修シリーズ