■中国人スタッフをマネージする店長の悩みとは?
先日、日本のブティックで働く中国人の女性スタッフと、その店長の双方から話を聞く機会があり、考えさせられることが多々ありました。そのスタッフは、このブティックでは初の外国人スタッフとして数か月前から働き始めました。入社経緯としては「アニメ等の影響もあり日本のに興味があり、留学。卒業後も日本で働きたいと思い、接客の仕事に就いた。将来は中国に帰ってビジネスをしたい」と思っているとのこと。英語も日本語も堪能で、接客に対してもアグレッシブです。
<店長から見たスタッフの現状>
(強み)
●特に海外からのお客様に対しては、「売れる」という自信があるため、攻めの姿勢でいける。実際に売り上げもいい。
(課題)
●業務面においては確認がおろそかになり、ミスをすることが他の日本人スタッフに比べると多い。その際は「あせらなくていいので、仕事は丁寧に」と伝えている。
●ミスもある意味仕方のないことだと思い、そのつど「これってどうかな?」「本当にこのやり方でいいのかな?」と気づいてもらえるように指導している。
●配慮していることとして、本人が萎縮しないよう、何かを依頼する際も「すみませんが~していただけないですか」というクッション言葉を添えるようにしている。
<店長の悩み>
成果も大切だが、チームの一員として安心して仕事を頼めるようになってほしい。しかし・・・
①就業時間ぎりぎりに入ってきて、仕事にとりかかろうとする。やんわり「スタートする際は余裕をもって来てね」とは言ったが、その後も改善されない。
②仕事を依頼する際、「本当に大丈夫?」と聞くと、必ずと言っていいほど「大丈夫です」と返ってくる。だからお願いすると、結果できていないことがある。「なぜできないとわかったら相談しないの?」と聞くと「できると思っていたので」という返事。
③「これはすぐにお願いね」と依頼したことでも後回しにしていることがある。「すぐに、とお願いしたよね」と指摘すると「別の~をやった後にやろうと思っていた」という言い訳が多い。
④些細なことだが、日々こういうことが発生することで、少しずつフラストレーションが蓄積。そこで先日、「些細なことかもしれないけど、もう少しホウレンソウとか意識してもらえるとすごく助かる。あなたの信用も上がると思うな」と伝えた。すると「私はやっていますけど。一体何が言いたいのですか。言いたいことがわかりません!」と反抗された。
今までそういうスタッフはいなかったので、店長としてはショックだったのと、「やっぱり日本人スタッフでないと難しいな」と実感した、とのこと。
■統制のしやすさに走ると逆に軋轢が生まれる時代!
店長の悩みはよくわかります。一方、中国人のスタッフの考えを聞くと、彼女は彼女で「適応しようと精いっぱいやっているのに、どこかうまくかみ合っていない」と感じ、同様にフラストレーションがたまっていました。相談できる人もいないため、毎日中国のおばあちゃんにメールをしているとのこと。決して意図的に反抗しようと思っているわけではないことがわかりました。
では、なぜこんなことになるのでしょうか?そのスタッフが育ってきた背景も考慮すると、ギャップの主な要因として以下のようなことが挙げられます。
①中国は日本以上に「契約社会」であり、契約の中で仕事をする。→就業時間が10時~とあれば、10時に職場に到着している状態を当たり前と思う。その認識を変えてもらいたい場合は、「10時にすぐに~にとりかかれるようにする前提での契約である」ということを事前に伝えておくこと。
②中国は日本以上に「無駄なく合理的」であることを重視する。→気づかせんがための「~で本当にいいのかな?」などの遠回しの言い方や「丁寧に」「すぐに」など具体性のない伝え方では伝わらないどころか、イライラさせる。→はっきりと「~までに~してください」「必ず~と見比べて数字が一致しているかを見てから~に取り掛かってください」とシンプルかつ具体的に伝える必要がある。
③日本ではクッション言葉をつける、という習慣を知らない人も多い。→「すみませんが~」は額面通り謝罪ととらえられるため、指示内容より「何を謝っているんだろう?」の疑問がわき、大事なことが伝わりにくくなる。→「~をしてください」と伝え、やってもらったら「ありがとう」のパターンで。
④中国では競争も激しく、上昇志向が強い人も多い。→「大丈夫?」と聞かれて「大丈夫ではない。できない」と自ら言ってしまうことはチャンスをつぶす。「まずは“できる”と言う」が当たり前。やってみなければわからない、という前提。→まずは任せる。その後、進捗をチェックし、「何%進んでる?」「あとの●%はどのくらいかかる?」「そこまでを~までに終えられる?」と具体的に聞く。
⑤中国では日本ほどこまめにホウレンソウを求められることが少ない。→どんな報告をどのタイミングで誰にすべきかまで指示する。
(注)上記はあくまで一般論なので(中国は広く、地域によっても個人によっても違いは大きい)当てはまらないケースもあります
しかし、最大の問題は文化・慣習の違いというより、マネージする側の私たちの認識かもしれません。
日本人は単一民族なので、暗黙のうちに「皆同じようなもの」という甘えに似た認識を持ってしまうリスクがあります。
たまにイレギュラーが発生すると「違いがあるのは当然」というより、「なぜ?」が始まります。その行き着く先が、○○さんは「変わっている」「常識を知らない」「調和できない」「自分勝手」となりがちで、最終的には「扱いにくい」となってしまう不幸なケースもあります。
しかし、グローバル化が進む中で、当然守るべきものがある一方、逆に「本当にその考え方・やり方・とらえ方は意味があるのか」を多面的な視点で見て、問い直す必要も徐々に出てきています。
そういう中で、「違った視点」「違ったやり方」「違った価値観」を持つ人材は、ある意味重要な情報源であり、新たな気づきを与えてくれる存在でもあります。
店長として、「統一」「秩序」を重視する気持ちは重々分かりますが、それはある意味、異なる価値観の人を管理しやすいよう固定化された枠の中に抑え込むことにつながってしまいます。
海外のスタッフが入ってくる、というだけでなく、これからはジェンダー・働き方・大切にしている価値観、様々な場面で多様性を踏まえた対応が求められる。それは「時代の転換期」を意味しており、パイオニアとしてこのチャンスを将来のためにどう活かせるかという発想で、日々「実験」していく、という心の余裕が新たな価値を生み出すことにつながるのではないでしょうか。
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